阿部寛の有無を言わさぬ演技に鳥肌…物語の終着点に待ち受ける巨大な闇とは?『キャスター』第9話考察&感想【ネタバレ】
ドラマ『キャスター』(TBS系)が現在放送中。本作は、テレビ局の報道番組を舞台に闇に葬られた真実を追求し、悪を裁いていく社会派エンターテインメント。3年ぶり6回目の日曜劇場主演となる阿部寛が、型破りなキャスターを演じる。今回は、第9話のレビューをお届け。(文・ばやし)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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進藤(阿部寛)に襲い掛かる黒幕
2,000万円の官房機密費をもって進藤(阿部寛)と羽生官房長官(北大路欣也)の間で交わされた裏取引が、今になって週刊誌にスクープされる。そして、新たに勃発した「騙し合い」の火蓋を切ったのは、これまで進藤を慕い行動していた本橋(道枝駿佑)だった。
ただ、そもそもの火種となった週刊誌へのリークは、彼の本意ではなかったようだ。前回のラストで、今までは見せてこなかった冷たく無機質な表情をしていたので、進藤たちと敵対する存在になることも覚悟していたが、とりあえずは安堵した。
とはいえ、進藤(阿部寛)の失脚を喜ぶ勢力が存在するのは確かだ。特に、進藤によって政界を追いやられた羽生真一(内村遥)と、彼の秘書である池内(松尾諭)はその筆頭とも言える。
そして、43年前の自衛隊C-1輸送機墜落事故に関連する土地を管理している景山重工の会長でもある景山英嗣(石橋蓮司)はもちろんのこと、彼と50年来の付き合いがある国定会長(高橋英樹)もそのひとり。
自らが「ニュースゲート」のキャスターとして連れてきたにもかかわらず、進藤を番組から追放しようとするのは解せないが、「国定会長のねずみ退治は昔から徹底していますから」という英嗣の言葉のとおり、彼が黒幕として都合の悪い事象を揉み消していることは、もはや疑いようのない事実となっていた。
阿部寛の有無を言わさない芝居の凄み
43年前に起こったガス漏れによる爆発事故によって、不可解な死を遂げた進藤の父親・松原哲(山口馬木也)。東都新聞の記者でもあった哲は、山井の父親である和雄(山本學)とも親交があった。
奇しくも、息子たちは同じ報道番組に携わるものとして、紆余曲折がありながらも「ニュースゲート」を立て直してきた。しかし、43年の時を経て、当時と同じような状況下で山井プロデューサー(音尾琢真)はガス漏れによる爆発に巻き込まれてしまう。
前回から予感はあったものの、まさに進藤の身代わりになる形で山井プロデューサーが亡くなったことがやるせない。進藤がここまで取り乱す姿を見せるのも初めてのことだった。
火に飲み込まれる食堂に向かって叫ぶ姿はもとより、事故現場から生放送で情報を正確に届けながらも、山井を偲ぶ言葉を紡ぐ進藤の顔には忸怩たる思いが滲む。
表情はほとんど変わらないにもかかわらず、怒りや後悔が目に見えて溢れ出す様を観て、あらためて阿部寛の有無を言わさない芝居の凄みを実感した。
「誰が止めると言った…弔い合戦だ」
これまでも「ニュースゲート」の制作陣たちが協力して、スクープを報道する放送回を作り上げることは何度かあった。しかし、総合演出の華(永野芽郁)を筆頭に、上司を出し抜いて本来とは違うVTRを流すこともしょっちゅうで、報道局長の海馬(岡部たかし)らがサブで慌てふためく様子はもはや恒例行事となっていた。
ただ今回、本橋が官房機密費の贈収賄疑惑を生放送で問い詰めようとしたとき、進藤が突如として報道フロアに現れても、海馬は「撮るしかないだろ」と放送を続行して、ディレクターの梶原(玉置玲央)も華の指示に素直に従う。
進藤と華の破天荒な行動に周囲が慣れてきたことも影響しているのかもしれないが、リアルタイムで状況が変化する中でも、「真実」を報道するための連携が少しずつ構築されているのが一連のシーンからも見てとれた。
仲間の死によって残された面々が一致団結するのは、少し安直な展開にも思える。ただ、海馬を演じる岡部たかしが机を叩きながら発した「誰が止めると言った…弔い合戦だ」のセリフが聞けたことで、そのモヤモヤも多少は晴れた。彼の熱を帯びた言葉は、ドラマ『エルピス-希望、あるいは災い-』(カンテレ・フジテレビ系、2022)で岡部が演じた村井の姿を彷彿とさせるようで、心にグッとくるものがあった。
「騙し合い」は最終話までもつれ込む
本エピソードの「騙し合い」において、もっとも多くの人々を欺いていたのは、秘書の池内でもセンター長の江上でもなく、JBNで編成を担当する滝本(加藤晴彦)だったのではないだろうか。
前回のレビューでも触れていたとおり、滝本は見るからに怪しい動きをしていた。今回も本橋のPCを滝本が無理矢理預かっているシーンが映し出されており、国定会長の差し金で動いているのだと半ば諦めていたところで、進藤と結託して景山重工の悪事を暴いて見せたのだから一泡吹かされた。
しかし、彼が進藤のスクープを週刊誌にリークするなどして、国定会長からの指示で動いていたスパイではないのなら、その疑惑の人物は別に存在することになる。
本橋のPCを廃棄受付へと持っていったのは、指輪をしている指が映ったことから、編集長の市之瀬(宮澤エマ)だろうか。さらに、そのPCを巧みに持ち去った清掃員の鍋田(ヒコロヒー)の正体に関しても、とうとう最終話まで明かされることなく持ち越されてしまった。
江上(井上肇)にメッセージで指示を出していた人物の正体も判然としない。43年前にガス爆発を起こすためにライターを投げたのが国定会長ならば、今回の事故にも関わっていると推理するのが自然だろうが、立場上、彼が自ら犯行を行ったとは考えにくい。
正直、ライターの件がなくとも、すでに国定会長は真っ黒だった。だからこそ、この「騙し合い」にはまだ続きがあるはずだ。物語の終着点に待ち受けている巨大な闇を作り出したのは誰か、巻き込まれたのは誰か。最終話で「真実」が報道される、その時を待ちたい。
【著者プロフィール:ばやし】
ライター。1996年大阪府生まれ。関西学院大学社会学部を卒業後、食品メーカーに就職したことをきっかけに東京に上京。現在はライターとして、インタビュー記事やイベントレポートを執筆するなか、小説や音楽、映画などのエンタメコンテンツについて、主にカルチャーメディアを中心にコラム記事を寄稿。また、自身のnoteでは、好きなエンタメの感想やセルフライブレポートを公開している。
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