セリフとは思えない…上白石萌歌“伊野尾”の演技に唸ったワケ。ドラマ『イグナイト -法の無法者-』第7話考察レビュー【ネタバレ】

text by ぱやし

ドラマ『イグナイト -法の無法者-』(TBS系)が放送中だ。本作は、争いの火種を見つけ、訴訟を焚きつけるダークリーガル・エンターテインメント。間宮祥太朗が、大金を稼ぐ“無法者”な弁護士を演じる。今回は、第7話のレビューをお届け。(文・ばやし)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】

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巨大権力にどう立ち向かう?

『イグナイト –法の無法者-』第7話©TBS
『イグナイト –法の無法者-』第7話©TBS

 これまでラスボスだと思われていた音部市長(髙嶋政伸)の証言により、新たな黒幕の正体が明かされた。それが事故当時の国交大臣であり、現在は内閣官房長官の座についている石倉庄司(杉本哲太)。彼は最先端の自動運転技術を用いたモビリティ・シティ計画を推し進める人物だった。

 その名前を聞いたピース法律事務所の一同の反応を見れば、どれだけ巨大な権力を相手にしているのか、視聴者もすぐに察しただろう。もしも事故を起こしたバスに搭載された自動運転システムの異常を、警察と省庁のトップが手を組んで隠ぺいしたことが事実であれば、もはや法治国家としての日本が根本から揺らぐことになる。

 だからこそ、轟(仲村トオル)は小さな法律事務所が巨大な国家の闇に切り込む大博打に、事件の関係者である宇崎(間宮祥太朗)はともかく、他のメンバーを巻き込むことを避けようとした。

 しかし、高井戸(三山凌輝)も伊野尾(上白石萌歌)も、その名を聞いたくらいでしっぽを巻くような人間ではない。特に高井戸が「誰かの因縁は俺らの因縁だし」と答えたときは、轟の「なんかキャラ変わったな」という言葉に思わず頷きつつ、宇崎のまっすぐな想いが燃え移っていくのを感じて、胸が熱くなってしまった。

 彼らだけでなく、桐石(及川光博)や浅見(りょう)も含めて、全員が一丸となって真相を暴こうとする熱がピース法律事務所に充満する。しかし、序盤のタイトルバックで映し出されたのは、言葉少なめだった伊野尾の思いつめた表情だった。

伊野尾(上白石萌歌)が10年前に遭った被害とは

『イグナイト –法の無法者-』第7話©TBS
『イグナイト –法の無法者-』第7話©TBS

 伊野尾は10年前、高校生のときに盗撮被害に遭っていた。浅見が口にした「頼るのにも勇気がいる」というセリフは、このエピソードを象徴する言葉である。

 伊野尾がバイクで移動する姿は、ドラマの冒頭から映し出されている。思い返すと、彼女は第3話で「法を知ることは声を出せるってことだから」と宇崎に話していた。その言葉は、彼女が弁護士を目指すきっかけにもなっていたのだ。

 ムードメーカーとして場を盛り上げる言動や、バイクでの移動以外はひとり行動を避けていたことも、常日頃から感じていた恐怖に対する防衛本能だったのかもしれない。しかし、卑劣な犯行のせいでトラウマを植えつけられたにもかかわらず、彼女を盗撮していた黒田(赤ペン瀧川)は、たった10ヶ月で釈放されていた。

 日本で逮捕された盗撮型犯罪者の再犯率は高い。そのデータを裏付けるように、今回、陸上大会で活躍していた女子選手・三浦彩音(伊礼姫奈)の盗撮に関与している人物のひとりに、過去に伊野尾を苦しめた黒田と思しき存在が浮上する。

“伊野尾”演じる上白石萌歌の凄さ

『イグナイト –法の無法者-』第7話©TBS
『イグナイト –法の無法者-』第7話©TBS

 盗撮事件に関わる出来事を想起してから、伊野尾はずっと声を震わせている。それでも、彼女は声を震わせながらも、確かな覚悟を持って、一つひとつの言葉を慎重に選んで彩音に伝えていく。

 そんな伊野尾を上白石萌歌は、セリフとは思えない瞬間があるほどのリアリティを込めながら、繊細に、そして力強く演じきる。彼女の過去のトラウマや葛藤を心に留めながら、今までユーモラスな芝居を披露していたのかと思うと、あらためて上白石萌歌の凄さを実感する。

 そして、特筆すべきは教室でのシークエンス。最初は宇崎もその場に同席していたが、彩音が親にも先生にも言えなかった本音を伊野尾に打ち明けたときには、宇崎の姿はない。長い時間をかけてこのシーンを描きつつ、彩音のカミングアウトにもきちんと配慮がなされているところも、制作陣への信頼を感じられるポイントだった。

 本来、彩音が持つ必要のなかった勇気。それでも、かつて浅見から託された「頼るための勇気」を彩音に手渡したのが、声を震わせながらも真摯に問題と向き合った伊野尾だったことは、これから彼女たちが堂々と前を向いて歩いていく希望の象徴でもあった。

背負い投げも厭わない、冴えわたる連携プレー

『イグナイト –法の無法者-』第7話©TBS
『イグナイト –法の無法者-』第7話©TBS

 すでに実力は折り紙つきである“カメレオン桐石”のおかげで、犯行現場を特定することに成功した宇崎たちは、彩音を盗撮しようとする集団を電車内で待ち伏せる。
 
 そして、「その子から離れて!」という叫び声とともに伊野尾が駆けつけると、彩音に指一本触れさせることなく、盗撮集団を一網打尽することに成功。逃げ出す黒田に対して迷わず背負い投げする宇崎に対しても、やりすぎだとは微塵も思わなかった。

 年少組3人がそれぞれの健闘を讃えあう一方で、年長組の轟はバス事故に大きく関わっているとされる自動運転システムを構築したGIテクノロジーズとの共同プロジェクトに参加していた吉野(濱正悟)を問いただしていた。

 轟の激昂を目の当たりにするたび、仲村トオルの声の凄みをひしひしと感じる。鋭さと重さを兼ね備えた彼の怒声によって、次回の放送を見るまでもなく、吉野が口を割るのは時間の問題だと思わせられた。

 彼が話す事実によって、どれだけバス事故の真相に近づけるのか。真相にいたるまでの距離は着実に縮まっている。

【著者プロフィール:ばやし】

ライター。1996年大阪府生まれ。関西学院大学社会学部を卒業後、食品メーカーに就職したことをきっかけに東京に上京。現在はライターとして、インタビュー記事やイベントレポートを執筆するなか、小説や音楽、映画などのエンタメコンテンツについて、主にカルチャーメディアを中心にコラム記事を寄稿。また、自身のnoteでは、好きなエンタメの感想やセルフライブレポートを公開している。

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