「ムダ」がクオリティを担保する
平瀬謙太朗 写真:武馬玲子
ーーーお二人は今回、共同で監督をされたわけですが、指示系統が複数あるとどうしても現場が混乱してしまうのではないか、という印象があります。その点、現場で役割を決めているのでしょうか。
平瀬「ある程度決めていて、現場では、関君がキャストやスタッフへの演出的なコミュニケーションを担っていて、その間に僕はモニターを観ながらシーン全体のことを考えています。
互いの強みは生かし、弱みは補い合う。この点は、監督集団ならではの良さかなと」
ーーーちなみに、『宮松と山下』までは、お二人の恩師であるメディアクリエイターの佐藤雅彦さんが監督として参加されていました。今回、お二人になられてどのような変化がありましたか。
関 「3人監督の時は、アイディア出しや脚本の執筆を同時進行で行っていた印象があります。でも、今回は、僕が書いた脚本を平瀬君に読んでもらって意見を出し合う、という繰り返しだったので、共同作業というよりは一対一のキャッチボールのような感覚で進めていきました。その点は発見でしたね」
平瀬「現実的なことを言うと、3人監督って、3人でじっくり考え、議論しながら進んでいくので、アイデアが深まっていく分、合意形成に時間がかかるんですね。なので、制作期間の短いドラマでは良さが発揮しづらいような気がします。今回、自然と生まれた僕たち2人の進め方は、その点は克服されています。それぞれ違う良さがあるのかなと」
ーーーちなみに、お二人は佐藤さんには制作を通してどういうことを教わりましたか。
平瀬「『作品を良くするために、考えつづける』ということですかね。作品のためなら、締め切りギリギリだろうと、なんなら締め切りを過ぎていても新しいアイデアを考えつづけます。
世間からするとすこし非常識なので、この期に及んでまだなにか新しいトライをしようとしてるの?とか、時にクレームをもらうことも(笑)。ただ、僕らにはもうその姿勢が染み付いていますね」
関 「あと、とにかく手を動かしてみる、という点も大きいですね。映画やドラマの現場は、大所帯だし時間も限られているので、その場の空気というか多数決のようなもので、アイデアを試すこともなく一つの選択肢に絞ってしまうことが多々あります。でも、後々考えてみると、少数派の意見を採用すれば良かったということが結構あって、どうしても想像だけでは限界がある。
一方、佐藤さんの場合は、なんでも『とりあえず一回見せてください』って言うんですね。で、映像でもプロダクトでも、複数のパターンを見た上で判断を下すんです。その方が、明らかに確実な判断ができるんです。だから、僕たちも、意見がかち合った時はどちらのパターンも撮影してみて、編集の時にどちらを採用するかを決めるというのは心がけていました」
平瀬「複数のパターンを試すということは、正直、時間も労力もかかるし、最終的に選択されたなかった方はムダになってしまいます。でも、今回の音楽もそうですけど、たくさんのムダから生まれた上澄みが、本当に良いものだったりする。
だから、何事も、スタッフには『想像だけでは分からない』『とりあえずやってみて、それを観ながら相談しましょう』とお願いしていた気がします」