「マスク越しでもこれだけ伝えられる」ドラマ『Dr.アシュラ』監督・プロデューサーが語る、松本若菜の芝居の魅力とは?

text by 望月悠木

こしのりょう作の同名漫画を原作としたドラマ『Dr.アシュラ』(フジテレビ系)。今回は、本作の監督を務める松山博昭さんと、プロデューサーの狩野雄太さんにインタビューを敢行。医療ドラマとして刺激の強い表現がたびたび登場する本作制作へのこだわりや、主演の松本若菜や佐野晶哉との撮影裏話をお聞きした。(取材・文:望月悠木)

——————————

「1話のクライマックスがすべてを決定づけた」
松本若菜の芝居の説得力

『Dr.アシュラ』第2話©フジテレビ
『Dr.アシュラ』第2話©フジテレビ

―――お二人から見て、『Dr.アシュラ』の注目ポイントはどんな所ですか?

狩野「松本若菜さんの繊細なお芝居ですね。特に、マスク越しで感情を伝えるというのは本当に難しいことなんですが、松本さんは目線や表情のわずかな変化などで、非常に丁寧に向き合ってくださっています。彼女が『どう感情を表現するか』にはぜひ注目してほしいです」

松山「僕が挙げたいのは、第1話のクライマックスである“トンネル事故”のシーンです。実はこのシーン、撮影スケジュールの都合でクランクインしてから3日目、つまり撮影序盤で撮らざるを得なかったんです。医療シーンの撮影もまだしていない段階で、しかもいきなり重要なクライマックス。正直、『もっと軽めのシーンから入りたかったな…』と不安は大きかったです。ただ、結果的にそのシーンが全てを決定づけることになりました」

―――と言いますと?

松山「朱羅(松本)がトンネル事故で倒れていた少女・陽菜(池村碧彩)に心臓マッサージをするのですが、心拍が戻った瞬間に、朱羅が見せた“心からホッとして泣きそうな表情”がとても印象的でした。

実は、クランクイン前までは朱羅はあまり感情を表に出さない、ある意味で機械的なキャラクターを想定していたんです。でも、あのシーンでの松本さんの表情を見た時に、『あ、この人は“人を救った瞬間だけ”感情がにじみ出るんだ』と思って。普段はクールでも、救命の手ごたえを感じた時には心からの表情が出てしまう――そんなギャップがすごく魅力的だと感じました」

―――朱羅のキャラクターは、当初の想定から若干修正されたのですね。

松山「はい、松本さんのお芝居にはそれほどの説得力がありました。第1話のクライマックスを最初に撮影したことで、“無感情に見えても、その奥には熱いものを秘めている”という人物像が明確に見えたんです。そこから逆算して、前段のシーンを積み上げていくことができました。なにより、あのシーンが“杏野朱羅”というキャラクターの核を形作った瞬間だったと思います。視聴者の方もあのシーンを軸に見てもらえると、また違った角度からドラマを楽しめるのではないでしょうか」

「朱羅をいかにカッコよく、美しく見せるか」

『Dr.アシュラ』第8話©フジテレビ
『Dr.アシュラ』第8話©フジテレビ

―――毎クールさまざまな医療ドラマが放送される中で、本作が特に意識されたのはどんなところでしょうか?

松山「“リアルな医療”にどこまで寄せるかについては、今回はあえて距離を置いています。本作では何よりも『朱羅をいかにカッコよく、美しく見せるか』がテーマでした。演出のイメージとして、『西洋の教会のような荘厳な空間で、後光が差す中、彼女がオペを行う』――そんなシーンを思い描いていたんです。これまでの医療ドラマでは、オペ室といえば蛍光灯が煌々と照らすリアルな雰囲気が主流です。でも今回は、その定番から敢えて離れ、『リアルよりもビジュアル・インパクト重視』で進めようと決めていました」

―――実際、オペ室のセットは従来の医療ドラマとはまったく違う雰囲気でしたね。

松山「実際の窓よりももっと大きく、ライティングも蛍光灯の上からの光ではなく、そこから夕陽が差し込むような強いサイド光を意識しました。また、壁はレンガ調にして、明暗のコントラストが映えるよう、空間全体をダークトーンでまとめています」

―――原作漫画は9年前に完結しており、現在の医療現場とは乖離した部分もあるかと思います。原作から変更したところはありますか?

狩野「大きく変えたのは『マスクの扱い』です。原作の連載当時はコロナ禍前だったので登場人物たちはマスクをしていなかったのですが、コロナ禍以降、実際の救急科の“初療室”に見学に行かせて頂いた際は、マスク着用がスタンダードでした。マスクをすると役者の表情が見えづらくなるというリスクはありましたが、ここでは現代のリアルを優先する判断をとりました」

松山「正直なところ、『このシーンはマスクなしでも良いじゃないか』という迷いもあったのですが、『今の時代にそれはあり得ない』という意見もあったので、マスク着用で統一しました。ただ、松本さんのお芝居のおかげで『マスク越しでもこれだけ伝えられるんだ』と驚きましたね」

「一切見せずに視聴者の想像に委ねてしまうのも違う」
治療シーンの演出方針

『Dr.アシュラ』第7話©フジテレビ
『Dr.アシュラ』第7話©フジテレビ

―――本作では、オペ中の出血量や切断描写など、視聴者に“グロさ”を感じさせるシーンが目立ちます。その演出意図とは?

松山「患者にどれほどの危機が迫っているのかを表現するためです。やはり、大怪我をして搬送された人が大した出血もなくケロッとしていたら、深刻さが視聴者に伝わりませんから」

狩野「たとえば、腕が切断された患者が運び込まれてきて、腕の部分を一切見せずに視聴者の想像に委ねてしまうというのも手法としてはありますが、今回はそれを選択しませんでした。だからといって過剰にリアルを追求すると視聴が難しくなることもあるので、バランスはとても重要です。そのため、切断された部分は暗めの照明で処理したり、写し方を工夫してグロテスクになりすぎないよう配慮しています。切断された耳が登場するカットも、実は4パターンほど撮って、『どれなら視聴者が“耐えられる範囲”に収まるか?』をチームで検討しました」

―――その判断基準はどのようにして決めるのですか?

松山「明確な規制ラインがあるわけではないので、結局は制作側の主観になりますが、緊張感は持たせつつも過度な嫌悪感を与えないよう、テクニックを駆使しています。たとえば、オペ中に“くちゃくちゃ”と鳴るところは、音量を落とすのではなく、BGMで生々しさを緩和する工夫をしています」

松本若菜&佐野晶哉の撮影裏側は?

『Dr.アシュラ』第4話©フジテレビ
『Dr.アシュラ』第4話©フジテレビ

―――撮影中に印象的だったエピソードはありますか?

狩野「患者役の方々は、実は医者役以上に大変なことが多いんです。長時間、固い処置台の上で寝たきりの姿勢を保たなければならず、肉体的にも相当ハードです。だからこそ、松本さんをはじめとするキャストの皆さんが、患者役の方々を本当によく気遣ってくださっていて。その思いやりが現場全体の雰囲気をとても温かいものにしてくださっています」

松山「松本さんの気配りには、毎回驚かされています。たとえば患者の口にチューブを挿入するシーンでは、3センチほど入れて止めるのですが、我々スタッフが説明すべきところを松本さんが自ら丁寧に伝えてくれていたんです。撮影が終わった後には、モニターや医療機器のケーブルを自ら外してあげたりと、本当に頼りになります。まあ、本来なら俳優さんにそこまでさせちゃいけないんですけどね(笑)」

―――劇中では朱羅に振り回される研修医の薬師寺のコンビも見どころですが、演じている松本さんと佐野晶哉さんはどのような雰囲気なのですか?

狩野「姉弟みたいですね。みなさん食べ物の話をよくしているのですが、2人とも『この前こんなものを食べた』というような話をしています(笑)。そのやりとりからも、自然と上下関係のようなものが見えてくるというか、まさに姉弟のようです」

―――最後に、本作をどのように楽しんでほしいですか?

狩野「見てくれる人が好きなように楽しんでもらえたら嬉しいです。強いて言えば、命を救うという行為がどれだけ尊いもので、現実にもそうした使命を背負って奮闘している人たちがいるということを、このドラマを通して少しでも感じてもらえたら嬉しいです」

松山「毎話異なる患者が登場し、それぞれに違う背景や事情があります。朱羅たちがどのような覚悟や思いを持って患者に接しているのかが伝わればと思っています」

【著者プロフィール:望月悠木】

フリーライター。主に政治経済、社会問題、サブカルチャーに関する記事の執筆を手がけています。今知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けています。(旧Twitter):@mochizukiyuuki

【関連記事】
【写真】松本若菜の美しさに魅入られる…貴重な未公開写真はこちら。ドラマ『Dr.アシュラ』第8話劇中カット一覧
まさかの結末に呆然…松本若菜“朱羅”の言葉が胸に響くワケ。『Dr.アシュラ』第8話考察&感想レビュー【ネタバレ】
今、最も同業者にファンが多い女優は? プロ絶賛の演技派5選
【了】

error: Content is protected !!