吉原よりもさらに過酷な「夜鷹」
そこで喜三二の目が覚める。全ては病が治らないかもしれないという不安が見せた一炊の夢だったのだ。そのことにホッと胸を撫で下ろしつつ、未だ元気のない下の筆に肩を落とす喜三二は「これも夢だったりしねぇかな…」と呟いた瞬間、閃く。
こうして生まれたのが「見徳一炊夢」だ。金持ちの息子が親の金を盗んで「夢」を買い、栄華の旅に明け暮れるが、70歳になって戻ると家は手代(※使用人)が継いでいて、失意の中で修行の旅に出るストーリー。しかし、それは出前の蕎麦が届くまでの一炊の夢だったというオチになっている。
この作品を書き上げた喜三二はめっきり元気に。松の井に別れを告げ、今度は大文字屋の誰袖(福原遥)の側で次の新作を書き始める。まさに「夢から覚めてもまた夢」状態。新作を書き終わるまで出られないのは、ある種のご褒美だ。
一方、女郎は借金を返し終わるまで出られない。けれど、多くの女郎が借金返済を前に性病などで命を落としていることを考えると、死ぬまで出られないと表現する方が正しいのだろう。吉原は男にとって夢を見せてくれる天国のような場所であり、女郎にとっては現実そのもので地獄のような場所だった。
それよりもさらに過酷な状況下にあったのが、夜鷹である。様々な理由により遊郭で働けない女性は自分で客を取り、ひと目につかない地面にござを引いて、蕎麦一杯の値段でサービスを提供した。避妊もろくに出来ないので、望まれず生まれてくる子供もいる。唐丸(染谷将太)もその一人だった。