こんなに面白いのに…観た人が大絶賛する隠れた今期傑作ドラマ『PJ ～航空救難団～』がバズらなかったワケ【ネタバレ】

2025/06/27

text by 望月悠木

ついに最終回を迎えたドラマ『PJ ～航空救難団～』（テレビ朝日系）。航空自衛隊の救難員・PJ（パラレスキュージャンパー）を育成する救難教育隊を舞台にした、教官と訓練生の群像劇だ。話題作と呼ばれるほどの盛り上がりはなかったものの、視聴者からは好評を得た本作。その理由を踏まえ、本作の魅力を改めて考察する。（文・望月悠木）

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常人離れした職業・PJ

　本作の魅力は、これまであまり注目されてこなかった職業・PJ（パラレスキュージャンパー）にスポットライトを当て、その異常ともいえる仕事内容を明確に示している点にある。

　PJは、海上保安庁や山岳救助隊が出動不能と判断した際に出動する、「人命救助最後の砦」とも称される存在である。だからこそ、2日間で2リットルの水しか飲めず、30キロの荷物を背負いながら山中を捜索する山岳訓練など、常識では計り知れない過酷な訓練に挑む必要がある。

　ドラマという“エンタメ”でありながら、訓練生を演じる俳優の表情や言動から、その過酷さはリアルに伝わってくる。そして物語を追う中で、訓練生たちが回を重ねるごとに“異常”――すなわち、PJへと変化していく姿が描かれている。

　また、本作は航空自衛隊の全面協力のもとで制作されており、手加減なしにリアリティを追求できている。キャスト陣の演技に加え、航空自衛隊の全面的な支援によって、PJがいかに常人離れした職業であるかを鮮やかに描き出すことに成功している。

PJの覚悟と矜持

　最終回では、PJという存在のさらなる“異常さ”が垣間見える場面が描かれていた。宇佐美の娘・勇菜（吉川愛）が、卒業論文制作のための取材を終え、地元へ帰ることとなり、訓練生たちと共に居酒屋で送別会を開くシーンである。

　その場に、軽薄そうな若者グループが現れ、「もしかして自衛隊の人ですか？」「すっごいやばいとこ行くやつですよね？」「頑張ってください、でも戦争とかしないでね」と、からかうような態度で話しかけてきた。

　訓練生たちは特に取り合うことなくその場を収め、店を後にしようとするが、勇菜は黙っていなかった。「私がPJだったら、あなたたちが災害に遭っても100パーセント見捨てますね」と言い放ち、続けて「でも、この人たちは違う。必ずあなたたちを救ってくれます。そのために、肉体や精神を限界まで追い込み、まともではない訓練を受けているんです」と、強い口調で訓練生たちの覚悟と矜持を訴えた。

　勇菜の言葉通り、この若者たちは心情的には優先して助けたい相手ではないだろう。にもかかわらず、PJは個人的な感情を排して救助を行う。その判断自体が、ある意味“異常”とも言える。

　肉体を鍛えるだけではPJは務まらず、誰よりも優しい心を持たなければならない仕事であると気づかされる。登場当初、過酷な訓練に対して懐疑的だった勇菜の口から語られるからこそ、その言葉には一層の説得力があった。

内野聖陽が見せた厳しさと可愛らしさ

　やはり、本作の最大の魅力は内野聖陽演じる主人公・宇佐美のキャラクターである。“自衛隊の訓練モノ”ということで、当初は映画『フルメタル・ジャケット』（1987）のハートマン軍曹（R・リー・アーメイ）のような鬼教官を想定していた。

　しかし、第1話で「いただきます」の声が小さい訓練生たちに「真裏にあるブラジルまで届かせろ」と注意した際、沢井仁（神尾楓珠）から「日本の真裏はウルグアイです」と返されて狼狽する姿を見て、拍子抜けしてしまった。

　その瞬間、「宇佐美＝ダメ教官」の烙印を押しかけたが、訓練生たちと真っすぐに向き合う姿勢には頼もしさと格好良さを覚え、すぐに宇佐美という人物の魅力に心をつかまれた。人間はギャップに弱い生き物で、宇佐美を格好いいと認識すればするほど、その茶目っ気のある言動が可愛らしくて仕方なくなってくる。

　最終回でもその魅力はいかんなく発揮された。送別会の帰り、勇菜と仁が2人きりでいい雰囲気を醸し出しながら歩いているところへ、自転車に乗った宇佐美が登場する。

　前傾姿勢で風の抵抗を極力減らすスピード重視型の乗り方は滑稽であり、「（送別会が）終わったらさっさと帰って休め！お前ら、まだまだ訓練が続くんだぞ！」と声をかける様子は、コテコテの「“害虫”から娘を守ろうとする父親」ムーブである。

　宇佐美が持つ厳しさと可愛らしさを両立させた内野の演技には、僭越ながら「あっぱれだ」と称賛を送りたい。

熱血ドラマは、もう求められていない？

　本作の魅力を語ったものの、決して大きな話題を呼んだドラマではなかった。その要因は、時代とのズレではないだろうか。

　この令和の時代、ハラスメント意識は高まり、ワークライフバランスを大切にする働き方が支持される。そうした中で、パワハラまがいの訓練風景が立て続けに描かれる展開に、恐怖や違和感を与える要素になった。なにより、“ハラスメントの被害者”たる訓練生が声を上げることなく進んで受け入れている様子に、共感を抱けなかった視聴者も多かったはずである。

　さらにコスパ・タイパが重視される現代において、自らの、自らの命を懸けて見知らぬ誰かを救うという職業、そしてその職に就くための過酷な訓練というプロセスは、非効率の極みと映る。

　こうした“昭和のノリ”とも言える熱血ドラマは、現在の地上波では希少な存在となっており、その泥臭さに対する視聴者の免疫が低下していたことも、本作が大きく話題に上らなかった一因だろう。