北川景子の迫真の演技

ドラマ『あなたを奪ったその日から』第1話©カンテレ
ドラマ『あなたを奪ったその日から』第1話©カンテレ

 過去のしあわせな時間と、空虚な現在の落差よ…。とくに心が痛んだのは、娘を失って間もなく出勤した保育園で、子どもたちを目の当たりにしたとき。ひとりの女の子が「先生?」と心配そうに歩みよると、紘海が「先生じゃないでしょ、先生じゃなくて、お母さん。言って、お母さんって」と迫りながら、その子をきつく抱きしめる。

 何度も何度ももう会えない娘に謝りながら、ぐしゃぐしゃに泣きじゃくる紘海の姿には、胸がキリキリと締め付けられるような思いがした。どうして紘海が謝らなきゃいけないんだと、いたたまれない気持ちになった。同時に、だんだんと、確実に、母が壊れていくさまを表現した北川景子の迫真の演技に、思わず震えてしまう。

 紘海をこれほどまでに追い込んだのは、娘を亡くした悲しみと、「YUKIデリ」社長・結城旭(大森南朋)への憎しみである。旭は当時の会見で、謝罪をよそに「子どもが何を口にするかは大人の手に委ねられている、何かあったら大人の責任」と述べた。

 この時点では本当に「YUKIデリ」に落ち度があったか定かではないが、遺族が見ているかもしれない会見で使う言葉にしては、あまりにも強い。紘海たちの心をえぐったその発言は、世間からもバッシングを浴びることになる。

「YUKIデリ」は倒産に追い込まれるが、1年経過しても、旭はなにも変わっていなかった。料理教室で旭と出会った紘海が、再び浴びせられた“子どもの責任は親にある”という言葉。紘海が復讐の衝動の引き金を引いてしまうには、十分すぎるほどの理由が揃ってしまった。

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