荒んだ社会が生み出す歪んだ正義感

『いつか、ヒーロー』第2話©ABCテレビ
『いつか、ヒーロー』第2話©ABCテレビ

 トリプルマスクは「世直しチャレンジャー」という謳い文句で、ノノについて事実無根の批判を行う。

 ノノが国からもらったお金で美女と合コンをしたり、インチキ投資術で弱者を騙して金をゲットしたりしているというのだ。実際のノノは誰にも迷惑をかけたくないという思いから1人で生きることを選んだというのに…。

 この動画がきっかけとなり、群衆がノノを含むホームレスが暮らすエリアに押し寄せ、救急車で搬送される人が出るほどの騒ぎに発展した。

 動画の内容が真実であったとしても、視聴者が自分に直接関係しない人たちにこれほどの憎悪を抱くというのも考えものではないだろうか。“頑張って生きているのに辛い” “死に物狂いで働いているのに報われない”という思いがあるからこそ、見ず知らずのホームレスに対する憎しみが生まれるのだと思う。こうした群衆は荒んだ社会によって生み出されたといえよう。

 匿名のインフルエンサーが配信したヤングホームレスについての事実無根の暴露動画を見て駆け付けた人たちのうち、どれほどの数の人たちが道徳の観点から批判しているのか、疑問に思わずにはいられない。おそらく、群衆のほとんどが歪んだ正義感を振りかざすことで、日頃の鬱憤を晴らしたいだけだろう。

 その一方、ノノのホームレス仲間の男性は、ノノの家に近づいた誠司を泥棒と誤解して追い払おうとし、ノノが1人でいることも気にかけていた。私たちが厳しい社会を生き抜く中で忘れ去った正義感や心の豊かさが、社会と一歩距離を置いて暮らしているこの男には残っているように見えた。

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