市原隼人と小芝風花の演技合戦が見事!
瀬以を書庫に閉じ込めた上、蔦重を屋敷に呼び出そうとする鳥山。場合によっては蔦重を始末することも考えていたが、瀬以に強く止められる。
瀬以自身も未だ燻り続ける蔦重への思いが鳥山を傷つけていることは分かっていた。だからこそ鳥山の思いをしかと受け止め、蔦重への正直な気持ちを打ち明けた瀬以は、「こんなものは消えてしまえと、わっちとて願っておるのでありんすよ…」「信じられぬというなら、ほんにわっちの心の臓を奪っていきなんし!」と鳥山が握る刀を自分の胸に突き立てるのだ。
小芝の迫真の演技はもちろんだが、市原の受けの芝居もまた見事だった。市原はこの役を演じる上で、白濁した色のコンタクトレンズを着用している。そのため、読み取りづらいはずの感情が、市原の醸し出す雰囲気だけで伝わってくるのだ。瀬以の思いを知った鳥山からは戸惑いや悲しみの色が滲んでいた。
鳥山は誰よりも人の心の機微に敏感だ。相手が望んでいることも分かるので、人心を掌握するのも上手い。ある意味、計算高いとも言えるが、鳥山の場合は純粋に相手を喜ばせたいという気持ちが強いのではないだろうか。
でも、そのための手段が彼の中でお金しかなかったところが不幸なところだ。それで今までは何でも手に入ったのかもしれないが、瀬以の心だけは手に入れることができなかった。
もしかしたらこの先も共に人生を歩めていたら、瀬以が心から鳥山を愛おしく思う日が訪れたかもしれない。しかし、運命は残酷で、当道座による高利貸しを取り締まろうする幕府の手がすぐそこまで伸びていた。