黒川想矢と渡辺大知が難しい役を好演

ドラマ『地震のあとで』第3話©NHK
ドラマ『地震のあとで』第3話©NHK

 作品を通して印象深く映ったのが、子どもの頃の善也と大人になった善也をそれぞれ演じた黒川想矢と渡辺大知の芝居。少年時代の善也を演じた黒川想矢は、今まで築き上げられてきた信仰心を捨てて、実の母親や育ての親とも呼べる宗教家に反発する難しい役どころだ。

 しかし、自らの境遇に葛藤しながらも、当たり前に流れる空気に迎合せずに行動を起こす姿は、映画初出演作となった『怪物』(2023)で圧巻の芝居を披露した役柄とも重なる。反骨心を露わにする少年期の善也は、彼の無垢な魅力が最大限に引き出されるキャラクターでもあった。

 そして、大人になった善也を演じたのは、役者以外のさまざまな分野でも活躍を続ける渡辺大知。彼の虚ろな表情と振り切った全力投球の芝居もまた、視聴者の目を一身に惹きつけた。喪失を埋めるため、不安を消し去るため、善也はクラブでも球場でも無我夢中で踊り続ける。その姿は、どこかから見ているはずの「お方」に訴えかけているようでもあった。

 田端との会話では、心に諦観を居座らせながらも、一つひとつの思いを吟味するように言葉を紡いでいく。原作では善也の心の内は独白として描かれていたが、ドラマでは人間味を感じさせるようなセリフや描写に置き換えられており、渡辺の演技力が存分に活かされる脚本となっていた。

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