のんの声が「かえるくん」に輪郭を与える

ドラマ『地震のあとで』最終話©NHK
ドラマ『地震のあとで』最終話©NHK

 片桐が街のゴミ拾いをしている最中、ゴミの山から唐突に「かえるくん」(のん)が現れる。それはもう「かえるくん」と呼ぶ以外に言葉が見当たらないほど「かえるくん」だった。

 そして、同時にかえるくんの声を担当するのんの違和感のなさに驚く。透明感のなかに個性が滲むのんの中性的な声質は、得体の知れない生き物であるにもかかわらず、どこか素直で純朴なかえるくんに難なく馴染んでいた。

 本作の演出を務めた井上剛が「すごく難度の高い役を『あまちゃん』の2人に頼んだ」と語っている ように、橋本愛とのんの役柄は「実体をもたない存在」を相手にする難しい役どころだ。

 第1話で小村(岡田将生)の妻を演じた橋本は、ブラウン管テレビに映る阪神・淡路大震災の被害状況のニュースを凝視しながらも、画面の奥に広がる喪失と恐怖を見つめなければならなかった。

 そんな確固たる形を持たない概念は、片桐の目にしか写らないかえるくんにも当てはまる。それでも、のんが声のみで宿したかえるくんは、浮遊感を漂わせながらも地に足がついた存在として、視聴者が現実に捉えられるほどの輪郭があった。

 それは間違いなく、のんが声を吹き込んだ芝居でしかなぞることができなかった輪郭だった。

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