「日常の違和感」を体現する画作り
平瀬謙太朗 写真:武馬玲子
ーーー本作といえば、なんと言っても「赤」が印象的な作品ですよね。タイトルバックの赤色もさることながら、役者さんの衣装に差し色として赤色が入っていたり、香川さんの背後を赤色の車が通過したりと、ほぼ全てのカットに赤色が入っているように感じましたが、この辺りはどこまで意図されたんでしょうか。
関 「意識してないよね(笑)」
平瀬「してない(笑)」
ーーーえ、してないんですか!?(笑)
平瀬「そうですね。自分たちが初めて赤を意識したのは、スタッフが作ってくれた台本を見た時です。全6話なので、台本が2話ずつ3冊あって、それが白、黒、赤で。『赤、格好いい!』って」
関 「とはいえ、演出ではほとんど意識してないですね。6話で坂井真紀さんが差す傘の色だけかな。だから本当に偶然です。すみません(笑)」
ーーーもしかすると、無意識のうちに影響を受けたのかも…。
平瀬「それはあるかもしれないですね。たぶん台本の赤が良かった感覚が残っていて、オフライン(撮影直後に行う仮編集)の時にタイトルバックやエンドロールに赤色を採用していきました。その結果、最後に映像をグレーディング(色味を調整)する時に、自然と赤が決まるようなトーンになっていったのかもしれません」
関 「でも、よく考えたらあの色、自然界には存在しないよね。だから、僕らが考えてなかっただけで、スタッフの方々は考えてくれていたのかも(笑)」
ーーーちなみに撮影は、『宮松と山下』に引き続き國井重人さんが担当されていますが、画作りの面では指示を出されたんでしょうか。
平瀬「他のスタッフから『越権行為じゃないか』って指摘されるくらい、色々と好き勝手意見をいいました(笑)。
今回は、ヨルゴス・ランティモスの『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』(2017)やNetflixのドラマ『リプリー』(2024)などを参考に、綺麗なんだけどどこか不安定さを孕んだ画にしたいよね、と相談していて。なので、國井さんが構えてくれた美しい画角を、あえてズラしてもらったり…。
ただ、國井さんはとにかく勘が良いので、撮影中盤からは最初から勝手にそういう画をつくってくれていたと思います」
ーーー確かに、今回のドラマは被写体の周囲が極端に空いた画が多いですよね。絵コンテはお二人が描かれているんでしょうか。
関 「基本的には僕がベースを作って、その後に平瀬君のフィードバックを取り入れる形で描き直しています。ただ、コンテって、作ってしまうと『これさえ撮っておけばいい』という考えになりがちなんですよね。なので現場では、コンテに捉われずに議論を重ねながら作るように心がけています」
ーーーちなみに照明の鳥羽宏文さんも『宮松と山下』からの続投ですね。
平瀬「鳥羽さんも本当に素晴らしくて、シーンごとに意味と狙いを丁寧に考えながら光を作ってくださるんです。僕たちにとって、こんなに心強い仲間は他にはいなくて、新作の企画が立ち上がると、何よりもまず初めに國井さん・鳥羽さんにお声がけして、2人の都合を聞いてからスタッフィングとキャスティングをはじめます(笑)」