ある種のずる賢さも蔦重(横浜流星)の魅力

『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第17話 ©NHK
『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第17話 ©NHK

 四五六の心を動かしたのは、単にお金だけではない。自分が彫った板木で作られた本は、四五六にとって娘のようなもの。それを同じように、我が子ごとく大事に思う人が大勢いる。その事実に四五六は職人心を刺激されたのだろう。

 かつて、りつが言っていた「ひんむきゃみんな人なんて同じなのにさ」という台詞が思い起こされる。人と人とが厳格な身分制度によって分けられた時代。

 蔦重にも全く差別心がないわけではないことは検校に対する過去の発言からも見て取れる。だが、本作りを通して様々な人と関わる中で、蔦重は身分によって違わぬ人心を学んだのではないだろうか。

 そこに付け入ると言うと聞こえが悪いが、ある種のずる賢さも蔦重の魅力だ。地本問屋たちにしてやられた経験も生きてるのだろう。そう考えると、無駄な出会いは一つもないのかもしれない。敵も味方も、失敗も成功も全て糧にして前に進んでいく。

 そんな蔦重の狙い通り、本に携わった人たちを拠点に売り先は加速度的に増えていき、江戸市中に囚われない独自の販路を見事開拓することができた。往来物を入手しやすくなったことで、もしかしたら地方の子供たちの識字率も将来的にアップするかもしれない。

 決意を新たに本格的な版元としてのスタートを切った蔦重はさっそく、『耕書堂』という名前に込められた「書をもって世を耕し、日の本をもっと豊かな国にする」という源内の思いに応える仕事ぶりを見せた。

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