鱗形屋が残した置き土産

『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第19話 ©NHK
『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第19話 ©NHK

 さて、第19回のサブタイトルは「鱗(うろこ)の置き土産」だが、鱗形屋が残した置き土産は2つある。1つは出版界に恋川春町という才能を。もう1つは蔦重に譲った版木だ。

 例の大火で唯一無事だったという版木は偶然にも、蔦重が生まれて初めて買った赤本「塩売文太物語」のものだった。

 その本は子供の頃、大事にしていた根付を井戸に落としてしまった瀬川(小芝風花)にあげた宝物でもある。親に捨てられ、楽しいことばかりではない吉原で育った蔦重と瀬川の心を守り続けてきた本は鱗形屋から出版されたものだった。

「俺にとっちゃ、こんなお宝ねえです。これ以上ねえお宝をありがとうございます!」と涙ながらに感謝を告げた蔦重。鱗形屋ももらい泣きしながら「うちの本読んだガキが、本屋になるってよぉ…。びっくりがしゃっくりすらぁ!」といい、蔦重と2人で大笑いする。

「塩売文太物語」と出会わなければ、蔦重は貸本屋にも本屋にもならなかったかもしれない。そう考えると、鱗形屋の置き土産は2つではなく3つ。蔦重という才能もまた、鱗形屋が出版界に残した置き土産と言えるのではないだろうか。

 放送後、片岡は「この時代みんな生き抜くことはとても難しい。こちらから見るとものすごい悪人に見えるけど、違う角度から見ると『この人がいるから成り立っている』みたいな感じって、今の社会でもどこでもあるわけです」とコメント。

「彼も悪いことをやろうと思ってやっていたわけではなく、すごく人間くさい人物だったと思いました」と鱗形屋の心情に寄り添っていた。
 
 そんな片岡の役に対する愛情が芝居にも滲み出ていたからこそ、鱗形屋は単なる憎まれ役ではなく、共感をも呼ぶキャラクターになり得たのではないだろうか。

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