ギャップがすごい…及川光博“桐石”に惹きつけられたワケ。ドラマ『イグナイト -法の無法者-』第8話考察レビュー【ネタバレ】

text by ぱやし

ドラマ『イグナイト -法の無法者-』(TBS系)が放送中だ。本作は、争いの火種を見つけ、訴訟を焚きつけるダークリーガル・エンターテインメント。間宮祥太朗が、大金を稼ぐ“無法者”な弁護士を演じる。今回は、第8話のレビューをお届け。(文・ばやし)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】

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ピース法律事務所の微笑ましい人間関係

『イグナイト –法の無法者-』第8話©TBS
『イグナイト –法の無法者-』第8話©TBS

 5年前に事故が起きたバスには、政府の後ろ盾を得た開発会社「GIテクノロジーズ」の自動運転システムが搭載されていた。

 闇サイトを運営していた吉野(濱正悟)に「殺し屋みたいな目」と形容されながらも、轟(仲村トオル)が鋭い眼光で尋問して手に入れた情報。政府からの多額の助成金やテスト走行の強行など、一つひとつは些細な疑念でも、幾重にも積み重なれば巨大な闇となる。

 しかし、かつては小さなベンチャー企業だったGIテクノロジーズも、今では業界でも国内有数の企業。その牙城は簡単には崩せない。そこで突破口となったのが、システムの導入事例がある東亜病院の案件だった。

 脳動脈瘤の手術を受けた2日後に、くも膜下出血で亡くなる。唐突な父の死と病院側の対応に疑問を抱いていた依頼人の菜々子(堀田茜)の話を聞き、宇崎(間宮祥太朗)たちは彼女の父の手術を担当した執刀医の河野(坪倉由幸)に狙いを定める。

 病院に探りを入れる捜査パートでは、ピース法律事務所の人間関係の変化も現れていた。前回、轟に「キャラ変」を指摘されていた高井戸(三山凌輝)は、以前なら首を突っ込まなかったであろう本案件にも参加。宇崎と伊野尾(上白石萌歌)と3人で行動する場面も多々あり、彼らの心の距離が徐々に縮まっていることがそれぞれの会話からも見てとれて微笑ましい気持ちになってしまった。

桐石(及川光博)の笑顔のワケ

『イグナイト –法の無法者-』第8話©TBS
『イグナイト –法の無法者-』第8話©TBS

 そして、今回のエピソードにおいて思わぬ主役となったのが、以前より轟から依頼された案件をプロフェッショナルにこなしていた桐石(及川光博)だ。

 これまで仕事でさまざまな顔を使い分けていたが、今回の桐石は映像の中でほとんど“素顔”に近しい表情を浮かべている。その最たる理由は、脳動脈瘤の手術を控える彼の妻・綾(映美くらら)とともに映る場面が多かったからだろう。

 ふたりが病室で交わす会話が愛おしければ愛おしいほど、桐石の苦しみが増していくのが何ともつらい。及川光博が見せる優しげな素顔と苦悶の表情のギャップが、そんな桐石の葛藤を痛いほど伝えてくるようだった。

 さらに桐石は、東亜病院で手術を控える綾のために、訴訟を企てるピース法律事務所の動きを察知して、事前に裁判所の証拠保全手続きに対策を講じていた。彼の用意周到さは視聴者でさえも実感しているが、いざ相対するとこんなにも手強いのだと思い知らされる。

 今回、何度も映し出された桐石と宇崎の対立シーンにも胸が痛んだ。第5話ではともに食品会社に潜入して不正を暴いた仲であり、あのとき桐石が宇崎にかけた「少しはおっさんたちを信じろ」というセリフは、彼の人となりを何よりも象徴する言葉だった。それでも、彼にとって妻の綾は何者にもかえがたい存在なのだろう。

リーガルドラマ視点で描かれた光と影

『イグナイト –法の無法者-』第8話©TBS
『イグナイト –法の無法者-』第8話©TBS

 本エピソードではリーガルドラマの視点から、医療現場における光と闇にメスを入れていた。

 宇崎が「手術担当者しか真実を知らない。だから医療裁判は難しいんだな」とこぼしたように、部外者の目が入らない手術室において医療過誤を証明するには、その場にいた人物の証言が必要になる。

 しかも、手術というのは必ずしも成功するとは限らない。医師が全力を尽くした上で失敗する事案も存在するなかで、それを人為的なミスだと断罪するのは酷にも映る。ただ、失敗することと、失敗を隠すのでは訳が違うはずだ。

 河野が自身の功績を自慢げに話していた学会のシンポジウムは、まさに医療現場の光の部分だけにスポットを当てた場所だ。それでも、宇崎に話しかけてきた謎の男・船木(伊原剛志)は「学会っちゅうのは医者とか病院の自慢合戦。マウントとりの場や」とバッサリ切り捨てる。

 目の前の患者ではなく、成果や名声の獲得を優先する医師に対して終盤に放った船木の言葉は、これまでも現実世界に対して一石を投じてきた制作陣からのメッセージでもあった。

医師の心理を利用した宇崎(間宮祥太朗)の狙いとは

『イグナイト –法の無法者-』第8話©TBS
『イグナイト –法の無法者-』第8話©TBS

 医師としての輝かしい栄光の裏には、外からは見えない妬み嫉みが渦巻いている。そして、その医師の心理を巧みに利用したのが宇崎だった。船木の助言はありつつも、いつもの真っ向勝負の焚きつけではなく、言葉巧みに相手の嫉妬心を燃やすための薪を焚べていく。

 宇崎の策略が冴え渡るなか、“おっちゃん”から好かれるコミュニケーション能力も見逃せない。第4話でも職人のおっちゃんとスナックで意気投合していたように、彼の潔いほどのまっすぐさは、熱い気持ちを持った人々を惹きつける力があるのだろう。

 最後に主要な6人全員が集合した事務所内で、轟からあらためて「争いは起こせば良いんだよ」と号令がかかる。満を辞して発されたその言葉に、自然と胸が熱くなる。

 そんな熱気に包まれたままクライマックスへと突き進むのかと思いきや、次回、描かれるのは、バス事故の前日譚とも呼べる轟と娘・佳奈(藤﨑ゆみあ)のエピソードだ。

 全体が熱を帯びたこのタイミングで、過去の回想シーンに時間を割くのは、非常に勇気の要る選択と言える。しかし、これまで加害者遺族である宇崎に対して恨みや怒りの矛先を向けずに、事故の真相を隠ぺいした者たちを糾弾する轟を見てきたからこそ、彼が今の心中にいたるまでには並々ならぬ葛藤があったはずだ。

そんな轟の心境の変化が綴られるエピソードを、見逃さないわけにはいかない。

【著者プロフィール:ばやし】

ライター。1996年大阪府生まれ。関西学院大学社会学部を卒業後、食品メーカーに就職したことをきっかけに東京に上京。現在はライターとして、インタビュー記事やイベントレポートを執筆するなか、小説や音楽、映画などのエンタメコンテンツについて、主にカルチャーメディアを中心にコラム記事を寄稿。また、自身のnoteでは、好きなエンタメの感想やセルフライブレポートを公開している。

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【了】

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