意味深ラストは続編の布石? 最終回にして視聴者に大きなインパクトを残した人物とは? ドラマ『キャスター』考察&感想【ネタバレ】

text by ばやし

ドラマ『キャスター』(TBS系)が完結を迎えた。本作は、テレビ局の報道番組を舞台に闇に葬られた真実を追求し、悪を裁いていく社会派エンターテインメント。3年ぶり6回目の日曜劇場主演となる阿部寛が、型破りなキャスターを演じる。今回は、最終話のレビューをお届け。(文・ばやし)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】

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国定会長(高橋英樹)はシロなのか、クロなのか…?

『キャスター』最終話©TBS
『キャスター』最終話©TBS

 まるで終盤のオセロの盤面のように、長い間、信じ込んでいた白と黒がひっくり返される。日曜劇場『キャスター』の最終話では、あまりにも目まぐるしく変化する状況に終始、呆気に取られてしまった。

 43年前に起きた自衛隊輸送機墜落事故と、進藤(阿部寛)の父・哲(山口馬木也)の不可解な死。ふたつの事件に関わっているとして進藤から問い質されることになったのは、これまで幾度となく裏がありそうな言動を繰り返していたJBNの国定会長(高橋英樹)だ。

 その疑惑を決定づけたのは、彼の所持するライターが亡くなった哲の愛用していたものと入れ替わっていたこと。進藤からしてみれば、幼少期に遊びのなかで傷をつけてしまった父の形見でもあるライターを誰でもない国定会長が持っていることこそ、決定的な証拠にも思えたのだろう。

 しかし、国定会長が「父親の話となると冷静さを失うようだ」と話したように、今回、進藤は自らが信条とする「裏どり」をしていない。

 いつもの彼ならば、きちんとした証拠を揃えてから真実を追求していたはずだ。父親の死に隠された真実を目の前にして感情が先走ったのだとしたら…進藤もまた、一寸先は闇である「報道」の世界で、いまだ懸命にもがいている最中なのかもしれない。

国定会長が明かした“光を浴びなかった真実”

『キャスター』最終話©TBS
『キャスター』最終話©TBS

 その後、物語は急展開を迎えて、いっそう加速していく。本橋(道枝駿佑)のPCを廃棄しようとした人物の正体が編集長の市之瀬(宮澤エマ)だとあっさり明かされたのも束の間、彼女が反社会勢力と関係があることが週刊誌によってスクープされてしまう。

 これまでも番組制作に携わる裏方サイドにスポットライトがあたっていたが、主要キャストのなかで唯一フィーチャーされていなかったのが市之瀬だった。そのため、最終話で大きなカギを握るかと予想されていたが、まさかここにきて伏線もなしに彼女の出自が掘り起こされるとは夢にも思わなかった。

 さらには、国定会長が盟友でもある羽生前官房長官(北大路欣也)に毒をもったとして、別の週刊誌にスキャンダルが掲載される。 事実だとすれば由々しき事態だが、進藤の計らいによって「ニュースゲート」の生放送で行われた会見で国定会長の口から語られたのは、羽生前官房長官を殺した真犯人が別にいることを示唆するものだった。

 疑惑の矛先がリアルタイムで更新される生中継は、まさに「騙し合い」にはうってつけとも言える場所。進藤らの思惑通りに尻尾を出してしまった景山会長(石橋蓮司)は、その騙し合いに破れ、最終的にすべての罪を炙り出されることになった。

 しかし、騙し合いはそれだけで終わらない。進藤とふたりきりの空間で国定会長が明かした“光を浴びなかった真実”は、観ている人々が思い描いていたストーリーを容赦なく覆す。すべての盤面を勧善懲悪では終わらせないところに、本作が伝えたかった「報道」の世界における正義の在り方が示されていたように感じた。

意味深なラストに衝撃走る――。

『キャスター』最終話©TBS
『キャスター』最終話©TBS

 それにしても、ドラマの最終話において、ここまで多くの謎を意味深に残したまま終わることがあっただろうか。決着がついたのは、43年前に起きた自衛隊輸送機墜落事故に関する事件の真相と、羽生前官房長官を殺した真犯人についてのみ。

 確かに長年、国のために口を噤んでいた重鎮たちは物語から退場した。しかし、いまだ明るみになっていない闇が存在し続けていることも、ラストシーンで明確に示唆されている。

 進藤の元妻である恭子(相築あきこ)と娘のすみれ(堀越麗禾)に目を向けるのは、新たに登場した謎の男(寺西拓人)。短いシーンだったものの、寺西の顔に浮かんだ怪しげな笑みは、視聴者に大きなインパクトを残したことだろう。

 そして、そんな彼に指示を送っていた“片足が不自由な”人物こそ、恭子を襲撃した事件に関わっており、財政会に深く根を張って、裏で景山会長をも操っていた真の黒幕である可能性が高い。

 ただ、その正体についても一切、語られぬまま物語の幕は閉じる。不完全燃焼であることは否めないが、さらなる続編に含みを持たせる結末となった。

“裏側の人々”の奮闘が本作のテーマ?

『キャスター』最終話©TBS
『キャスター』最終話©TBS

 進藤が初回のラストで放った「我々、報道は真実の奴隷じゃない」という言葉のとおり、この物語で明かされた真相のすべてが「ニュースゲート」で報道されたわけではなかった。

 さまざまな思惑が交差するなかで、あらゆる出来事や事件を天秤にかけて、報道すべきニュースを選り分ける。芦根村で起きた爆発事故に対して「この事件だけで番組作れるの?」と市之瀬が会議でメンバーに問いかけたように、“何を”報道するのか吟味することも報道番組に携わる人々の仕事のひとつだ。

 そして、本作でもっとも「ニュースゲート」のスタッフたちの思いが一致団結したのは、番組の編集長として市ノ瀬が築き上げた功績を讃える進藤の言葉に、記者たちが沈黙した瞬間だったのではないだろうか。

 身内である山井プロデューサー(音尾琢真)が巻き込まれた事件を追いかけようとする華(永野芽郁)らを制して、憎まれ役を買って出ても番組の存続を優先する。そんな市之瀬の仕事ぶりを認めていたからこそ、海馬(岡部たかし)や滝本(加藤晴彦)は自らの顔と名前を表に出してまで、彼女を庇ったのだろう。

 正直、最後は特大のスクープを「ニュースゲート」で報道して大団円を迎えると思っていた。しかし、仲間を守るために一致団結する“裏側の人々”の奮闘こそ、本作が描きたかった光景だったのかもしれない。

 そして、会長を辞任する国定から“報道の未来”を託された進藤は、これからも「ニュースゲート」のキャスターとして隠された闇を暴きながら、その裏で暗躍する“例の組織”を追い続けるはずだ。できれば、彼の背中に憧れる本橋や、不本意ながらも進藤に似てきた華とともに、謎に包まれたままで終わった物語の行く末を見届けられることを願っている。

【著者プロフィール:ばやし】

ライター。1996年大阪府生まれ。関西学院大学社会学部を卒業後、食品メーカーに就職したことをきっかけに東京に上京。現在はライターとして、インタビュー記事やイベントレポートを執筆するなか、小説や音楽、映画などのエンタメコンテンツについて、主にカルチャーメディアを中心にコラム記事を寄稿。また、自身のnoteでは、好きなエンタメの感想やセルフライブレポートを公開している。

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【了】

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