鳥山検校(市原隼人)にとっての本
その一方で、本が読めない人もいる。今は書籍を読み上げてくれるオーディオブックが存在するが、この時代、目の見えない人は誰かに読んでもらうしか本の世界に触れる方法はなかった。
高利貸しで巨万の富を得た鳥山は一見、光が当たる場所にいるように思える。けれど、彼自身は暗闇の世界で孤独を感じていたのかもしれない。
そんな鳥山にとって、自分のために本を読んでくれた瀬以(小芝風花)はようやく差し込んだ一筋の光だったのだろう。自分のそばでずっと瀬以が輝いていてくれるなら、鳥山は何でもしようと思った。
自分は本を読めないのに、読書が好きな瀬以のために書庫を与える鳥山は愛のある人だ。その愛は瀬以にもちゃんと伝わっているし、その想いに応えようとしてきた。
けれど、心までは誤魔化すことができない。鳥山は瀬以が自分ではなく、蔦重の隣にいる時が一番輝いていることに気づいてしまった。さらには2人の心を繋いでいるのが、自分の読めない本であったことが鳥山の心を深く傷つける。