不穏な家庭環境や過去がもたらす苦しみ

『いつか、ヒーロー』第5話©ABCテレビ
『いつか、ヒーロー』第5話©ABCテレビ

 職場でのゆかりは利用者にも職員にも対応が丁寧で、周囲が嫌がることも笑顔で引き受けているが、感情を抑えて我慢しているようであり、現状に満足していないように見える。それもそのはず、幼い頃に思い描いていた世界とは異なる世界で、生活がうるおうほどの給与ももらえず、汗を流しているのだから…。

 社会で揉まれると心が荒むといわれることもあるが、ゆかりは現実の厳しさを知ってもなお、10歳の頃と変わらないように見える。仲間のことを思いやる世話焼きのままだ。

 また、彼女は正直者でもある。人間とはかつての瑠生(曽田陵介)のように自分を大きく見せようとする生きものだが、ゆかりは身の上について見栄を張ることもなく、嘘も交えず浩介に話したようだ。

 二人の婚約解消の最大の理由は、ゆかりが浩介の人のよさに耐えられなかったからだ。自分が話したことを全部受け入れてくれて、才能に恵まれ、それでいて誰にでも優しく、“育ちのよさ”を実感したのだという。

 彼といると、自分が惨めで、醜くて、汚れているという気持ちが増すと胸の内を誠司に伝えていた。ステキな人と一緒にいると自分を卑下してしまうのは、繊細さや謙虚さゆえだ。とはいえ、ゆかりの場合は育ってきた環境の過酷さも、心の底から信頼できる彼を手放した原因だろう。こうしたことこそが、不穏な家庭環境や悲しい過去がもたらす苦しみだと思う。

 また、本放送では、ゆかり以外のことについても数々のことが明かされた。その中でもおどろいたのが、誠司と要蔵(でんでん)は外資系金融ファンドの一員であり、“失われた30年”の生みの親ということだ。また、十和子(板谷由夏)は誠司を兄といっていたが、正確には義理の兄のようだ。彼女の言い方だと、誠司は妻を殺したことになるが、どういうことなのだろうか。

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