「ファンの皆さんに胸を張って送り出すことができる」ドラマ『ちはやふる』榊原Pが語る、映画制作陣から“継承”したものとは?

text by 苫とり子

末次由紀原作の映画『ちはやふる』シリーズの10年後を舞台にしたドラマ『ちはやふる-めぐり-』(日本テレビ系)。廃部危機の梅園高校・競技かるた部のめぐる(當真あみ)が、顧問の奏(上白石萌音)と出会い、成長していく姿が描かれる。榊原真由子プロデューサーに続編制作の裏側を語ってもらった。今回は前編。(取材・文:苫とり子)

——————————

「今、この一瞬を生きることが、10年後の自分を支える宝物になる」

『ちはやふる-めぐり-』©日本テレビ
『ちはやふる-めぐり-』©日本テレビ

―――映画『ちはやふる』シリーズの完結から7年。このタイミングで続編が製作されることになった経緯を教えてください。

「映画公開当時、私はまだ日本テレビに入社していなかったんですが、映画『ちはやふる』シリーズが完結した時に北島直明プロデューサーが『また10年後にみんなで集まりたいね』という話をしていたようです。その時はまだ具体的に何かが決まってるわけではなかったんですが、いつか…という思いはあったみたいで。そんな中で新型コロナウイルスが日本を襲って、国内のスポーツ大会が軒並み中止になってしまったじゃないですか。競技かるたも、顔と顔を突き合わせてやる競技なので例外ではありませんでした。

そんなコロナ禍を経験したことで、若者のあり方が大きく変化したと思っていて。今回のドラマでも描いていますが、社会全体が漠然とした不安に包まれる中で、本来なら10代なんて、やりたいことをやって今を全力で楽しんでいいはずなのに、どこか将来苦労しないように時間を有意義に使わなきゃいけないという空気があるような気がします。それも決して間違いではないんですが、“今、この一瞬を生きることが、将来の自分を支える宝物になる”という『ちはやふる』が描いてきた大事なメッセージを今こそ伝えるべきではないかと思い、末次先生ともお話して今回の企画が始まりました」

―――第1話で主人公のめぐるから出てきた「青春セレブ」というワードに衝撃を受けました。

「“青春セレブ”というワードは末次先生と話す中で出てきたものです。かつては青春するか、しないかの選択は本人の意思に委ねられていたのに、例えば今は甲子園に行けるような実力を持っている一部の“エリート“だけの特権で、そうじゃない子はどうせプロ野球選手にはなれないのだから、そんな無駄なことに時間を費やすよりは、将来への投資に使った方がいいという考えを持っている子がすごく多いらしいという話になって。改めてこの物語を届けることの重要性を痛感しました」

―――そういう現代の若者像を反映させたのが、めぐるなんですね。特に競技かるたは遠征費だけでもかなりの額がかかりますし、プロが存在せず、全員アマチュアということもあって、めぐるにとっては最も遠い世界のように思います。

「そうですね。名人やクイーンになっても、それだけでは食べていけず、どの方も普段は別の仕事をされているので、めぐるにとってはかるたは『無意味』であり『贅沢』と切り捨ててきたような世界です。でも、本当はそうじゃなくて…というところが本作の大事なポイントになっています」

最もこだわったのは、末次先生と一緒に物語を作ること

『ちはやふる-めぐり-』第1話©日本テレビ
『ちはやふる-めぐり-』第1話©日本テレビ

―――榊原さんにとって、『ちはやふる』とはどのような存在ですか?

「もともと原作も映画も一ファンとして大好きだったので、まさか自分がその続編に携われるとは思わず、本当に嬉しかったです。末次先生にも初めてお会いした時にも私なりの思いを伝えて、励みになる言葉をかけていただきました。末次先生は本当に愛のある素敵な方で、生徒役の皆さんのこともすごく大事に思って、これまで何度も何度も現場に足を運んでくださっています。また今回は映画に引き続き、競技かるた界の皆さまにも色々とご協力をお願いしたのですが、皆さん口を揃えて『ちはやなら!』と快諾してくださって。末次先生がこれまで競技かるた界になさってきた貢献の大きさ、そしてその恩恵を私たちはいただいているということを実感し、身が引き締まる思いでした」

―――末次先生は今回の作品にどのような形で携わっていらっしゃるのでしょうか。

「今回は原作にはないオリジナルストーリーになりますが、『ちはやふる』の世界を作り上げたのは末次先生なので、末次先生と一緒に物語を作るというのが最もこだわったところです。まずはショーランナーの小泉徳宏さんと脚本チーム、藤田直哉監督、われわれプロデューサー陣で末次先生と打ち合わせをさせていただき、物語の土台を固めました。そこで末次先生から伺ったお話を踏まえてプロットやキャラクターを作り、末次先生からいただいたフィードバックをもとに推敲して、末次先生からOKをいただいたら脚本に進むという流れになります。脚本に関しても同じように末次先生と、ひたすらキャッチボールを繰り返しながら作っていきました。お忙しい中でお時間を作ってくださった末次先生には、本当に感謝しかありません」

―――完成した映像をご覧になった末次先生の反応はいかがでしたか?

「『号泣しました。すごく大好きです』という素敵なお褒めの言葉をいただいて、すごく嬉しかったです。末次先生に今回の作品を気に入っていただけて、まずはホッとしたというのが一番ですが、これで『ちはやふる』ファンの皆さんに胸を張って送り出すことができると思えたのを覚えています」

日本では馴染みのないショーランナーの役割とは?

『ちはやふる-めぐり-』第1話©日本テレビ
『ちはやふる-めぐり-』第1話©日本テレビ

―――映画『ちはやふる』シリーズでプロデューサーを務めた北島直明さんからは、バトンを受け継ぐにあたって何か印象に残る言葉はありましたか?

「今回は“めぐり“や“継承”をテーマに据える以上、キャストだけではなく、スタッフも主だった役割は若手に継承しようということで、北島Pから作品を受け継ぐことになりました。北島Pも映画を作った時は30代前半で、それこそ広瀬すずさんや上白石萌音さん、野村周平さんをはじめとする若いキャストたちと一緒に、これで失敗したら、次はないぐらいの気持ちで作品と向き合っていたそうです。『今度は榊原が若いキャストたちと本気でぶつかって、本気で向き合って、いい作品を作ってほしい』と言われたのが、すごく心に残っています」

―――また、映画『ちはやふる』シリーズの小泉徳宏監督が今回の続編にはショーランナーとして携わっていらっしゃいますが、まだ日本では馴染みのない職種だと思うので、具体的にどういう役割をされているのかを伺ってもよろしいでしょうか。

「ショーランナーは直訳すると製作総指揮なんですが、小泉さんにお願いしていることとしては第一に脚本のクオリティの担保です。今回は“ライターズルーム”というシステムを採用し、小泉さんを含む計5人の脚本家の皆さんと藤田監督、われわれプロデュサー陣がアイデアや知識を持ち寄る形で脚本制作を進めてきたのですが、やっぱり複数人体制でやっていると、ストーリーに矛盾やズレが生じることもあるので、そこを小泉さんが決定権を持って整えてくださいました。編集や音楽に関しても監修いただいたりと、全体的なクオリティ面でのトップを務めてくださっています」

―――今回、このようなシステムを採用された理由は何ですか?

「映画の世界観を崩さず、続編を作るには小泉さんの力が必要不可欠だと思っていました。ただ小泉さんとしても、自分が実際に現場で監督として撮るのは違うと感じていたみたいで。自分が撮ったら同じものになってしまうし、先ほどお話した“継承”の精神から離れてしまう。かといって映画を愛してくれたファンの皆さんをがっかりさせず、きちんと楽しんでもらえるものにするのは自分の役目だとおっしゃってくださったので、私たちとしてもぜひ小泉さんのお力を借りしたいと思い、このような形を取りました」

【著者プロフィール:苫とり子】

1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。

『ちはやふる-めぐり-』榊原真由子プロデューサーインタビュー【後編】へ

【関連記事】
【写真】當真あみがかわいすぎる…貴重な未公開カットはこちら。『ちはやふる-めぐり-』第1話劇中カット一覧
「大人になっても青春はできる」ドラマ『ちはやふる-めぐり-』プロデューサーが、広瀬すずらOG・OB再集結の裏側を語る
これは千早になれなかった「私たちの物語」…初回から胸打たれたワケ。 ドラマ『ちはやふる-めぐり-』第1話考察&感想【ネタバレ】
【了】

error: Content is protected !!