『地震のあとで』が4話かけて描いたもの
結局、片桐は今回もかえるくんと共に現場で戦うことはできなかった。混濁した意識のなかで、介護士である謎の男(錦戸亮)と凪のような時間を過ごす。その場所は、後悔が詰め込まれた人生から目を逸らすための空間だった。
しかし、片桐は最後の最後で「かえるくんにもう一度会いたい」と、自身がわざわざ地下へとやってきた目的を思い出す。かえるくんから「あなたくらい信用できる人はいません」と太鼓判を押されたように、片桐はどれだけバカにされようと、次の日には新しいゴミが散乱する歌舞伎町でゴミ拾いを続ける男だった。
地下駐車場で警備員をしているときも「居る意味があるのか」と車を運転していた男に吐き捨てられていた片桐。もしかすると、彼の自尊心を保つための存在として「かえるくん」は生まれたのかもしれない。片桐の影でもあるかえるくんは、彼の存在証明でもあった。
かえるくんは30年前に共闘した記憶を忘れていた片桐を肯定する。忘れることは、日々を安寧に過ごすための手段であり、思い出したときに記憶はより強固になる。
しかし、私たちが恐怖を忘れて過ごしているうちに、喪失は波を打ってはやがて押し寄せる。ドラマで描かれた出来事以外にも、多くの災厄が30年の間に日本を襲った。断続的な恐怖と喪失は、ふとした瞬間に風化した人々の記憶を浮き彫りにしていく。
それでも、4週にわたって放送された『地震のあとで』は、大きな災厄や暴力によって心にぽっかりと穴が空いた人々の喪失と、そんな彼らが喪失を埋めるために生きていく術を、リアルとフィクションを織り交ぜながら描いてくれた。
(文・ばやし)
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