これは千早になれなかった「私たちの物語」…初回から胸打たれたワケ。 ドラマ『ちはやふる-めぐり-』第1話考察&感想【ネタバレ】

text by 苫とり子

當真あみが主演を務める7月期水曜ドラマ『ちはやふる-めぐり-』。本作は、競技かるたに青春をかける高校生たちの姿を熱く描いた、映画シリーズから10年後、バトンを受け継いだ令和の高校生たちの青春を描くオリジナルストーリーだ。今回は、第1話のレビューをお届け。【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】(文・苫とり子)

これは「私たちの物語」だ――。

『ちはやふる-めぐり-』第1話©日本テレビ
『ちはやふる-めぐり-』第1話©日本テレビ

「むしろ早く気づけてよかったです。自分が誰かの脇役だってことに」

 そんなめぐる(當真あみ)の台詞にとっくに忘れていた心の古傷が痛んだ。そして、同時に確信した。これは千早(広瀬すず)になりたくて、なれなかった「私たちの物語」なのだ――と。

「BE・LOVE」(講談社)で2007年から2022年まで連載された末次由紀の大ヒットコミック「ちはやふる」。広瀬すず主演で実写化され、2018年公開の『ちはやふる ―結びー』で完結となった映画3部作の10年後の世界を描くドラマ『ちはやふるーめぐり―』が放送開始となった。

 映画は、競技かるたに魅せられた千早が女性日本一の称号“クイーン”を目指して、仲間たちと切磋琢磨する姿を描いた青春ストーリー。対するこの続編の主人公・めぐるは梅園高校競技かるた部に内申のためだけに所属している幽霊部員で、目の前の青春よりも将来への投資に精を出している。

「青春」は今や贅沢?

『ちはやふる-めぐり-』第1話©日本テレビ
『ちはやふる-めぐり-』第1話©日本テレビ

 印象的だったのは、そんなめぐるから放たれる「青春セレブ」というワードだ。この10年、私たちを取り巻く環境や人々の価値観は大きく変化した。

 消費税も物価も上がり続けているのに、給料はほぼ据え置きで暮らしは生活は厳しくなるばかり。そこに来ての新型コロナウイルス。仕事を失った人も少なくなく、誰もが“備えあれば憂いなし”を嫌というほど味わった。

 思えば、「努力は必ず報われると人生をもって証明します」という高橋みなみのスピーチが感動を呼んだ第7回AKB48選抜総選挙からも、ちょうど10年が経っている。当時はまだその言葉を信じられる希望がわずかながらも残っていたが、今や10代〜20代の若者ですら薄ら笑いを浮かべてしまうような世の中だ。

 特に子供の頃から勉強でも運動でも1番になれず、必死に臨んだ中学受験にも失敗しためぐるからしてみれば、そんなの勝者のたわ言。自分のような脇役には青春は贅沢で、そういうのは将来、オリンピックの選手や億万長者になれる一部の人間だけに与えられた特権だと思っても仕方ないのかもしれない。

めぐる(當真あみ)を導くのは、千早ではなく奏(上白石萌音)

『ちはやふる-めぐり-』第1話©日本テレビ
『ちはやふる-めぐり-』第1話©日本テレビ

 そんなめぐるに大人の立場から青春の素晴らしさを伝えるキャラクターが、千早ではなく、千早の輝きを常に隣で浴びてきた奏(上白石萌音)というところに胸を打たれた。千早はモデルの姉にも劣らない美少女で夢に向かってまっすぐ。

 その姿は周囲の人々にも影響を与え、ついにはクイーンになるという夢を叶えた。卒業後は顧問として母校の瑞沢高校競技かるた部を何度も全国優勝に導き、どうやら現在は海外の子供たちにかるたを教えているようだ。まさに漫画に出てくるような圧倒的主人公。

 対する奏は日本文化と古典をこよなく愛し、京都で研究職を目指していたが、叶わず梅園高校の教師になった。高校生活を将来の投資ではなく、目の前の青春に注ぎ込んだ、いわゆる「青春セレブ」の奏はなりたかった自分にはなれていない。では、あの日々はすべて無駄だったのか? いや、そうじゃない。

「初めはただの石ころだったかも知れません。それが時を追うごとに磨かれて、10年経った今ではどんな高価な宝石よりも輝いています。あの3年間を、あの手触りを思い出すと、私は何度でも立ち上がれるような気がするの」

 それは千早になりたくて、なれなかった私たちを肯定するような台詞だった。一見すると無駄だったように思える夢や目標に向かって努力した日々や、仲間と過ごした思い出が知らず知らずのうちに今の自分を支えている。それもまた、将来への投資なのだと思わせてくれた。

「部活もの」ドラマは久しぶり?

『ちはやふる-めぐり-』第1話©日本テレビ
『ちはやふる-めぐり-』第1話©日本テレビ

 そんな奏の言葉に胸を打たれ、文化祭で千早と同じく圧倒的主人公の輝きを持ち、昔から一緒にいるとコンプレックスを刺激される凪(原菜乃華)と競技かるたで対戦することになっためぐる。

 最終的に敗北してしまうが、自分の名前が入った「めぐりあいて」の札を取ることができた。その一瞬が、きっとこの先、何十年もめぐるを支える宝物になるのだろう。

『WATER BOYS』(フジテレビ系)や『がんばっていきまっしょい』(カンテレ・フジテレビ系)など、部活に青春を懸ける高校生たちを描いたドラマが溢れていた平成。今も学園ドラマは存在しているが、いじめや受験戦争など生徒が抱える悩みを通して社会問題にメスを入れる作品が多く、こんなにキラキラした青春ドラマは久しぶりな気がする。

 それもまたきっと、社会不安が高まる今の日本を象徴しているのだろう。『ちはやふる』の持つパワーが、少しでも今を生きる若者たちの青春を輝かせ、ひいては社会全体を明るくしてくれることを願っている。

【著者プロフィール:苫とり子】

1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。

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