クロワッサンを貪る松たか子に恐怖…夏ドラマ大本命と期待される『しあわせな結婚』初回の評価は? 考察&感想レビュー【ネタバレ】

text by 苫とり子

阿部サダヲ主演、松たか子共演のドラマ『しあわせな結婚』(テレビ朝日系)が放送開始した。本作は、大石静が脚本を手掛ける、妻が抱える《大きな秘密》を知っても愛し続けることができるのか?と夫婦の愛を問うマリッジ・サスペンス。今回は、第1話のレビューをお届け。(文・苫とり子)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】

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夏の暑さも吹き飛ばすマリッジ・サスペンス

『しあわせな結婚』第1話 ©テレビ朝日
『しあわせな結婚』第1話 ©テレビ朝日

 夏ドラマの大本命『しあわせな結婚』が始まった。本作は昨年、NHK大河ドラマ『光る君へ』(2024)を手がけた大石静による完全オリジナル作品。人気弁護士の原田幸太郎(阿部サダヲ)が謎めいた鈴木ネルラ(松たか子)と電撃結婚することから始まるマリッジ・サスペンスだ。

 が、「サスペンスというよりホラーでは?」というのが第1話の率直な感想だった。そう感じさせたのは、ネルラがクロワッサンを食べるシーンである。

 その前に少し前提を振り返りたい。幸太郎は検事を経て世間の注目を集めるセンセーショナルな事件の裁判で無罪を勝ち取り、有名となった弁護士。

 情報番組のコメンテーターとしてはもちろん、クイズ番組にも出演し、タレントのような業務もこなすという、現実世界でも見たことがあるようなキャラクターだ。ゆえに女性にも困っていないが、ひとりが好きで50年間独身を貫いてきた。

松たか子の怪演ぶりに戦慄

『しあわせな結婚』第1話 ©テレビ朝日
『しあわせな結婚』第1話 ©テレビ朝日

 そんな幸太郎が仕事中に突然倒れて入院。心身ともに弱っている時に出会ったのが、ネルラだ。ネルラに一目惚れした幸太郎はどうにか連絡先を得てアプローチをかけるも返事はなし。ところが、退院の日に病院の前で待ち伏せていたネルラから「うち行きませんか?」と誘われ、ついていく。

 そこでお茶請けに出されたのがクロワッサン。幸太郎は一口サイズにちぎって上品にいただくが、ネルラはなんと真ん中からかぶりつき、一心不乱に食べるのだ。当然のことながらパンくずはポロポロとこぼれ、口にもべったり。

 しかし、全く気にする様子がないのが怖い。バックで流れているクラシック音楽とのギャップもさらに恐怖を煽る。幸太郎に口についたパンくずをとってもらった時の嫌なのか、驚いてるのか、ときめいてるのか、全くわからない表情もどこか狂気めいていた。

 この女、変…!と普通なら危険信号を察知しそうだが、その飾らなさに惹かれたのだろうか。幸太郎はネルラとの結婚を決めるが、以降も彼女の奇行は続く。

 ラストではネルラが15年前に元婚約者・布勢夕人(玉置玲央)が転落死した件で、警察にマークされていることが明かされるが、正直、この女ならやりかねないと思ってしまった。クロワッサンの食べ方で、そう思わせられるのは松たか子しかいないだろう。

 もちろん、魅力がないわけではない。ネルラは美人で上品。だけど、教養と遊び心があって、わりと簡単に道を踏み外しそうな危うさ、ひいては守ってあげなきゃと感じさせる雰囲気を持っている。特に普通の女性に飽き飽きしているであろう幸太郎にとっては刺激的なのではないだろうか。すでに沼に片方の足を突っ込んでいる状態で、たとえネルラが殺人を犯していても受け入れてしまいそうな雰囲気がある。

鈴木家に漂う不穏な気配

『しあわせな結婚』第1話 ©テレビ朝日
『しあわせな結婚』第1話 ©テレビ朝日

 またネルラと同じくらい奇妙なのが、鈴木家の男たちだ。父の寛(段田安則)は日本最大の缶詰メーカーの創業者で、弟のレオ(板垣李光人)は実在するアイドル・超特急の衣装も手がけるデザイナー兼スタイリスト、母親代わりの叔父・孝は副総理にも指名されるゴルフのティーチングプロという、なかなかにやんごとなき一家。そんな彼らと、幸太郎は同じマンション内の別部屋でネルラとの新婚生活を送ることに。

 鈴木家は結びつきが強く、週に一度、家族で食事をする習慣がある。幸太郎も食事会に参加することになるが、レオからは「つまんないことしか言わないんだね」と辛辣な言葉をかけられ、寛には「だから弁護士は嫌いなんだ」と嫌味を言われるなど、まだネルラの夫として認められていない。そんなアウェイな状況で同居ではないにしろ、すぐに行き来できる距離で暮らすのは辛すぎる。ひとりが好きなら、なおさらだ。

 しかも一見普通の家族の会話なのに、不協和音に聞こえるのはなぜなのだろうか。「実は吸血鬼一家なんです」と言われても納得してしまうような奇妙さが鈴木家にはある。

 ネルラは宮沢賢治「銀河鉄道の夜」のカンパネルラから、レオはアメリカの絵本作家レオ・レオニから…という名付けの理由や、「抱きつきたかったけど、できなかったからクロワッサンを出した」といったエスプリが効いた台詞、オアシスによる主題歌など、おしゃれなフランス映画のような趣を感じる本作。

 その中にぷんぷんと感じる不穏な雰囲気の正体は一体何なのか。夏の暑さも吹き飛ばしてくれそうなゾワゾワを味わいたい。

【著者プロフィール:苫とり子】

1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。

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【了】

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