田沼家では「佐野」の逆襲のフラグが…。
次回からは大田南畝が登場。大田南畝は19歳で平賀源内にその才能を認められた、多彩な人物である。
戯作者だが黄表紙の評論家としても有名。「寝惚先生」や「山手馬鹿人」というペンネームを持ち(馬鹿人ってセンス、すごいな…)、人脈はやたら広く、当時、日本ではあまり入っていなかった「コーヒー」を飲んだことを書いた著作もある。
どうやら新しいものが大好きな、お調子者のオモロいオッサンだったようだ。演じるのは桐谷健太。ぴったり。似顔絵ともそっくりである。
今後、どんどん増えていく蔦重クリエイターズ。どんどん賑やか&華やかになるだろう。しかしそうなると同時に、影も濃くなっていくのが、物語のセオリーだ。
江戸城パートはずっと物騒だが、田沼意次の長男の田沼意知(宮沢氷魚)に不穏な影が。佐野政言(矢本悠馬)から預かった佐野家の家系図を、田沼意次(渡辺謙)が八つ当たりで湖にドボンし、さらには、佐野家から送られた祝いの桜を、意次が「いらん」と他の寺に送り。
田沼意次のこの何も知らずやっている残酷な行動が、息子・意知を死に追い詰めていく。史実では田沼意知は、1784年、佐野政言に殺される。第19話の時点で1780年。あと4年――。フラグはすでに立ちまくりである。
吉原パートでも、危険な香りをぷんぷん漂わせているのが、福原遥演じる花魁「誰袖」。重症でフラフラの大文字屋(伊藤淳史)に筆を持たせ、二人羽織状態で、
「500両で蔦重に身請けを許す」という文書を書かせていた。
そのシーンはユーモラスに描かれてはいたものの、なかなかのサイコパスであることは確か。今後、この、ネジが飛んだ無邪気な性格、と蔦重への一途で勝手で重すぎる恋心が、残酷な事件の引き金にならなければいいが…。
チャンバラはとても少ないが、「人の心の怖さ」はてんこもり。しかも物語は、自然災害や飢饉、寛政の改革など、揺れに揺れる「天明時代」に入ったばかりだ。たった8年、されど8年。世の中が大きく変化する時代のつなぎめを見届けよう。
【著者プロフィール:田中稲】
ライター。アイドル、昭和歌謡、JPOP、ドラマ、世代研究を中心に執筆。著書に『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)『昭和歌謡出る単 1008語』(誠文堂新光社)がある。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」を連載中。「文春オンライン」「8760bypostseven」「東洋経済オンライン」ほかネットメディアへの寄稿多数。
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【了】