間宮祥太朗の熱演が光る…“宇崎”の熱量が動かしたものとは?ドラマ『イグナイト -法の無法者-』最終話レビュー【ネタバレ】
ドラマ『イグナイト -法の無法者-』(TBS系)が最終回を迎えた。本作は、争いの火種を見つけ、訴訟を焚きつけるダークリーガル・エンターテインメント。間宮祥太朗が、大金を稼ぐ“無法者”な弁護士を演じる。今回は、最終話のレビューをお届け。(文・ばやし)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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『イグナイト』最後の戦いが始まる
彼らは何のために、誰のために戦うのか。最終決戦の火蓋が切られた第10話で、熱を極限まで滾らせた宇崎(間宮祥太朗)は、“復讐心”と“正義感”を燃料にしてきたこれまでの日々と向き合い、もう一度、最後の戦いに向けて自身の心に火を灯す。
GIテクノロジーズが起こしたシステム暴走の証拠を手に入れるため、会社を辞めた元社員たちに聞き込みを行う轟(仲村トオル)らピース法律事務所の面々。
そこで、GIテクノロジーズの自動運転システムの監視を担当していた“モビリノ”という会社の存在を知り、伊野尾(上白石萌歌)は裁判所の執行官らを伴って、事故当日の監視記録の保全に向かう。
しかし、そう簡単にことは進まない。宇崎たちと敵対する内閣官房長官の石倉(杉本哲太)が新たに依頼した弁護士は、第6話で轟との因縁の対決に敗れた千賀(田中直樹)。高井戸の一件以来、影を潜めていた千賀だったが、最後の敵としてピース法律事務所の前に立ちはだかる。
純子(藤田朋子)がまさかの事態に
「モビリティシティ・プロジェクトは国益に関わることなので」と淡々と語る石倉の言葉は、巨大な権力の上に立つ彼が、いかに5年前のバス事故を矮小化しているかを物語っていた。
刑事事件で救えない案件をこれまでピース法律事務所に流してきた浅見(りょう)が轟に「そもそも警察と検察がそれをできないのがおかしいでしょ。この組織も一度、壊れるときがきてる」と話す。彼女が言うように、一度、凝り固まってしまった利権や絡みついたしがらみは、そう簡単に解けるものではない。
そして、秩序の瓦解した組織はいつだって、その“ねじれ”を何の罪もない他者へと押しつける。原告として証言台に立つはずだった宇崎の母・純子(藤田朋子)が、通り魔によって刺されてしまうのだ。
順調に証言を集めつつあったピース法律事務所には激震が走る。息子の勝利を願い、毎日のようにとんかつ料理を息子に振る舞うなど、健気で愛らしい母親を体現していた彼女が呆気なく道で倒れ込む姿は、あまりにもショッキングだった。
大切なものを守るために弁護士になった宇崎にとって、誰よりもかけがえのない母親の身に降りかかった悲劇は、自身の正義を揺るがしかねない出来事だったはずだ。許しがたい現実を前にして、母親のいない自宅で葛藤する宇崎。そんな彼の心に再び火を焚きつけるべく訪れたのは、弁護士として露頭に迷いそうになっていた宇崎を受け入れて、ともに闘う道を示してくれた轟だった。
宇崎(間宮祥太朗)がもう一つ焚きつけたことは?
「Ignite(イグナイト)=着火する」というタイトルを体現してきたのは、間違いなく宇崎だ。苦しむ人々を見過ごすことができず、暑苦しいほどの熱量で原告たちを次々と焚きつけては、声を出せない人々を救ってきた。
そんな宇崎が焼べた炎は、いつの間にかピース法律事務所のメンバーの心にも引火していた。「伊野尾と高井戸もお前の影響でしつこくなった」と轟が言うように、初回では宇崎にそっけない態度をとっていたふたりも、少しずつ彼が持つまっすぐな熱さに感化される。
過去のトラウマから単独行動ができなかった伊野尾は、証言台に立つことを取り下げた社員にもう一度、頼み込むために、ひとりで現場に向かおうとする。そんな彼女を単独で行かせるわけにはいかないと、すぐにヘルメットを持ってあとを追う高井戸も、あんなに気持ちを高ぶらせて感情を露わにするキャラクターではなかったはずだ。
「お前の中にあるそのまっすぐな正義にだけは絶対に嘘をつくな」と轟に告げられた宇崎がこれまで無我夢中で焚きつけてきた炎は、めぐりめぐって彼の消沈した心に再び、火を灯す。
奇想天外な轟(仲村トオル)の策とは?
民事裁判では、事前に証拠がすべて開示されている。つまり、この物語でたびたび目にした裁判シーンでの鮮やかな逆転劇は、彼らの事前準備の賜物ということになる。
これまで利益を重視した経営方法のもと、事件の裏に隠された真実を引き摺り出すためには、手段を選ばないやり口で訴訟を起こしてきたピース法律事務所。なぜ轟がアウトローな手段を持ってまでして、原告たちに訴訟を焚きつけて、賠償金を稼いできたのか。そのすべての伏線が回収されて集約されたのが「証拠のために会社ごと買収する」というとんでもないアプローチだった。
普通ならそんな奇想天外な手段など、観ていて「ありえない」と一笑に付してしまうことだろう。しかし、轟が5年前のバス事故によって娘を失ってから、どれほどの覚悟と執念で事故の真相に迫ってきたのかを我々は目の当たりにしてきた。彼ならやりかねない。そう自然と納得させられるほどの姿を轟は見せてくれていた。
そして、轟と桐石(及川光博)が多少、強引だとしても正攻法で証拠を掴んだかと思えば、高井戸と浅見のアンダーグラウンドなコンビは、ほとんど黒に近いグレーな手段で医師の陳述書をもぎ取る。
表と裏でまさに正反対とも言える証拠の集め方であるにもかかわらず、どちらもピース法律事務所“らしい”やり方だと思えることこそ、この物語の何よりもの魅力なのではないだろうか。異端なピース法律事務所の戦い方を最後まで一貫して描ききった制作陣にも拍手を送りたい。
ピース法律事務所のメンバーが心に残したもの
初めてバス事故の裁判で登場した内閣官房長官の名前。ここまでの長い道のりを思うと「ようやくか…」と一息ついてしまいそうになるが、むしろ、ここまでしないと権力の闇に葬られた真実は明らかにならないのだと嘆息してしまう面もある。
石倉の行いは、おそらく氷山の一角にしかすぎないのだろう。しかし、国益という大義を掲げながらも、目の前で風前の灯火となっている命を見て見ぬふりをする人間に国を守る資格などない。
最後に宇崎は「私の家族を批判してきた人たちに、この世界の全員に、オヤジは最高の人間だったと言いたいです」と証言台で告げる。彼の心に焚きつけられた火は、復讐にかられた憎しみを燃やすためではなく、無実の罪で糾弾された父親と、世間から加害者家族として非難された母親の人生を照らすためにあった。
今もこの世界には、目には見えない闇が蔓延っている。その闇から目を逸らすために放火された炎は、火の粉となって罪のない人々に降り注ぐ。焼けつく痛みに耐える人、憎しみの心で燃やし尽くされそうになっている人。さまざまな事情で声を出せない人々が、まだまだ無数に存在している。
それでも「争いは起こせばいい」とまっすぐに心を焚きつけてくれるピース法律事務所の4人がいるならば…。その炎はきっと熱く胸を滾らせて、先の見えない真っ暗な道をこれでもかと明るく照らしてくれるはずだ。
【著者プロフィール:ばやし】
ライター。1996年大阪府生まれ。関西学院大学社会学部を卒業後、食品メーカーに就職したことをきっかけに東京に上京。現在はライターとして、インタビュー記事やイベントレポートを執筆するなか、小説や音楽、映画などのエンタメコンテンツについて、主にカルチャーメディアを中心にコラム記事を寄稿。また、自身のnoteでは、好きなエンタメの感想やセルフライブレポートを公開している。
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