感動が込み上げる…荒川良々“梵天”の叫びが胸を打ったワケ。ドラマ『Dr.アシュラ』第9話考察&感想レビュー【ネタバレ】
松本若菜主演のドラマ『Dr.アシュラ』(フジテレビ系)が放送中だ。本作は、こしのりょうの同名漫画を原作とした救命医療ドラマ。“アシュラ”と呼ばれる凄腕のスーパー救命医の活躍を描く。今回は、第9話のレビューをお届けする。(文・西本沙織)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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出産を通して描かれた家族の誕生と絆
『Dr.アシュラ』第9話のキーワードは、“生まれてきてくれてありがとう”。家族の絆の結び直しと、新たな家族の誕生が、込み上げるような感動をもたらしてくれた。
救急科の前でうずくまる妊婦を発見した朱羅(松本若菜)たち。朱羅や大黒(田辺誠一)、看護師の三宝(阿南敦子)の名前をなぜか知っているその妊婦の正体は、梵天(荒川良々)の妻・美鈴(村川絵梨)だった。
現在35週目で、来月女の子を出産予定だが、美鈴は高齢出産。一般的に、初産で35歳以上、経産婦で40歳以上の出産が「高齢出産」とされており、年齢が上がるにつれ母体側、胎児側にもリスクが出てくる。
美鈴自身も、やっと赤ちゃんを授かった喜びを噛みしめつつも、高齢出産であることやそれに伴うリスクが気にかかっていた。喜び、不安、期待…さまざまな感情を胸のうちに抱える美鈴と梵天。それでも赤ちゃんが自分たちのもとにきてくれたことが何よりも嬉しくて、元気に産まれてくることをいつも願っていた。
そんな近く父親となる梵天が主治医となることになったのが、明日花(吉冨さくら)だ。彼女は耳が聞こえず、歩道に侵入してきた車に気づかないまま轢かれてしまう。音がパタっとなくなる無音の演出は、明日花の聞こえない世界を表しているようで、とてもリアルに感じられた。
朱羅(松本若菜)の経験から伝えた思いとは?
梵天が目の当たりにしたのは、明日花とその父親・孝(三浦剛)の、お互いを思うからこその複雑な問題だ。面会に来た孝に、明日花は追い返すように「大丈夫だから帰って」と手話で告げた。手話で気持ちを伝えるときの服が擦れる音で、彼女の懸命さがひしひしと伝わってくる。
明日花が孝を遠ざけようとするのは、「私のせいでずっとお父さんに迷惑をかけている」と思い込んでいるから。明日花の母親は、彼女を出産した際に亡くなっていた。孝から明日花のせいではないと何度も伝えられていても、彼女のなかでは「母親が死んだのは私を産んだから」という自分を責める気持ちが消えないのだろう。
そんな混雑した明日花の心を緩めてくれたのが、両親を亡くしている朱羅だ。「大切な人が突然いなくなることもある。言いたいことがあるならちゃんと伝えた方がいい」という言葉は、明日花が本当に伝えたかった気持ちに気づくきっかけになった。
明日花に会いに来た孝は、母子健康手帳を出す。そこには、母親がどれだけ明日花を妊娠したことに幸せを感じていたかが、ぎっしりと書き込まれていた。「これからはお母さんの分も明日花を守る」と書かれた孝の文字からは、今まで愛情をもって育ててくれた父親の思いが伝わってくる。
彼女たちが交わした、「お父さんとお母さんの子どもに生まれてきてよかった」「俺たちの子どもとして生まれてきてくれてありがとう」という言葉は、なによりお互いを肯定するものだ。子どもが親にとって、親が子どもにとってかけがえのない存在ということは、普段知る機会が少ないからこそ伝え合うことが大切なのかもしれない。思わず胸がいっぱいになる、心が震えるシーンだ。
朱羅(松本若菜)に引き出された梵天(荒川良々)の叫び
一方、親子愛を見届けた梵天を襲ったのは、美鈴とお腹のなかの子どもの危機。常位胎盤早期剥離で、母子ともに危険な状態だった。朱羅が帝王切開を行ったことで、子どもの命が助かったと胸を撫でおろしたのも束の間。美鈴は出血多量で心肺停止してしまう。
梵天と美鈴の子どもは、まるで母親を呼んでいるかのように泣いている。「梵天先生、あの子は諦めるなって叫んでる。この人を修羅場から呼び戻すには、あなたの声も必要なの!」という朱羅の言葉に引き出された梵天の叫びには、胸を打つものがあった。
出産で、母子ともに無事であることは奇跡なのだと実感させられる。美鈴が回復し、子どもの名前を「ひかり」にしないかと提案した梵天。そこには、「この子がいるだけで、僕たちの世界が明るくなる。こんなに小さいのに照らしてくれる。僕たちだけじゃない、この子がこれから出会う人たちのことも明るく照らしてくれる人になってほしい」という、切なる感謝と願いが込められていて。改めて、命の尊さが身に染みるエピソードとなった。
最終話が近づく『Dr.アシュラ』。第10話では、朱羅の友人らしき人物が登場する。次回も、朱羅たちの活躍に大いに期待したい。
【著者プロフィール:西本沙織】
1992年生まれ、広島在住のライター。会社員として働くかたわら、Web媒体でエンタメに関するコラムやレビュー記事の執筆を行っている。ドラマや映画、マンガなどのエンタメが好き。
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