小芝風花に代わってヒロインポジションに収まりそうなのは？大河ドラマ『べらぼう』第21話考察＆感想レビュー【ネタバレ】

2025/06/07

text by 苫とり子

横浜流星主演の大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』（NHK総合）が現在放送中。貸本屋からはじまり「江戸のメディア王」にまで成り上がった“蔦重”こと蔦屋重三郎の波乱万丈の生涯を描く。今回は、第21話の物語を振り返るレビューをお届けする。（文・苫とり子）【あらすじキャスト解説考察評価レビュー】

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屁が吹き荒れる“地獄の宴会”

『べらぼう～蔦重栄華乃夢噺～』第21話のサブタイトルは「蝦夷桜上野屁音（えぞのさくらうえののへおと）」。「桜と屁音？一体、どんなエピソード？」と最初は困惑したが、観終わってみると、これ以上ぴったりなサブタイトルはないと思わされる。江戸城では桜、吉原では屁が吹き荒れる“地獄の宴会”が開かれた。

　歌麿（染谷将太）に人気絵師・鳥居清長の画風を真似させ、西村屋（西村まさ彦）の看板商品「雛形若菜」と瓜二つの「雛形若葉」を出版した蔦重（横浜流星）。これを機に西村屋を吉原から追い出し、歌麿の名を売って、ついでに錦絵でも耕書堂の名をあげようと企んでいた。

　ところが、本家が売り上げを伸ばす一方で、「雛形若葉」は全く売れる気配がない。所詮は二番煎じで目新しさがない上に、パッと見はそっくりでも並べてみたら色の出方一つとっても差は歴然だった。この結果にどこかで少しホッとした視聴者も多いのではないだろうか。

　蔦重がやったことは、（「雛形若菜」はもともと蔦重のアイデアだが、版権を譲った以上は）いわばパクリだ。現代で言えば、ブランドの模造品を安価で売るようなもの。もし偽物の方が売れてしまったら、いくら相手が西村屋とはいえ、ちょっと気の毒になるところだ。

　さらに鶴屋（風間俊介）が北尾政演（古川雄大）とタッグを組み、売り出した青本「御存知商売物」がその年の番付で一等をとる。政演に戯作の才能があることを見抜き、的確な指示で完成までサポートした鶴屋の編集者としての手腕が大いに発揮された形だ。

歌麿（染谷将太）がヒロインに見えてきた…。

　どこかで修行するでもなく、ほぼ独学で本作りを始めた蔦重は鶴屋たちのような蓄積されたノウハウは持っていない。そう簡単に越えられてたまるか、という老舗のプライドを感じる。だとしたら、どうして西村屋も鶴屋も躍起になって蔦重を排除しようとするのか。

　きっと彼らが蔦重を脅威に感じる最大の理由は、大田南畝（桐谷健太）が言う「そうきたか」と世間をアッと驚かせる発想力にあるのだろう。細見をせんべいのような薄さにしたこともそう。

　まっさらな状態だからこそ、“こうあるべき”に囚われず、誰もまだ思いついていないような企画を生み出せる。老舗の西村屋と鶴屋が伝統を、新参者の蔦重が革新を、それぞれが担う形であれば、もしかしたら共存できるのかもしれない。現実はそう簡単ではないのだろうが。

「そうきたか」という言葉からヒントを得た蔦重は、四方赤良（南畝の狂名）の狂歌集発売に合わせて南畝の青本を売り出すことに。人のアドバイスを素直に受け入れ、即座に吸収してアウトプットできるのも蔦重の才能だ。

　さらに歌麿の作画で吉原の景色の中で女郎を描いた錦絵を出そうとするが、忘八たちの反対に遭う。確実に売るためには、すでに名のある絵師を起用した方がいいと。出版費用を肩代わりしてもらう手前、強く出れない蔦重は仕方なく今回は政演に依頼することを決める。

　その決定に少しばかり肩を落としながらも、あっさりと受け入れる歌麿に「お前は蔦屋史上とびきりの『そうきたか』になんだ。俺がそうしてえんだよ」と言い聞かせる蔦重。

　歌麿はその言葉にまんざらでもない表情を浮かべるが、きっと彼は有名になりたいわけじゃなく、ただ蔦重に喜んでほしいだけなのではないだろうか。何だかだんだん、歌麿がヒロインに見えてきた。

恋川春町（岡山天音）が大暴れ

　蔦重は少しでも歌麿の顔を売るために、戯作者や絵師、狂歌師などを招き、宴会を開く。そこで大暴れするのが、恋川春町（岡山天音）。原因は絶賛フィーバー中の政演だ。

　絵師としてはもちろん、戯作者としても花開いた政演だが、もともと二刀流といえば春町だった。ところが、今や世間の視線は政演に注がれている。しかも、番付で一等をとった政演の「御存知商売物」は、春町の「辞闘戦」を下敷きにしていた。

　自分がうまくいかなかった鶴屋と上手に付き合っているのも気にしているのではないか。編集者と作家の相性は大事だ。政演は蔦重と一緒で、人の指図を素直に受けて、参考にするタイプ。こだわりが強い春町はある程度自由にやらせてもらった方が実力を発揮するタイプなのだろう。

　とは言っても、気にしてしまうのが春町の性分だ。さらには蔦重のところで錦絵デビューを飾ると聞き、ジェラシーを募らせる春町を朋誠堂喜三二（尾美としのり）が「まぁあいつ女好きだからな！」と必死でフォローするが効果なし。南畝ら初対面の狂歌師たちともすぐに仲良くなってしまうお調子者の性格も春町は気にくわなかった。

　それなのに狂歌だけでなく、空気も読めない政演が「ここはひとつ戯作者も狂歌詠めんだって目に物見せてやっさあ大変。ベロベロになった春町は、政演のみならず、南畝や喜三二をも批判する狂歌を詠みながら、大暴れする。

　先生方が寛容だったからいいものの、乱闘騒ぎになりかねない状況を止めたのは、まさかの次郎兵衛（中村蒼）の屁。一同大爆笑で「俺たちは屁だぁ〜！」という南畝の掛け声とともに、全員で屁踊りを始める。

　しかし、余計惨めになってしまったのか、春町は筆を折って退場。春町のキャラ崩壊も含め視聴者としては面白く観させてもらったが、蔦重にとっては心休まらぬ“地獄の宴会”だったことだろう。

誰袖（福原遥）がまさかの一目惚れ？

　蔦重よりもさらに“地獄の宴会”を味わったのは、田沼意次（渡辺謙）だ。蝦夷地を治める松前家第8代当主・松前道廣（えなりかずき）が江戸城に招かれ、宴会が行われる。

　ところが、家来の1人が何か粗相をしたのだろう。道廣はその男の妻を桜の木に括り付け、その周りに並べた皿を的に火縄銃を発砲。男は泣いて詫び、女は怯えきった表情で悲鳴を上げる、まさに地獄絵図だ。

　意次も顔を歪める極悪非道な行いとは対照的に、まるで仏のような笑みを携えている道廣。鶴屋、一橋治済（生田斗真）と似たタイプだが、2人の方がまだ表向きは善人を装っている分、人間味がある。しかも、道廣は治済と親しい間柄のようで、手を組んだら何をするか分かったものではない。

　そんな2人を相手に、意次は幕府の金蔵を潤すため、蝦夷地を上知（藩主から土地を没収すること）して、港を開いてロシアとの交易を始めるとともに、蝦夷地で採れるという噂の金の採取する計画を進める。

　しかし、上知には正当な理由が必要。そこで、港で噂される松前家とロシアの抜荷（密貿易）の証拠を掴むことに。その役目を担うのは、意次の息子・意知（宮沢氷魚）。

　意知は蝦夷地に詳しい旗本の土山宗次郎（栁俊太郎）に接近するため、「花雲助」と名を偽って吉原に潜入する。そこで、意知に一目惚れするのが土山の敵娼である誰袖（福原遥）だ。幼い頃から蔦重一筋だった誰袖が初めて心惹かれた初の男性。上手くいってほしい気持ちはあるが、史実を知る限りでは悲恋になってしまいそうだ。