衝撃のラスト…オダギリジョーの登場に沸いたワケ。ドラマ『魔物』最大の魅力とは? 最終話考察&感想【ネタバレ】
麻生久美子主演の金曜ナイトドラマ『魔物(마물)』(テレビ朝日系)が放送中。本作は、『梨泰院クラス』のSLLとテレビ朝日による、日韓共同制作によるオリジナル作品で、美しくも上質な禁断のラブサスペンスだ。今回は、最終話のレビューをお届け。(文・苫とり子)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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“魔物”とは、誰のことだった…?
“魔物”とは、果たして誰のことだったのだろう。『魔物(마물)』が最終回を迎えてもなお、考え続けている。
血まみれのあやめが手錠をかけられ、警察に連行されていく場面で幕を閉じた第7話。あやめの目の前を通り過ぎていく担架に乗っていたのは、凍也(塩野瑛久)の遺体だった。
陽子(神野三鈴)の危機を嗅ぎつけ、名田家を訪れたあやめに凍也は容赦なく暴行を加える。さらにはあやめに馬乗りになり、割れた鏡の破片を突きつける凍也。その瞳には、あやめに裏切られたことへの強い怒りが宿っていた。
だが、不倫とはいえ、確かに愛し合っていた2人の関係を最初に壊したのは凍也だ。自分の思い通りにならなければ、癇癪を起こし、暴力で相手を従わせようとする。彼の言う「愛してる」も相手を支配するための道具でしかない。自分は愛を与えようとせず、相手からの愛を欲しがってばかりの“魔物”だ。
しかし、同情の余地もある。凍也に「あなたは誰も愛したことなんてない。あなた自身のことも」と告げたあやめ。母親に捨てられ、父親から暴力を振るわれていた凍也はどこかで自分が愛されるはずがないと思っているのだろう。だから、あやめのことも夏音(北香那)のことも信用できず、不安から自分から逃げられないように服従させる。
そんな凍也を、あやめは警察に突き出し、夏音はDVの更生プログラムを受けさせ、変えようとした。けれど、それが愛とはついぞ気づけぬまま、凍也は夏音に絞殺される。
彼にも救いがあって欲しかった、そう思ってしまうのはやはり塩野瑛久の演技に依るところが大きい。美しく恐ろしい“魔物”だったが、塩野が演じる凍也には終始怒りよりも悲しみの色が終始漂っており、あやめや夏音が「この人には私しかいない」と思ってしまうところに説得力があった。
愛が人を変えてしまう
夏音が凍也を殺したのは、彼が陽子(神野三鈴)を階段から突き落としたことを知り、「このままだと自分も殺される」と思ったからだった。だが、のちにそれは自作自演で、陽子は自ら階段から転げ落ちたことが判明する。おそらくあやめと夏音の恐怖を煽り、自らの手を汚すことなく凍也を葬り去ろうとしたのだろう。
高校の頃、凍也に親切にすることで恩を売り、息子の潤(落合モトキ)を勝たせるためにフェンシングの試合を辞退させた陽子。もしも凍也が試合に勝ち、推薦で大学に行けていたら、もう少し違った人生があったのではないか。そう考えると、陽子が一番の”魔物”のような気がしてくる。
しかし、一番の“魔物”は愛そのものではないだろうか。凍也を愛してしまったが故にキャリアを棒に振ったあやめ、凍也からの暴力を愛として長年受け入れてきた夏音、自分を愛してくれなかった奥太郎(佐野史郎)を見殺しにした陽子、そして愛されたいがために罪を重ねてきた凍也。愛への渇望が、こんなにも人を変えてしまうということをこのドラマに教えられた。
一方で、愛は人を良い方向へと導くこともある。塩野のInstagramの投稿によると、本作の仮タイトルは『差し伸べる手』だったそうだ。夏音が凍也の支配から抜け出せたのは、あやめや陽子が暴力は愛ではないと教えてくれたからでもある。それはある種のシスターフッド=姉妹愛と言えるのではないだろうか。
本作最大の魅力とは?
凍也殺害の容疑をかけられるも、今野(大倉孝二)や渚(宮本茉由)のサポートや夏音の供述により無罪を勝ち取ったあやめはDV被害者を支援するNPO法人を立ち上げる。
そんなあやめが、7年の懲役を終えた夏音と、スキャンダルを武器にベストセラー作家となった陽子と無言ですれ違うカットで幕を閉じた。愛されたいという欲望、ひいては魔物から解放された彼女たちの表情は晴れやかだ。
テレビ朝日と韓国の制作会社SLLがタッグを組み、日韓共同で制作された本作。チン・ヒョク監督の画に対するこだわりを随所に感じ、最終話におけるあやめと凍也の攻防戦をはじめ、2人の恋が始まった相合傘、海辺でのデート、トイレでの情事、数々の名シーンが生まれた。
不倫、セックス、暴力、殺人といった過激なテーマと美しい映像とのアンバランスさが本作の魅力だったように思う。
キムチチゲ、サムギョプサル、ケランチム、サムゲタンなどの韓国料理で用いて登場人物の心情やその場の空気感を表現する演出も乙だった。なお、最終話における『時効警察』(テレビ朝日系)シリーズで麻生と共演したオダギリジョーのサプライズ出演も大きな話題を呼んだが、豪華俳優のカメオ出演も韓国ドラマの醍醐味である。
地に足のついたストーリー展開や繊細な心理描写など日本のドラマならではの良さもあるが、こうした韓国ドラマの要素を取り入れていけば、より世界に躍り出ていけるのではないだろうか。
【著者プロフィール:苫とり子】
1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。
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