磯村勇斗“健治”の本領発揮…「盗撮被害」解決への最善策に唸ったワケ。『僕達はまだその星の校則を知らない』第3話考察【ネタバレ】

text by ばやし

磯村勇斗主演のドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』(カンテレ・フジテレビ系)。本作は、いじめや不登校など学校で発生する様々な問題を扱うスクールロイヤー(学校弁護士)が、不器用ながらも向き合う学園ヒューマンドラマ。今回は第3話のレビューをお届け。(文・ばやし)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 感想 レビュー】

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センシティブなテーマを繊細に描く『ぼくほし』

『僕達はまだその星の校則を知らない』第3話 ©カンテレ
『僕達はまだその星の校則を知らない』第3話 ©カンテレ

 どうしてこのドラマは、ほんのりと色づいていく人間関係や目には見えない感情の揺らめきをそのまま映しとることができるのだろうか。しかも、センシティブなテーマを真正面から描き出しながら、それでいて繊細さを失うことなく。

 天文部の部室で藤村(日向亘)の述懐を見守っていた3年生の高瀬(のせりん)は「天文部を復活できないでしょうか」と珠々(堀田真由)と健治(磯村勇斗)に願い出る。後輩を思う高瀬の言葉に胸を打たれる珠々だったが、現状、彼女が顧問を担当するのは難しいようだ。

 そんな複雑な事情も相まって、健治は学校にいるだけで「ムムスが止まらなくなる」と祖母の可乃子(木野花)に愚痴をこぼす。ただ、不満げなセリフとは裏腹に、彼の表情はどこか新鮮な気持ちを楽しむ小学生のようでもあった。

 一方で、健治がスクールロイヤーとして働く濱ソラリス高校では、また新たなトラブルが勃発する。2年生の三木(近藤華)が、同じクラスの内田(越山敬達)に学校の昇降口で背後から盗撮された可能性があるとして、教師の山田(平岩紙)に被害を訴えたのだ。

健治(磯村勇斗)の成長

『僕達はまだその星の校則を知らない』第3話 ©カンテレ
『僕達はまだその星の校則を知らない』第3話 ©カンテレ

 元々、健治に興味を抱いていた三木の申し出もあって、山田といっしょに健治は話を聞くことに。その場で彼が考案したのは、まさに三木にとっての“最善の道しるべ”だった。

 画像が消去される前に、情報を収集して早急に対応する。関係者以外には事件を広めず、二次被害を防ぐことを優先する。前回の藤村と堀(菊地姫奈)の恋愛トラブルのときと同様に、トラブルを解決する際は無闇に当事者たちを引き合わせない。

 これほどまでに整理されたアプローチで、盗撮被害の解決に向かう方法を提示してくれる学園ドラマも珍しい。まさにスクールロイヤーである健治の本領が、遺憾無く発揮されていた場面だった。

 そして、本エピソードでは健治の確かな成長の跡がよく見える。盗撮の疑いがかかる内田のことを、健治は「加害者…」と言いかけるが、すんでのところでストップ。学校の体裁ばかり気にする校長先生たちを尻目に、健治は珠々との対話を通して、少しずつ生徒の心情を慮るようになっていた。

 さらに「法律も宇宙も学校とは違って秩序がある」と言う彼は、天文部を復活させたい高瀬にも“校則”を読み込んでみてはどうかとアドバイスをする。健治にとっては、初回で描かれた理事長・尾碕(稲垣吾郎)と相対した模擬裁判のリベンジの構図。校則を基にした高瀬たちの主張が、今後のストーリーに組み込まれていくのが楽しみだ。

近藤華と越山敬達の透明感ある芝居

『僕達はまだその星の校則を知らない』第3話 ©カンテレ
『僕達はまだその星の校則を知らない』第3話 ©カンテレ

 隠し撮りの被害者と加害者という立場になった三木と内田。異なる立場におかれた彼らの心情を深くまで宿した近藤華と越山敬達の芝居もすばらしかった。

 盗撮被害に声を上げた三木は、普段は明るく活発なタイプ。しかし、被害を告白したあとの表情には、抑えきれない不安が見え隠れする。そんな彼女の心許なさは、一つひとつの所作からも伝わってきた。

 越山もまた、映画『ぼくのお日さま』(2024)で見せた繊細な演技をそのままに、あのときとはまったく異なる役柄を演じきる。珠々の前で言葉を震わせながらも、無邪気な一面を垣間見せる越山の語り口には、内田の人となりが確かに滲んでいた。

 そして、誤解が解けたあとに三木と内田が言葉を交わすシーンでは、それぞれのパーソナリティを尊重しつつも、価値観の異なるふたりの歩み寄りが、温かく差し込む光とともに描かれる。

 立ち上がったキャラクターの個性を安易に恋愛へと傾けるのではなく、自然体なやりとりのなかで、透き通るような糸で繋がるふたりの関係性を浮かび上がらせる演出と脚本も見事というほかない。

 ビビッドな色で染め上げるのではなく、透明な糸に光を透過する。ほかの人にはわからない。本人たちもちゃんとはわかっていない。そんな三木と内田が抱えるあいまいな感情の揺らぎが、視聴者にも伝わった瞬間だった。

被害者が声をあげること

『僕達はまだその星の校則を知らない』第3話 ©カンテレ
『僕達はまだその星の校則を知らない』第3話 ©カンテレ

 健治は「自意識過剰みたいで恥ずかしい」と気丈に振る舞う三木に対して、「三木さんが傷ついた気持ちは本当ですから」と声をかける。被害にあった人が声をあげることを否定せずに、その勇気は決して無駄ではないと諭す。繊細なテーマを扱った本エピソードのなかで、この上なく大切なメッセージだと思う。

 表情が晴れた三木の感謝の言葉を聞いて、思わず屋上で惑星の軌道を描くようにくるくると回る健治。彼の純粋ゆえの衝動的な行動を、磯村勇斗はなんとも抑制の効いた芝居で表現している。瞳の動きが表情よりも感情豊かなところが、何よりも健治らしかった。

 生徒を慈しむような目線で健治の姿を見つめる珠々は、敬愛する宮沢賢治を脳裏に思い浮かべながら、名前のつかない感情の正体について自問自答する。あいまいな思いをはためかせるのは、生徒たちの特権ではないようだ。

 健治も相変わらず、全校集会で舞台に上がったときは、生徒会のふたりに教師みたいな声かけをされ、北原(中野有紗)には「この弁護士さん、結構へっぽこですよ」と言い切られてしまう。それでも、天文部の顧問をやらせてくださいと声に出した健治の瞳には、不安げな表情と反して、好奇心が飛び出してきそうな輝きがあった。

【著者プロフィール:ばやし】

ライター。1996年大阪府生まれ。関西学院大学社会学部を卒業後、食品メーカーに就職したことをきっかけに東京に上京。現在はライターとして、インタビュー記事やイベントレポートを執筆するなか、小説や音楽、映画などのエンタメコンテンツについて、主にカルチャーメディアを中心にコラム記事を寄稿。また、自身のnoteでは、好きなエンタメの感想やセルフライブレポートを公開している。

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【了】

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