最後まで『対岸の家事』は視聴者に真摯だった…ディーン・フジオカ“中谷”の決断に背中を押されたワケ。最終話考察＆感想【ネタバレ】

2025/06/07

text by まっつ

多部未華子主演のドラマ『対岸の家事～これが、私の生きる道！～』（TBS系）が、現在放送中。専業主婦の主人公が、働くママや育休中のエリートパパなど生き方も考え方も正反対な「対岸にいる人たち」とぶつかりながら繋がっていく。今回は最終話のレビューをお届けする。（文・まっつ）【あらすじキャスト解説考察評価レビュー】

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視聴者に対して真摯だった『対岸の家事』

　ついに『対岸の家事』が最終回を迎えた。全員が救い、救われる美しい最後だった。周囲の主婦やパパ友を類まれなコミュニケーション力で救ってきたのが村上詩穂（多部未華子）。そんな彼女の前に最後に立ちはだかったのが父との問題だった。

　学生時代、彼女は家での家事を押し付けられ、我慢できずに飛び出してきたという過去がある。以来、父とは絶縁状態が続いていたが、自らのわがままによって娘の苺からおじいちゃんを奪っているのではないかと思い悩む。

　作品を通して詩穂はもう人生何周目なのかというほどに達観しているので、自然に許すという流れに進んでもドラマとして見ていられるのだが、そうすんなりとはいかないのがリアルかつ視聴者に対して真摯だったと思う。

　詩穂の夫である虎朗（一ノ瀬ワタル）は「許すも許さないも決定権は詩穂にある。詩穂の人生なんだから」と許容する。わがままだろうがなんだろうが、それもひとつの決断。

彼女の人生の行くすえを決められるのは彼女だけであるというのと同時に、どんな決断だったとしても常に詩穂の側に立ってくれる虎朗がいるというのは詩穂にとっても救いになったはずだ。「許さないといけないのかも」という方向に流れつつあった心境を一度フラットにして、詩穂は父・岡田純也（緒形直人）の下へ会いに行く。

許す・許さないの二元論でないリアリティ

　純也は自らが犯した過ちとしっかりと向き合っていた。それは比較的きれいに片付いている家の様子、そして料理を作る手さばきからも見て取れる。本人も語っていたように詩穂がいなくなってからというもの、家事の大変さを痛いほど知りながら毎日取り組んでいたのだろう。じゃなければ、急に揚げ物を振る舞うことなんてできない。

　たしかに一度は道を間違えたかもしれない。しかし、詩穂と再会してからの純也は誠実だった。ちゃんと謝り、「もし、また誰かの作ったご飯が食べたくなったら俺で良ければいつでも作るから」と声をかける。それは苦しかったときの彼女がまさに求めていた言葉だった。

　詩穂は返事をすることはなかったが、直後に苺に純也を「おじいちゃんだよ」と紹介する。一度はそっと家に戻ろうとした姿から、ほっと頬を緩める緒形直人の表情は何より雄弁で、手を取り合ったときには虎朗のように嗚咽しそうになってしまう。

　美しい和解の一方、母・理恵（長野里美）から幼少期に暴力を受けたこともあった中谷（ディーン・フジオカ）は謝罪を全面的に受け入れたわけではなかった。理解を示した一方で、「本当に僕のことを尊重してくれるなら待っていてほしい」と時間を求めた。それもまたひとつの答えであり、許す・許さないの二元論ではないというリアルをもってして私たちに寄り添ってくれる。

「話の通じない人」が出てこないことに救われた

　とにかく優しく、見る人の背中をぽんっと押してくれるようなドラマだった。最終話を含めて「話の通じない人」が出てこないことに救われた。詩穂と対話を重ねて同志となった礼子（江口のりこ）や中谷はもちろん、脅迫してきた白山はるか（織田梨沙）や詩穂の父まで話すことで一定の相互理解を得ることができた。

　世の中はドラマほど美しいものではないかもしれないが、悲観して追い込まれてしまうほど暗いものではない。そんな優しく、地続きにあるリアルを押し付けがましくなく、本作は示してくれる。もっと気楽に生きてみようかなと思えた人は決して少数派ではないはずだ。

　詩穂は、仕事を続けるか専業主婦となるか悩み続けていた礼子に「いっぱい迷って、いっぱい悩んで決めたことならそれは間違いじゃない」と言った。それがドラマを通して伝えたいことだったのではないか。

　どんな道へ進むとしても、自分自身で考え向き合って出した答えなら、あとで振り返ったときに「私の生きる道」と誇れるものになる。ドラマからはそんな前向きなメッセージがありありと伝わり、多くの人が心の中に大事にしまっておきたい作品となったはずだ。

【著者プロフィール：まっつ】

1993年、東京生まれ東京育ち。本職はスポーツウェブメディアの編集者だが、エンタメ・お笑いライターとして修行中。1週間に20本以上のラジオを聴く、生粋の深夜ラジオ好き。今一番聴くべきラジオは『霜降り明星のオールナイトニッポン』。好きなドラマは『アンナチュラル』、『いちばんすきな花』、『アンメット』。

【了】