“むずキュン”が熱狂を生む…『逃げ恥』との決定的な違いは?『波うららかに、めおと日和』最終話考察&感想レビュー【ネタバレ】
芳根京子主演のドラマ『波うららかに、めおと日和』(フジテレビ系)が最終回を迎えた。本作は、昭和11年を舞台に交際ゼロ日婚からスタートする、歯がゆくも愛らしい“新婚夫婦の甘酸っぱい時間”を描いたハートフル・昭和新婚ラブコメ。今回は最終話のレビューをお届けする。(文・菜本かな)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
——————————
『めおと日和』は今年のドラマ界の“傑作”に
『波うららかに、めおと日和』(フジテレビ系/以下『めおと日和』)は、今年のドラマ界を代表する“傑作”と呼ぶにふさわしい作品だ。魅力あふれるキャスト、今の時代に求められているストーリー、そして耳に残るキャチーな主題歌。それぞれが引き立て合いながら、作品としての完成度を高めていた。
同作を見ていると、2016年に社会現象を巻き起こしたドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系/以下『逃げ恥』)を思い出す瞬間がある。ただ、『逃げ恥』が、新時代の結婚観を追求したドラマだとしたら、『めおと日和』は古き良き日本の結婚制度を描いた物語。正反対に位置しているはずなのに、なぜだろう…? と考えた結果、視聴者の“熱狂”を生んでいる部分が共通していることに気付いた。
たとえば、『逃げ恥』は契約結婚から始まった“夫婦”を題材としているため、ハグをするだけでも視聴者は大歓喜。『めおと日和』も、なつ美(芳根京子)と瀧昌(本田響矢)が手を繋ぐだけで、SNSが大盛り上がりしていた。こういった“むずキュン”ラブコメディは、視聴者の心をひとつにする不思議な力を持っている。
とはいえ、『逃げ恥』と『めおと日和』には決定的に異なる点がある。それは、“戦争”という大きなテーマが絡んでいることだ。
先輩・郁子(和久井映見)の言葉の力
6月26日に放送された『めおと日和』最終話では、「国籍不明の船と海軍艦が衝突したかもしれない」と瀧昌が緊急招集され、彼の帰宅を待つなつ美は不安で押し潰されそうになっていた。
瀧昌が海軍艦に乗っている間、なつ美は悪い夢を見て飛び起きることが増え、新聞を開くのも怖い。でも、何もできることはないから、ただ神棚に向かって彼の無事を祈ることしかできない。不安が限界に達してシクシク泣いているなつ美に、“海軍の妻”の先輩である郁子(和久井映見)は、こう声をかけた。
「海軍の妻は、夫と一緒に戦っているのよ。もし、残された自分を哀れんで泣いているなら、みっともないからやめてね。不必要に悪いことばかり考えて泣いているのなら、お国のために戦う2人に失礼だからやめてね」
一見、突き放すようにも聞こえる言葉だが、そのあとに続く「でも、心が疲れて泣いてしまうなら、いくらでも泣いてね」という一言に、郁子の優しさと包容力がにじみ出ていた。
深見(小関裕太)らしい愛の言葉
不安を抱えているのは、なつ美だけじゃない。瀧昌の同僚・深見(小関裕太)との結婚を控えている芙美子(山本舞香)も、いてもたってもいられず、なつ美のもとへやってきた。芙美子は、叔母に「彼に嫁ぐ以上、その瞬間が最後になっても後悔せぬよう行動しなさい」と言われていたにも関わらず、深見の前で強がりを言ってしまったことを悔やんでいたようだ。
でも、深見は芙美子のすべてを理解してくれている。強く見えるけれど、実は繊細で相手の気持ちを考えすぎてしまうところがあること。深見が無事に戻ってきた時、芙美子はずっと堪えていた涙をこぼしていた。
深見も、「死を覚悟した時、もう一度芙美子さんに会いたいと思いました。会えてよかった」と愛の言葉を伝える。しかし、そのあとすぐ「いやぁ、それにしても芙美子さんがあんな顔してくれると思いませんでしたよ。そんなに僕のことが心配でしたか?」とちょけるあたりも、深見らしい。
怪我をしている深見の手をぎゅっとつねり、「調子に乗らないでください」と照れ隠しのように返す芙美子。その頬には、まだ涙のあとが残っていた。お互いに不器用ながらも、たしかに心が通じ合っている——。そんな2人の距離感が、たまらなく愛おしい。深見×芙美子の結納は、まだ描かれていないので、どうか続編かスペシャルを…!
『めおと日和』が視聴者の心に残したもの
「この時代は、戦争の気配を感じながらも、まだ穏やかな時間があったんですね。いえ、もしかすると戦争の気配を感じているからこそ、日常の小さな幸せが煌めくように輝いていたのかもしれません」
この活動弁士(生瀬勝久)の言葉に、本作が伝えたかったメッセージが凝縮されているように感じた。スマートフォンが発達した現代では、相手からの返信が少し遅れただけで、「なんで返さないの?」と喧嘩が勃発してしまったりする。便利な時代にはなったけれど、風情がないなぁと思うこともしばしば。その点、なつ美と瀧昌が生きている昭和初期は、ただ相手を信じるしかなかった。無事を祈り、帰宅をただ待つ。
とくに、瀧昌のように長期間家を空ける場合は、一つひとつの“約束”が、2人をつなぐ魔法になる。旅行をする、蛍を見る、指輪を取りに行く…そんな未来の約束が、瀧昌となつ美の心をつなぎ、今を頑張る活力を与えてくれていたのだろう。
「会える日が少ないからこそ、今まさにこの時間が、1時間が、1分が、1秒が。特別で大切だから、短くて長いんです」となつ美は言っていた。わたしは、日常の小さな幸せを、ちゃんと大切にできているだろうか。『めおと日和』は、ただただキュンキュンするだけのドラマではない。視聴者の心に、たくさんの“何か”を残してくれる作品だった。
【著者プロフィール:菜本かな】
メディア学科卒のライター。19歳の頃から109ブランドにてアパレル店員を経験。大学時代は学生記者としての活動を行っていた。エンタメとファッションが大好き。
【関連記事】
・【写真】芳根京子と本田響矢の“むずキュン”が熱狂を生む… 貴重な未公開写真はこちら。ドラマ『波うららかに、めおと日和』最終話劇中カット一覧
・ウブな2人の成長に“逃げ恥”との共通点も…『波うららかに、めおと日和』ヒットのワケ。第9話考察&感想レビュー
・うぶキュンと激しい頭脳戦…山本舞香のカッコよさが光ったワケ『波うららかに、めおと日和』第8話考察&感想レビュー
【了】