杉田雷麟の芝居に号泣必至のワケ。原作にはない、実写版ならではの光景とは?『19番目のカルテ』第2話考察&感想レビュー【ネタバレ】

text by ばやし

日曜劇場ドラマ『19番目のカルテ』(TBS系)が放送開始した。松本潤が役7年ぶりに同枠での主演を務める本作は、新たに19番目の新領域として加わった総合診療医を描く新しいヒューマン医療エンターテインメント。今回は第2話のレビューをお届けする。(文・ばやし)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】

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患者ではなく、家族に目を向ける徳重(松本潤)

『19番目のカルテ』第2話 ©TBS
『19番目のカルテ』第2話 ©TBS

 昨今、“ヤングケアラー”や“きょうだい児”という言葉は、ほんの少しずつではあるものの、世間に認知されるようになった。しかし、現在進行形でその状況から抜け出せない人に関心が寄せられるなかで、その役割を終えた人へのケアは、まだ十分になされているわけではない。

 日曜劇場『19番目のカルテ』の第2話では、そんな“ヤングケアラー”として長年、弟の岡崎咲(黒川晏慈)の面倒を見てきた兄・拓(杉田雷麟)の人生に光があてられる。

「今までの診察から今回の処置まで、“岡崎咲くん”に向き合ってきました」

 小児科医の有松しおり(木村佳乃)は監査の場で、徳重先生(松本潤)にそう言い放つ。彼女は14年間にわたって咲の主治医を務めてきた。最近、赴任してきた徳重より、彼に対しての思い入れが強くなるのも無理はないだろう。

 ただ、相変わらず周囲から徳重への風当たりが強いなかで、整形外科医の滝野(小芝風花)は「私、総合診療医になります」と徳重の前で宣言して、科長の成海(津田寛治)に転科を申請する。滝野の言葉を受けとめる徳重の絶妙な顔つきには、喜びと戸惑いが入り混じっているようで、つい笑みが溢れてしまった。

専門医だからこそ、手を伸ばせない場所

『19番目のカルテ』第2話 ©TBS
『19番目のカルテ』第2話 ©TBS

 “病気”ではなく“人”を診るのが総合診療医。徳重が気にかけていたのは、心臓に先天性の病気を抱えていた咲ではなく、彼に終始、付き添っていたお兄ちゃんの拓のほうだった。

 父親が腰を痛めて整形外科でリハビリを行っているときも、笑顔を絶やさずに周囲の人々とコミュニケーションをとる。咲が亡くなったことを知らないケーキ屋の店員には気を遣って、咲が好きだった特撮番組のシールを黙って受けとる。

「咲くんの陰に隠れてしまっている彼の話を僕たちは何も知らない。職業も年齢も」

 あくまで徳重先生は小児科医である有松の診療を尊重しながらも、拓がひとりになった瞬間に見せる活気のない表情を見逃さずに、彼の家庭環境に思いをめぐらせていた。だからこそ、拓がまだ17歳であり、何らかの事情で高校に通えていないことに気づけたのだろう。

 有松は“患者”である咲を思うがあまり、拓の年齢や家族内での立場にまで気を配ることができなかった。きっと専門医だからこそ、手を伸ばせない場所もあるのだ。

 拓が熱中症で病院に運び込まれたとき、徳重先生は「月に1、2回でいいので、顔を見せにきていただけませんか。僕とお話ししましょう」と優しく問いかけている。拓に必要なのは後悔を埋めることではなく、これからの話をすること。徳重先生にはそれが始めからわかっていたのかもしれない。

杉田雷麟の圧巻の芝居

『19番目のカルテ』第2話 ©TBS
『19番目のカルテ』第2話 ©TBS

 与えられた役割を全うするために、同じ年代の子どもたちよりも早く大人にならざるを得なかった。そんな彼が子どもとして過ごすはずだった時間は、もう永久に戻ってくることはない。

「いいお兄ちゃん」だと周りから言われるほど、罪悪感が彼の心を蝕んでいく。「だって俺、咲が死んだとき心の底からほっとしたんだ」と徳重先生に吐き出せたことが、彼の人生にとってどれだけ救いだったことだろう。

 杉田雷麟が演じた拓の佇まいからは、彼の葛藤や諦念がどこまでも深く感じられる。大人びた態度の裏側にある寂しさも、人生を捧げて尽くしてきた弟が亡くなり、燃え尽きてしまった空っぽの心も、杉田の虚ろな表情には確かに浮かんでいた。

 松本潤や木村佳乃を目の前にしても動じることなく、ゆっくりと感情を発露する渾身の芝居を見せてくれた彼の今後に期待を寄せるのは、きっと筆者だけではないはずだ。

原作漫画には描かれない光景も

『19番目のカルテ』第2話 ©TBS
『19番目のカルテ』第2話 ©TBS

 個人的に気になるのは、徳重先生や総合診療医に対して、チクチクとした言動を繰り返す登場人物があまりに多いこと。成海や滝野の同期である鹿山(清水尋也)のキャラクターが原作よりも嫌味な人物に造形されており、無闇やたらに対立構造を煽っているようにも見受けられる。

 どちらかといえば脚色の多いドラマになっているので、これからは彼らの心情の変化にも焦点を当てながら、魅力あるキャラクターとして映し出されるのを期待したい。

 一方で、科を越えた病院の先生たちの人間関係は、ドラマではより分け入って描かれている。落ち込む有松を成海が心配そうに見つめる描写がシーンの合間に挟み込まれ、茶屋坂(ファーストサマーウイカ)が科をまたいでコミュニケーションを取る様子も頻繁に見られる。

 そして、特に看護師の豊橋(池谷のぶえ)が徳重先生の行動にツッコミを入れたり、密にコミュニケーションをとったりする姿は原作ではあまり映し出されなかった光景。竹を割ったように実直な性格の滝野も含めて、3人の和やかでほんわかしたやりとりを、これから総合診療科で観られるのが楽しみだ。

 ちなみに、本エピソードの劇中で“ヤングケアラー”という言葉は一度しか登場していない。物語のラストで、徳重がソーシャルワーカーである刈谷(藤井隆)に拓のアフターケアをお願いしたときだけだ。

 病いから立ち直ろうとする彼のことを、命名された役割に固定して視聴者には観てほしくない。第2話の演出には、そんな制作陣の思いが込められているような気がした。

【著者プロフィール:ばやし】

ライター。1996年大阪府生まれ。関西学院大学社会学部を卒業後、食品メーカーに就職したことをきっかけに東京に上京。現在はライターとして、インタビュー記事やイベントレポートを執筆するなか、小説や音楽、映画などのエンタメコンテンツについて、主にカルチャーメディアを中心にコラム記事を寄稿。また、自身のnoteでは、好きなエンタメの感想やセルフライブレポートを公開している。

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