独身女性への「舐めた視線」がきつすぎる…”孤独死”へのイメージが逆転したワケ。『ひとりでしにたい』第4話考察&感想【ネタバレ】

text by 菜本かな

綾瀬はるか主演のNHKドラマ『ひとりでしにたい』(毎週土曜よる10時放送)。本作は、愛猫と暮らす独身女性の主人公・鳴海が、幼少期より憧れの存在だった独身の叔母の孤独死をきっかけに、自身の終活について考える物語。今回は、第4話のレビューをお届けする。(文・菜本かな)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】

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女性の生き方は選択肢が多すぎる

『ひとりでしにたい』 第4話 ©NHK
『ひとりでしにたい』第4話 ©NHK

 当たり前だが、すべてを手にできる人間はいない。だからこそ、“隣の芝生は青く見える”現象が起きてしまうのだろう。

『ひとりでしにたい』の主人公・鳴海(綾瀬はるか)の母・雅子(松坂慶子)は、“クリスマスケーキ理論”(=25歳を過ぎると行き遅れとされる考え方)が唱えられていた時代に、就職を迎えた。当時は、女性が入社しても「どうせ、結婚していなくなるんだろう」という空気があり、ろくな仕事をさせてもらえなかったらしい。そういった扱いを受けていたら、「早く結婚して寿退社しなければ」と急かされるのも無理はない。

 そんな時代と戦っていたのが、鳴海の伯母の光子(山口沙弥加)だ。彼女は、独身のキャリアウーマンとして、世間の冷たい視線に耐えた働き続けた。

 4月期放送のドラマ『対岸の家事〜これが、私の生きる道!〜』(TBS系)でも描かれていたけれど、女性の生き方はあまりにも選択肢が多すぎる。結婚するか、しないか。仕事を続けるか、辞めるか。子どもを産むか、産まないか。

 人生のターニングポイントで、わたしたちはいくつもの曲がり角を経験することになる。その結果、年齢を重ねるごとに人生は枝分かれし、途中まで同じ道を進んでいた友人とも、いつしか違う方向へと進んでいく。

「本当の勝利は、他人なんかに勝つのを辞めること」

『ひとりでしにたい』 第4話 ©NHK
『ひとりでしにたい』第4話 ©NHK

 しかし、どの選択が正解なのかは誰にも分からない。ただひとつ言えるのは、誰もが“選ばなかった人生”への未練や羨望を少なからず抱えていることだ。選ばなかった道は、どれだけでも脚色できる。

 もしあの時、違う選択をしていたら――そんな“もしも”の世界は、現実よりも都合よく美しく思えてしまうことがある。だからこそ、専業主婦の雅子とキャリアウーマンの光子は、たびたびマウント合戦を繰り広げてきたのだろう。「自分が選んだ道が正しいのだ」と証明するために。

 ただ、鳴海が言うように、「本当の勝利は、他人なんかに勝つのを辞めること」なんだと思う。自分の人生を他人と比べて、“勝った”と思ったところで、そこに本当の幸せはあるのだろうか。

 たとえ、ひとりの人間に勝ったとしても、その先にはまた新たな“誰か”との勝負が待っている。だから、わたしたちがしなければならないのは、“すべてを手にできる人間はいない”という当たり前の事実を認めることだ。

 持っていないものを数えるのではなく、いま自分が持っているものの価値に気付くこと――そこからしか、幸せは生まれないのだと思う。

世間からの“舐めた視線”

『ひとりでしにたい』 第4話 ©NHK
『ひとりでしにたい』第4話 ©NHK

 正直、わたしも孤独死した光子のことを「不幸な老後を送っていたのだろうな…」と思ってしまっていた。しかし、光子の遺品から、“推し”の舞台チケットが見つかったことで、彼女へのイメージが180度覆されることになる。

 最期が悲惨だったからといって、それまでの人生がオセロのようにすべてひっくり返るわけじゃない。人間は、ひとりで生きても死ぬまで希望を持つことができるのだ…と。

 とはいえ、他人の目が気になってしまうのも事実だ。たとえば、鳴海が保険の見直しのために元カレ・健太郎(満島真之介)に連絡した時、彼は「本当に保険の話をしに来たんだ」と舐めたような態度を取った。この時の健太郎の憎たらしい顔といったら…! きっと彼は、「仕事と趣味を謳歌していた元カノが、40を前に結婚に焦って連絡をして来たんだろう」と都合よく思い込んでいたに違いない。

「ざまあみろ!」と言ってやりたいところだが、社内では社内で、鳴海が那須田(佐野勇斗)と仲良くしていることを、「結婚に焦った女が、恐れ多くも一回り以上年下のエリート男子に付き纏っている」と陰で噂する同僚も少なくない。独身を貫き通すには、この世間からの“舐めた視線”に耐え抜く強さがマストになってくる。

“しがらみ”が欲しい那須田(佐野勇斗)

『ひとりでしにたい』 第4話 ©NHK
『ひとりでしにたい』第4話 ©NHK

 それにしても、第4話も那須田があまりにも可愛すぎた。「この気持ちが恋愛感情なのかは分からない。でも、また2人で出かけたい。どこがいいだろう。まあ、いいや。俺は山口さんがいればどこでも楽しいんだ」と言う那須田の友達になって、「それ、とっても素敵な感情だよ!」と教えてあげたくなる。

 どうやら、那須田は鳴海との間に“しがらみ”がほしいらしい。原作漫画には、「山口さんが女性じゃなかったら、俺はこんな気持ちになっていただろうか?」と悩む那須田の姿も描かれていた。

 もしかすると、那須田の鳴海への気持ちは、“飛び級”してしまっているのかもしれない。一般的には、恋のドキドキが愛の安心感に変わっていくものだが、那須田は最初から鳴海に“愛”を持っていた。

「どうにかしてあげたい」「支えてあげたい」「ただただ、幸せになってほしい」と。与えられることを願うのではなく、与えてあげたいと思っている那須田は、まるで恋を通り越して愛を先に知ってしまった人のようだ。

 しかし、鳴海はそんな那須田のラブコールにまったく気付いていない…どころか、墓参りについて来ることも「あいつ、だいぶ変だな。他人の家の墓を訪問したいって」とちょっと引き気味だったし、「俺は一度関わった以上、山口さんや山口さんのお父さんが破滅する展開は見たくないです!」と訴えても、「そこまで父のことを?」と思うだけ。

 鳴海と那須田のギャグのようなすれ違いはかなり面白い。でも、いつかは2人の間に“しがらみ”が生まれたらいいな…なんて思ってしまうのはわたしだけだろうか。

【著者プロフィール:菜本かな】

メディア学科卒のライター。19歳の頃から109ブランドにてアパレル店員を経験。大学時代は学生記者としての活動を行っていた。エンタメとファッションが大好き。

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【了】

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