新婚の空気が一瞬で…視聴者までも支配する松たか子の芝居の凄みとは?『しあわせな結婚』第2話考察&感想レビュー【ネタバレ】
阿部サダヲ主演、松たか子共演のドラマ『しあわせな結婚』(テレビ朝日系)が放送中だ。本作は、大石静が脚本を手掛ける、妻が抱える《大きな秘密》を知っても愛し続けることができるのか?と夫婦の愛を問うマリッジ・サスペンス。今回は、第2話のレビューをお届け。(文・苫とり子)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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「私を人殺しだと思ってる?」
電撃結婚した妻・ネルラ(松たか子)に元婚約者の殺害容疑がかけられていることを知った幸太郎(阿部サダヲ)。真実が気になりながらも、ちょうど仕事が忙しくなったのを言い訳にネルラと向き合うのを避けていた。
『しあわせな結婚』第2話のハイライトは、そんな幸太郎の異変に気付いたネルラが核心を突くシーンだろう。
いつものように帰宅した幸太郎をネルラが笑顔で迎える。美容院帰りに竹下通りで買った2200円のワンピースを披露する彼女はいつになく上機嫌だった。そこから何の脈略もなく、「幸太郎さん、私を人殺しだと思ってる?」と切り出すネルラ。
前の話から引きずっていた笑顔がすっと消え、強張った表情になるグラデーションの変化に戦慄した。ほんの少し前にあった夫婦団欒の微笑ましい空気はどこへやら。一瞬にして物語に緊迫感をもたらす松たか子の凄みを感じずにはいられない。
ネルラ(松たか子)が事件の全容を語る
その後、ネルラの口から元婚約者・布勢(玉置玲央)との出会いと事件の全貌が語られる。2人は芸大の油絵科のクラスメイト。学生のうちから画家として頭角を現していた布勢をネルラは羨望の眼差しで見つめていたが、言葉を交わすことはなかった。
布勢の圧倒的な才能を前にして画家の夢に見切りをつけたネルラは大学院で絵画の修復学を学び、卒業後は修復の本場であるイタリアへ。修業の後、日本の美術館から修復の依頼を受けて帰国。友人から誘われた布勢の個展で2人は再会を果たす。
ゴッホの絵を修復するにあたって不安を吐露するネルラに布勢は「本物ほど不安なんだよ」と寄り添ってくれた。この時のネルラの表情がまた愛らしい。対する布勢も優しげな瞳をネルラに向けていて、2人が心底愛し合っていたことが伝わってくる。
布勢はネルラの家族にも気に入られ、鈴木家が所有する倉庫をアトリエに。「彼が描いているのを見ているだけで胸が震えたわ」とネルラは振り返る。しかし、幸せは長くは続かなかった。ある日突然、スランプに陥って全く描けなくなった布勢。
それまで順風満帆だった画家人生に陰りが見え、絶望した布勢はネルラを道連れに心中を図ろうとした。布勢に殺されそうになり、必死に抵抗している中で頭をぶつけて意識を失ったネルラ。目を覚ますと布勢は階段の下で生き絶えていたという。以降、ネルラは布勢を不幸にした自分に罰を与えるように生きてきた。
事件の真相はいまだ闇の中…。
「でも、幸太郎さんと出会ってしまったから…もう一度、生き直したいと思うようになったの。もう一度、幸せになりたいと思うようになったの。2人で楽しく生きたいって望むようになったの」
その瞬間、オアシスの「Don’t Back in Anger」とともに流れる幸太郎とネルラのこれまでを辿った回想シーンに、第2話にして泣いてしまった。まだ彼らに思い入れをするのは早い。頭ではわかっているが、松たか子の微笑んでいるのに泣いているような表情が私たちをネルラに同情させる。
幸太郎が真実をそっちのけで、「一緒に生きていくために頑張ろう」と肩を抱いたのも理解できてしまった。だが、どちらも表情は不安でいっぱいだ。徐々に遠ざかっていく主題歌もまた不穏である。
なお、幸太郎に依頼された臼井(小松和重)の調査によると事件当時、布勢の頭部には階段から落ちただけではできるはずのない打撲痕が発見されたという。そのことから第一発見者のネルラによる他殺が疑われたというわけだ。
しかし、ネルラは記憶がないの一点張りで、彼女を犯人とする証拠も見つからなかったことから事件ではなく事故で処理された。ネルラが覚えていない以上、真相は闇の中。でも、もし事件現場にネルラと布勢以外の第三者がいたら?次回予告の「あの日、誰かが…」というネルラの台詞からその存在が匂わされている。
鈴木家の「もう一つの位牌」は誰のもの…?
またサスペンスとしてはもちろん、ホームドラマとしても成立しているのが、本作の面白いところ。特に鈴木家の食卓会で繰り広げられるキャストの息の合った軽妙な会話劇にはいつまでも見ていられるような中毒性がある。
印象的だったのは、食卓にコチの天ぷらが並んだことをきっかけにネルラの父・寛(段田安則)と叔父・孝(岡部たかし)が昔話で盛り上がるシーン。かつて京都の舞鶴に住んでいた2人は「隣のノンちゃんの唐揚げ、うまかったな」「ノンちゃんどないしてるやろか?」と途中から関西弁に。その時は幸太郎だけではなくネルラやレオ(板垣李光人)も蚊帳の外で、寛と孝の間だけにある歴史を感じさせる。
いつもは幸太郎に敬語を使っている臼井が2人きりになるとタメ口になるのも興味深い。相関図を見るとわかるが、2人は大学時代の同級生なのだ。たが、臼井は司法試験で10年浪人しており、事務所では上司と部下。そういう細かいところまで設定が練られているからこそ、会話が自然なのだろう。
ただ一見すると何気ない会話やシーンに今後に繋がりそうなフックがある。ネルラとレオの年齢差が気になった幸太郎に「家内はレオのお産で死んだんだ」と明かした寛。仏壇にはネルラたちの母のものと、もう一つ位牌が置かれている。
それが誰の位牌なのかを幸太郎はレオに尋ねるが、返事はなかった。さらには孝の「ネルラにはこの男が必要だよ」や、レオの「俺はまだ信用してないけどね」といった幸太郎を値踏みするかのような台詞。もしかしたら鈴木家は多くの秘密を保持する、ある種の共犯意識で固く結ばれているのかもしれない。そこに幸太郎を加えるべきか否か、慎重に判断しているのだろうか。
【著者プロフィール:苫とり子】
1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。
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