藤田朋子と間宮祥太朗の“滾る”芝居に胸を打たれたワケ。ドラマ『イグナイト -法の無法者-』第10話考察レビュー【ネタバレ】

text by ぱやし

ドラマ『イグナイト -法の無法者-』(TBS系)が放送中だ。本作は、争いの火種を見つけ、訴訟を焚きつけるダークリーガル・エンターテインメント。間宮祥太朗が、大金を稼ぐ“無法者”な弁護士を演じる。今回は、第10話のレビューをお届け。(文・ばやし)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】

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ついに最後の戦いが幕を開ける

『イグナイト –法の無法者-』第10話©TBS
『イグナイト –法の無法者-』第10話©TBS

 ピース法律事務所の因縁とも言える、最後の戦いが幕を開けた。冒頭の裁判で原告となったのは、宇崎(間宮祥太朗)の母・純子(藤田朋子)。バス事故を起こした夫・裕生(宮川一朗太)の無実を証明するために、彼女は証言台に立つ。
 
 本作では、どのエピソードでも共通して、ワンシーンを長回しで撮影するスタイルがとられている。そのため、ほかの人物が喋っている場面でも常に自然な表情が映し出され、場面ごとに一体感のあるやりとりが生まれる。

 今回の裁判シーンでもカット数はかなり多い。しかし、図星を突かれて焦りを見せる被告や勇気を振り絞って証言台に立つ原告や証人、そして、原告代理人を務めるピース法律事務所のメンバーの顔には、あの世界で必死に生きている人々にしか出せない表情が浮かんでいた。

 誰もが感情を途切れさせることなく、張り詰めた空気のなかでセリフを口にする。そうやって生まれた緊張感や白熱した会話の応酬は、画面の向こうで観ている視聴者にも確かに伝わっているはずだ。

轟(仲村トオル)の狙いは?

『イグナイト –法の無法者-』第10話©TBS
『イグナイト –法の無法者-』第10話©TBS

 これまでピース法律事務所は、バス事故を隠ぺいした湊市市長の音部(髙嶋政伸)や真の黒幕である内閣官房長官の石倉(杉本哲太)を追っていた。しかし、今回、轟(仲村トオル)が新たに目をつけたのは、宇崎の父親が勤務していた湊中央バスだった。

 「巨人の倒し方は相場が決まってんだよ。足元を狙ってアキレス腱から崩していく」と語る轟のクールな振る舞いも見慣れたもの。冷静に戦況を見通せる指揮官がいることは、ピース法律事務所の何よりもの強みだ。

 湊中央バスの整備不良を訴えた裁判で被告席に座ったバス会社所長・浜岡(おかやまはじめ)は、整備表の改ざんはなかったと証言するが、証言台に立った湊中央バスの整備士・堀切(平埜生成)は彼の言葉を真っ向から否定する。

 安全を求める懸命な主張が、“過度な正義感”と嘲笑されるような職場に未来はない。しかし、裕生と浜岡の温度差が感じられるやりとりと周囲の反応は、現実にも実在すると思えるリアリティがあった。

 一見、バス会社の整備不良を証明しきれないまま、裁判の幕が閉じたかのように見える。しかし、石倉と秘書の北村(飛永翼)が勝ち誇った会話を交わす場面から一転したピース法律事務所では、一仕事を終えた清々しい面持ちで打ち上げが催されていた。

轟らの巧みな誘導

『イグナイト –法の無法者-』第10話©TBS
『イグナイト –法の無法者-』第10話©TBS

 宇崎たちが欲しかったのは、事故を起こしたバスに自動運転システムが搭載されていたという関係者の証言。宇崎がわざとらしく口を隠すシーンには笑ってしまいそうになったが、轟たちの狙いと誘導に被告側の浜岡はまんまと乗ってしまう。

 石倉は油断して気づかなかったようだが、これまで物語を追ってきた視聴者たちは、浜岡の発言がどれだけ重要なのかを理解している。事故を起こしたバスに自動運転システムが搭載されていたことも、GIテクノロジーズが事件に関与していることも、宇崎たちが喉から手が出るほど欲しかった証言だった。

 ピース法律事務所内の職場の雰囲気も良好。宇崎の小芝居を馬鹿にする伊野尾(上白石萌歌)と高井戸(三山凌輝)に対して、純子は息子の発言に頷きながらニコニコと場を見守る。このシーンでは、誰もがキャラクターに成りきった上で“素顔”を見せていることが伝わってきた。

 そして何より、いちばん複雑な想いを抱えているはずの轟が、宇崎親子の揃う場でも寛いだ表情を見せていることが嬉しい。ドーナツが酒の肴になるのかは微妙なところだが…。

藤田朋子の熱演に応える間宮祥太朗

『イグナイト –法の無法者-』第10話©TBS
『イグナイト –法の無法者-』第10話©TBS

 宇崎と純子が最終決戦を前にして交わした会話には、これまで彼らが消化できずに抱えていたやりきれない思いが強く滲んでいた。

 息子に訴訟を起こさないかと持ちかけられた今回の裁判は、純子にとってもあの事故から立ち直って過ごしてきた日々を肯定してもらえた気持ちになったのだろう。演じる藤田朋子の語り口にも、積年の苦労を感じさせる言葉の揺れがあった。

 そして、そんな藤田の熟練した芝居に飲み込まれることなく、並々ならぬ決意を言葉に込める間宮祥太朗の演技にも圧倒される。宇崎の熱さやまっすぐさに嘘は無いと思えるのは、間違いなく間宮が「宇崎凌」というキャラクターを根っこから体現しているからだ。

 母親の言葉に吹き出して笑顔を見せるも、思わず表情が歪んで泣きそうになるなか、瞬時に切り替えて涙を堪える。一連の表情の変化は、宇崎として人生を歩んでいないとそう見せられるものではない。間宮が藤田とともに作り上げた、感情を揺さぶるワンシーンだった。

宇崎(間宮祥太朗)の本音

『イグナイト –法の無法者-』第10話©TBS
『イグナイト –法の無法者-』第10話©TBS

 食卓を囲む場面では、宇崎が弁護士を目指すきっかけとなったのが実は轟だったと純子の口から明かされる。視聴者には周知の事実だったが、宇崎本人にとっては思いも寄らない告白だっただろう。

 物語の構成上、視聴者は2度、前述の驚きを共有させられた。それでも、ドラマ制作陣は視聴者の驚きではなく、その世界で生きる登場人物の驚きを優先する。轟に対する宇崎の思いが変化する瞬間をていねいに描いたことで、事務所で交わしたふたりのやりとりを観ていっそう胸が熱くなった。

 前哨戦を経て、いよいよ迎える最終話。あのとき、救いの手を差し伸べてくれた轟の恩義に報いるためにも、宇崎は父の無念を晴らしにいく。今もなお、沸々と煮えたぎるような熱を帯びた感情は、登場人物だけでなく、視聴者も含めて心の中に渦巻いているはずだ。

 だからこそ、今話のラストシーンでソファにふんぞり返っていたイケすかない権力者たちに、今まで燻っていた火種を燃え盛る業火に変えてお見舞いしてほしい。

【著者プロフィール:ばやし】

ライター。1996年大阪府生まれ。関西学院大学社会学部を卒業後、食品メーカーに就職したことをきっかけに東京に上京。現在はライターとして、インタビュー記事やイベントレポートを執筆するなか、小説や音楽、映画などのエンタメコンテンツについて、主にカルチャーメディアを中心にコラム記事を寄稿。また、自身のnoteでは、好きなエンタメの感想やセルフライブレポートを公開している。

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【了】

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