渡辺翔太が最も輝いた瞬間は? ドラマ『なんで私が神説教』の名シーンを導いた”神演技”の真髄。唯一無二の存在感とは?
いよいよ最終話を迎えるドラマ『なんで私が神説教』(日本テレビ系)にて、レギュラー出演中の渡辺翔太(Snow Man)。今回は、6話以降を振り返り、過去作との比較やHuluオリジナルとの連動性も交えて、教師役を演じる渡辺翔太が最も輝く場面を徹底解剖する。(文・加賀谷健)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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教師役を演じる渡辺翔太が最も輝く”化学準備室”
それは学校内の、それもできれば机が(多くて)2~3台くらいしか並んでいない狭めの部屋がいい。時間帯は朝や昼ではなく、夕方か夜と相場は決まっている。場所と時間を指定して舞台は整う。
『なんで私が神説教』(日本テレビ系、毎週土曜日よる9時放送)第6話、私立名新学園の次期理事長・森口櫂(伊藤淳史)による強制退学計画を挫こうとする校長派の面々が、化学準備室に集まる。
メンバーは、校長の加護京子(木村佳乃)、本作の主人公で2年10組担任・麗美静(広瀬アリス)、同僚教師・林聖羅(岡崎紗絵)、そして数学教師・浦見光(渡辺翔太)である。森口が召集した保護者役員会で初めて自分の意見を主張したにもかかわらず、完敗した林に対して、京子が再度鼓舞しようとする場面だ。
校長派を公言する熱血漢である浦見が林に「そんなことないよ」と何の根拠もなく言う。浦見がこうした底抜けに無根拠な励ましをするのはいつものこと。でも、ちょうど本作の折り返し地点に位置するこの場面での渡辺翔太はどこか違う。
静と京子がよく息抜きで駄弁ったりする化学準備室は、学校内の室内空間としては狭めの部屋である。窓の外からは夕日が差し込む。上述した場所と時間の条件を十分満たしている。林を励ましたもののすぐに口ごもる浦見を夕日が照らす。浦見の顔左半分に陰影を与える照明設計によって、渡辺翔太の演技がぐんぐんさえるように思うのはぼくだけだろうか? 4人の俳優が共有する密室的空間。さらに印象的な夕日の照明。教師役を演じる渡辺翔太が最も輝く固有の時空間がここにある。
“夜の教員室”が引き出す渡辺翔太の名演
渡辺翔太にとって初の連ドラ単独主演作となった『先生さようなら』(日本テレビ系、2024)でも教師役を演じている。渡辺演じる主人公・田邑拓郎が、美術教師になるまでの過去と教師として教え子と交流する現在が並行して織り込まれる全編中、回想場面での渡辺の演技が、ひとつの最高点に達した瞬間がある。高校生だった拓郎が担任教師である内藤由美子(北香那)と教員室で会話する第2話の場面だ。
教員室には、窓辺に内藤の机ともうひとりの教員の机が向き合って配置され、あとは応対用の机があるだけ。決して広くはない密室的空間がこしらえられ、しかも場面時間は夜。教師と教え子の一線を越えようとする会話内容は詳述しないが、拓郎が「だって、俺、先生にとって特別っしょ?」と発した瞬間を見逃してはいけない。学ラン姿の渡辺が台詞を発してから3間ほど置いて、Snow Man による主題歌「We’ll go together」がしめやかに画面上をみたす。
渡辺の台詞きっかけで持続する、この間合い、画面と音楽の噛み合い、そして回想場面を演じる渡辺が視線を何度か微動させるしなやかな色っぽさ。
同作で監督を務める池田千尋は、映画『先輩と彼女』(2015)などでも夕方から夜にかけての密室的時空間(特に窓辺)を優れた手腕で把握して、そこで演技する俳優に関係するあらゆる要素を過不足なく明確にまとめあげる、いわば窓辺の達人だ。
学校内の狭い室内を夜の場面で描く手腕とそれに即応する渡辺が醸す茶目っ気、人懐っこさ、色っぽさがなんら矛盾なく統合された最高点だと強調しておきたい。
『なんで私が神説教』の化学準備室場面も同様に、この時空間内で演じる渡辺翔太は、高確率、いや必ず視聴者の心をとろかす名演を繰り出せる名人と化すのだ。
物語を牽引するリアクションの妙
とはいえ、主演作ではない『なんで私が神説教』では、いきなり序盤からとてつもない最高点を叩き出すわけではなく、あくまでレギュラー出演者のひとりとして慎ましい演技ポテンシャルを温存している。
本作前半部では、第1話冒頭、静が初出勤する電車の場面でカメラが寄っては引いていく間に渡辺特有の声の魅力を印象づけるにとどめていた。化学準備室のような狭い空間ではない、職員室の広い空間では「おはよ!」と快活な一声を辺りに響かせ、ちょっと間抜けだがまっすぐな性格の浦見のキャラクター性を端的に示す。
これもキャラづけのひとつに含まれるが、静相手に愚痴る居酒屋の場面では、ビールジョッキに注がれたコーラを片手に、完全ノンアルでもくだを巻く一面もある。
ただ、この第3話で初出する居酒屋場面とビールジョッキのコーラという小道具によって俄然、浦見役の渡辺は力を得て、ポテンシャルを開放する準備に入る。「静先生〜!」と高音で叫び、右腕を上げて廊下を走ってくる第4話ラストから、職員室で「あぁぁ」とこれまた高音で絶叫リアクションする第5話冒頭まで、前話から次話を印象的なワンフレーズでつないでしまえる力業。
第5話の職員室場面に後続する居酒屋場面では、ビールジョッキのコーラを飲みほし、そののど越しをまるで企業CM風に伝える画面下手横顔のアップで、浦見役を弛緩させずに、ぐんぐん活気づける。
Huluスピンオフで魅せる演技の振り幅
引きからアップが抜かれる回数がたぶん静の次点で多い浦見役では、演技の一打一打が明確な決め打ちになる。第6話の夕景の化学準備室場面でも、林に「そんなことないよ」と言ったあと、カメラはその場にいる4人を写す引きの絵から渡辺ひとりを捉える寄りになる。
寄りで写る渡辺が、画面上手方向を一瞥するようにさっと視線を動かすだけで、完璧な演技を成立させる。固有の時空間内にいる渡辺翔太最強説なんてここで唱えてみるのも一興だけれど、第6話以降の渡辺は室内、室外関係なく、的確な視線移動と明確なアップショットでさえにさえわたる。
第8話冒頭、むしろ室外で京子と対峙する切実な表情にはそれまでの浦見役とはひと味違う緊張感が持続している。名新学園を取り巻く問題事の数々に挑む静に加勢する存在として、つかの間第9話では、視聴者を和ませるチャーミングな表情もたくさん見せてくれる。
あるいは、Huluオリジナル作品として配信されている『なんで私まで神説教!?』第1話「浦見光の神説教」では、主人公を演じ、いつも以上に声を張り上げる「おはよ!」から現実の渡辺が取り組む美容男子としての側面まで垣間見せたり、渡辺翔太づくし(「よし」と独言で気合を込める浦見に正対するワンショットもいい)。
配信作品を呼び水として、最終回ではいったい、どんな固有の時空間が用意され、そこで渡辺翔太的演技の明確な一打が繰り出されるのか?
【著者プロフィール:加賀谷健】
コラムニスト / アジア映画配給・宣伝プロデューサー / クラシック音楽監修クラシック音楽を専門とする音楽プロダクションで、企画・プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメン研究」をテーマに、“イケメン・サーチャー”として、コラムを執筆。 女子SPA!「私的イケメン俳優を求めて」連載、リアルサウンド等に寄稿の他、CMやイベント、映画のクラシック音楽監修、解説番組出演、映像制作、 テレビドラマ脚本のプロットライターなど。
2025年から、アジア映画の配給と宣伝プロデュースを手がけている。
日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。
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