「香川照之さんでなければ成立しなかった」サイコサスペンスドラマ『災』関友太郎監督・平瀬謙太朗監督インタビュー
「新しい手法が生む新しい映像体験」を標榜し、カンヌ国際映画祭などで高い評価を受けてきた監督集団「5月」。彼らが作る異色のサイコサスペンスドラマ『災』が、4月6日からWOWOWで配信中だ。今回は監督を務めた「5月」の関友太郎氏と平瀬謙太朗氏にインタビューを実施。主演・香川照之の魅力や演出の秘密について伺った。(取材・文:司馬宙)
——————————
憑依×テクニック― 主演・香川照之の凄み
関友太郎、平瀬謙太朗 写真:武馬玲子
ーーー5月はこれまで映画『宮松と山下』(2022)や3夜連続のオムニバスドラマ『あれからどうした』(NHK総合、2023)など、メディアの枠を超えて様々な作品を世に送り出してきましたが、ひとりの主演を据えた「連続ドラマ」は今回が初になりますね。
平瀬「そうですね。今回の作品は完全に主演の香川照之さんありきの企画でした。普段、僕たちは「新しい手法が生む新しい映像体験」ということをテーマに企画会議を行っているのですが、その中で、今回の『災』の原型となる連続ドラマのアイデアが生まれました。でも、想像してみると、主演俳優の力に多くを委ねる難しい内容だったので、机上の空論のような気も…。そんな時、もしかして、香川さんならば成立するんじゃないか、と。
香川さんに断られたら、この企画は畳むつもりで、背水の陣でオファーをしたところ、『ぜひ演ってみたい』というお返事をいただいて。そこでWOWOWさんに企画を持ち込むことになりました」
ーーー香川さんは、『宮松と山下』でも主演を務められていましたね。お二人が思う香川さんの魅力を教えてください。
平瀬「もちろん魅力はたくさんありますが、一番はやはり”一緒に議論しながら作ることができる”という点です。香川さんは常に、この作品で何を表現したいか、何に挑戦したいか、を深く理解した上で議論に参加してくれるんです。
また、当然ですが、お芝居の引き出しがとても多いです。事前に演技プランを僕たちにプレゼンしてくれるんですが、その中に、アイデアがふんだんに含まれている。この作品にも、香川さんから頂いたアイデアがたくさん散りばめられています」
ーーーでは、かなり役作りをして撮影に臨まれていたわけですね。
関 「そうですね。ただ、香川さんの場合は、テクニック型でありながらも憑依型でもあって、色々と演技プランを固めながらも、最終的に”役をおろす”んです。だから、テイクごとに演技が変わっていくんですが、どの演技もとても瑞々しくてリアルなんですよね」
ーーーそれは名優ならではのエピソードですね。ただ、テイクが繋がらないと編集が大変そう(笑)。
関 「確かに編集は大変ですね(笑)。ただ、私たちも香川さんの演技が見たくて、ついついテイクを重ねてしまいますし、やっぱりいい表情や芝居が取れるのが一番だと思うので、つながりよりも〝おりてきた〟芝居を優先していただいた方が嬉しいです」