まだ誰も手をつけていない市場を開拓
きっかけは、新之助(井之脇海)との再会だった。俄祭りの日に松葉屋の女郎・うつせみ(小野花梨)と足抜けして以来、音沙汰がなかった新之助が突如、蔦重の店を訪ねてくる。
現在は人手不足の村で、本名の「ふく」に改めたうつせみと百姓として生活を送っているという新之助。足抜けに成功しても悲惨な末路を辿る者たちが多い中で、2人が平穏無事に暮らしていることが分かり、安心した視聴者も多いだろう。
そんな新之助がわざわざ江戸に来たのは「往来物」を入手するためだ。往来物とは、将来の仕事に必要な知識を得ながら、読み書きを学べる子供向けの教育書のこと。新之助は子供たちが商人や役人に騙されないよう、この往来物を使って勉強を教えているという。
往来物自体は一度板木を作れば何年も使えることもあり、どこの本屋も一式揃えていた。ところが、地方に目を向けると、需要はあるのにあまり流通していない。
その状況を好機と捉えた蔦重は往来物を制作し、地方に売り込むことを考える。まだ誰も手をつけていない市場を開拓するという商売の基礎は源内から学んだことだ。
噂を聞きつけた地方問屋はこぞって妨害に出るが、蔦重には一つ算段があった。それは吉原の太客である地方の豪商たちに監修という形で制作に関わらせ、本に愛着を持ってもらうこと。そうすれば、わざわざお願いせずとも、勝手に売り広めてくれるだろうと考えた蔦重。
さらに、鶴屋(風間俊介)や西村屋(西村まさ彦)から圧力をかけられていた彫師・四五六(肥後克広)と売り上げに関わらず毎年20両を払うという約束で専属契約を結ぶ。