シリアスなのに微笑ましい…斎藤工の「情けない」姿が驚くほどハマっているワケ。ドラマ『誘拐の日』第1話考察&感想【ネタバレ】

ドラマ『誘拐の日』(テレビ朝日系)が放送開始した。本作は、斎藤工演じる誘拐犯と、永尾柚乃演じる記憶を失った天才少女2人の奇妙な逃亡劇&特別な絆を描く《巻き込まれ型》ヒューマンミステリー。今回は第1話のレビューをお届けする。(文・ふくだりょうこ)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 感想 レビュー】

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どこか奇妙なでこぼこバディが誕生

『誘拐の日』第1話 ©テレビ朝日
『誘拐の日』第1話 ©テレビ朝日

 韓国での話題作をリメイクしたドラマ『誘拐の日』がスタートした。

 娘の手術費用を工面するため、主人公・政宗(斎藤工)は、妻・汐里(安達祐実)の立てた計画に従い、病院長の娘・七瀬凛(永尾柚乃)を誘拐することに。しかし、その始まりからどこか様子が奇妙だった。

 政宗が誘拐のために車を走らせていると、突如、彼の前にふらりと現れたのは、なんとその凛本人だった。あまりの展開に動揺する政宗。一方、電話越しに状況を把握していた汐里はどこか冷静で、「手間が省けた」とでも言いたげな落ち着きぶり。戸惑いながらも、政宗はそのまま凛を「誘拐」することに。

 ところが目を覚ました凛は、記憶を失っていた。咄嗟に、政宗は「自分が父親だ」と嘘をついてしまうが…。

 目覚めたばかりの凛がかわいいけど、かわいげがない。いやかわいげがないのがかわいいと言うべきか。

 汚いものを触るかのように孫の手で室内のものをどかしたり、指さしたりと、政宗に対しても偉そうだが、ただ態度がでかいだけではない。鋭い洞察力で「本当に父親?」と疑いのまなざしを向ける。

永尾柚乃の“天才ぶり”がすさまじい

『誘拐の日』第1話 ©テレビ朝日
『誘拐の日』第1話 ©テレビ朝日

 数分で天才少女であるということを提示する永尾の演技力がすさまじい。天才ぶりが圧倒的なので「子どものくせに生意気」だとか、「偉そうで鼻につく」ということがあまりない。政宗はそんな凛に終始タジタジだ。

 凛の態度が少しばかり変わるのは終盤。何者かに連れ去られそうになったところを政宗が駆けつけ、以降、政宗のことを「パパ」と呼び始める。序盤でさんざんツンツンしていたのでこのギャップがたまらない。1話の間ですっかり凛に心を奪われてしまった。

 凛というキャラクターがここまで輝くのは、彼女の隣にいる政宗の“情けなさ”あってこそだろう。妻・汐里に言われるがまま、誘拐というとんでもない行動に出た政宗は、凛を連れ去ったあともずっとおどおどしている。終始イレギュラーな展開に翻弄され、彼は第1話のほとんどを“軽いパニック状態”で過ごしている。

 凛が突然目の前に現れたことに始まり、親に身代金の連絡すらつかず、あげくの果てには凛が謎の人物に連れ去られそうになる…このカオスな状況に政宗はまったくついていけない。

 凛からは「小汚い」とまで言われてしまうが、そんなボロボロな姿が斎藤工、斎藤工にはやけにハマっている。いつもは“ミステリアス”や“クール”といった属性が付け加えられるが、本作では今回はミステリアスのミの字もない。むしろ全身で情けなさをさらけ出す姿に、どこか“キュートさ”すら漂っている。

 そして、そんな頼りない政宗を引っぱっていくのが、大人顔負けなほどしっかり者の凛。でこぼこバディを形成していく様子が、このドラマの大きな魅力になっている。

初回から大量の“謎”が…。

『誘拐の日』第1話 ©テレビ朝日
『誘拐の日』第1話 ©テレビ朝日

 凛と政宗、それぞれのキャラクター性が強く印象付けられた第1話だったが、それと同時に数々の“謎”も提示された。

 まずは、凛の両親がすでに死亡していたという衝撃的な事実。遺体の発見が遅れ、母親はかなり腐敗が進んでいたという凄惨な状況だった。

 さらに屋敷の中には隠し部屋があり、そこには不気味な研究室のような空間も。凛の体には複数の痣があり、明らかに虐待を受けていた様子が見て取れる。そこに加えて、彼女の天才的な頭脳。両親から何らかの“実験”や“教育”を受けていた可能性が匂わされる。

 また、物語の“黒幕”のような雰囲気を漂わせているのが、政宗の妻・汐里の存在だ。遠距離から政宗に指示を出すだけで、自らは一切手を汚さず、職場のような場所で淡々と指示を出す姿はどこか不気味。そもそも凛の誘拐を計画したのも彼女であり、金銭目的以外に“別の意図”があるのではないかという疑念も残る。

 さらに気になるのは、凛を狙う謎の存在の登場。誰が何のために彼女を追っているのか、そして凛が失った記憶を取り戻すことで、今後の物語は大きく動き出しそうだ。

 そしてもう1つの“爆弾”は政宗自身。警察からすぐに誘拐犯として目をつけられたのは、彼に「殺人」の前科があったからだ。現時点では凛の両親殺害との関連性も否定できないが、あの人の良さそうで、どこか頼りない政宗が“殺人犯”とは到底思えない。そのギャップこそが、今後の展開に向けた最大のフックになっている。

 物語のテンポが早く、政宗は早々に誘拐犯として警察に目をつけられるばかりか、凛からも「本当のことを話して」と詰め寄られる事態に。(凛はもともと父親だなんて信じていなかったかもしれないが)。

 とりあえず今は、凛に振り回される政宗の図が微笑ましいな、などと思ってしまっているが、人が死んでいる。しかし、忘れてはいけない。物語の裏側では、すでに人が命を落としているという事実がある。この先、軽妙なやりとりに笑っていられる時間は、そう長くないのかもしれない。

【著者プロフィール:ふくだりょうこ】

大阪生まれ関東育ちのライター。
大学卒業後からライターとして活動、シナリオ制作やエンタメジャンルの記事を中心に執筆。
ドラマと邦画、ハイボールと小説が好き。

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【了】

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