父の見栄が、ちょっとだけ愛しく思えた日
えりなが海岸でよく出会う青年・優斗(西垣匠)によると、和平は仕事仲間にえりなのことを“ファザコン”、“父親への依存度が高い”と話していたらしい。これまで、長倉親子を追いかけてきたわたしたちは、そんなものは和平の作り話だとすぐに気づく。
だって、えりなが「お父さん、お父さん! これどう思う?」「食事連れてって!」「買い物連れてって!」なんて言っている姿なんて、見たことがなかったから。
でも、それが和平にとっての理想の娘像だったのだろう。「お父さん、お父さん!」と頼られ、本当はうれしいのに「もう、自立しろよ〜」なんてあしらう。もしかすると、多くの父親は、そんなふうに娘に頼られたい願望を持っているのかもしれない。
ただ、和平が仕事仲間にそんな嘘をついていると知ったら、かつてのえりななら、激怒していたはずだ。「嘘つかないでください」「本当に最低ですね」なんて罵っている姿が安易に想像できる。
しかし、大人になったえりなは、それを聞いて「むしろ可愛いなと思ったし、申し訳ないなとも思った」らしい。そして、「父と娘はこうだろみたいな感じとか、過剰に女の子扱いしてくる感じとか、ちょっとだけ嫌だったんだよね」と本音を伝えることができたのだ。
これは、一度家を出て、親の存在の大きさに気づき、嫌だと思っていたことが“過去”になったからこそだと思う。