遠い存在に思えた出来事が現実ににじり寄ってくる

ドラマ『地震のあとで』第1話©NHK
『地震のあとで』第1話©NHK

 1995年1月17日。兵庫県南部で起きた地震は、戦後最悪の被害をもたらした。拡大していく被害状況と増え続ける犠牲者の数が流れるニュース映像を見続ける妻の未名(橋本愛)に、夫である小村(岡田将生)は時折、声をかけるが、返事はない。

 眠っている形跡もご飯を食べている様子もなく、ずっとブラウン管テレビの前で微動だにしない未名が考えていることを、当時、まだ生まれていない筆者が容易に察することはできない。

 しかし、身の回りの現実はさして変わらないのに、画面から伝えられる絶望はたちまちに増幅していく。被害の全貌が露わになるにつれて、悲劇に具体性が帯びていく。どこか遠い存在に思えた出来事がどんどん現実ににじり寄ってくる不安は、今まで生きていて何度も身に覚えのある感覚だった。

 地震の発生から5日後。古村がオーディオ機器専門店の仕事から家に帰ってきたとき、妻の未名は「二度とここに戻ってくるつもりはありません」と書き置きを残して家を去った。

 未名の叔父から離婚届を渡されて、実感も湧かないままひとりになった古村は長めの有給休暇を取ることに。すると、同僚の後輩・佐々木(泉澤祐希)から余暇を過ごす旅先として北海道を提案される。さらに、もし北海道に行く気があるなら、釧路で小さな「箱」を妹に届けてほしいと頼まれるのだった。

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