意外なラストに続編期待? ドラマ『ひとりでしにたい』が届けた、力強いメッセージとは? 最終話考察&感想レビュー【ネタバレ】
綾瀬はるか主演のNHKドラマ『ひとりでしにたい』(毎週土曜よる10時放送)。本作は、愛猫と暮らす独身女性の主人公・鳴海が、幼少期より憧れの存在だった独身の叔母の孤独死をきっかけに、自身の終活について考える物語。今回は、最終話のレビューをお届けする。(文・菜本かな)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
——————————
大衆の「安易な考え」をズバッと切り捨てた『ひとりでしにたい』
来年30歳を迎えるわたしの周囲は、“第二次結婚ラッシュ”のまっただなかだ。わたしも、中高生の頃は「20代前半で結婚したい〜!」なんて言っていたものの、現在は「まだひとり時間を満喫したいなぁ」と思っている。
結婚した友人の話を聞くと、家族以外の絶対的な味方ができることに羨ましさを感じることもあるが、だからといって「今すぐ結婚したい!」というわけではない。それでも、友人の結婚式に招待されたり、インスタグラムで「結婚しました」報告を見ると、「わたしも結婚しなきゃなのかな…?」と焦りを感じることもある。
しかし、よく考えると、わたしが結婚したいと思う理由は、「このまま年齢を重ねていけば、“結婚しない”のではなく“結婚できない”と思われるのでは?」とか、「早く子どもを産んで、親に孫の顔を見せてあげなきゃ」とか――どれも、“他人軸”の理由ばかりだ。それって、結婚したいのではなく、結婚という肩書きがほしいだけなんじゃ…と思うこともある。
しかも、20代前半までは好きな気持ちだけで突っ走れていたけれど、最近は“条件”が頭をよぎるようになってきた。相手の仕事や経済力、家族との関係性や将来設計。
女優の樹木希林さんが、「結婚なんてのは若いうちにしなきゃダメなの。物事の分別がついたらできないんだから」とおっしゃっていたことがあったけど、たしかにそうかもなぁ…と考えていた時に出会ったのが、『ひとりでしにたい』だった。
8月2日に最終回を迎えた『ひとりでしにたい』は、39歳の独身女性・鳴海(綾瀬はるか)が、憧れの存在だった伯母の孤独死をきっかけに、自身の生き方を見つめ直す“終活”コメディだ。
物語の序盤、鳴海は孤独死を恐れるあまり、婚活を始める。しかし、年下のエリート同僚・那須田(佐野勇斗)から「結婚すれば安心って昭和の発想ですよね?」とバッサリ切り捨てられ、あえなく撃沈。
正直わたしも、「結婚して子どもがいれば孤独死をすることがない」と鳴海と同じような安易な考えを持っていたので、ハッとさせられた。全6話を通して、本作はわたしにたくさんの“気づき”を与えてくれたように思う。
テンプレートに則るだけでなく、自分だけの幸せの形を模索すること
他人に、羨望の目で見られるのは気分が悪いことではない。とくに、“他人軸”になりがちなわたしは、他者からの評価や承認を得ることで安心してしまうタイプだ。
だからこそ、鳴海の伯母・光子(山口紗弥加)のように、未婚を貫き通して「ひとりぼっちで可哀想」と思われたくないし、結婚をして子どもを産み、仕事も続けて「すべての幸せを手に入れた人」と思われたい――そんな見栄のような気持ちが、心のどこかにずっとあった気がする。
しかし、『ひとりでしにたい』を見ていて気づいたのは、そうやって周囲の目ばかりを気にしていると、自分の人生を誰かに委ねることになりかねない…ということだ。結婚するにしてもしないにしても、子どもを産むにしてもしないにしても、どれが正解かは進んでみなければ分からない。
“結婚して子どもを産むことがいちばんの幸せ”というのは、あくまで社会が作り出したテンプレートの幸せ像であり、それが全人類に当てはまるわけではないのだ。
だからこそ、わたしたちはテンプレートではなく自分だけの幸せの形を探していかなければならない。
鳴海(綾瀬はるか)が与えてくれた言葉たち
「人の目を気にすれば、人と比べる。比べてしまったら、妬みが生まれる。そして、妬みは攻撃になって取り返しのつかない絆の断裂を生み、結果的に孤立する」
これは、最終話で鳴海が言っていた台詞だ。専業主婦の雅子(松坂慶子)とキャリアウーマンの光子がマウント合戦を繰り広げていたように。
悲しいかも知れないが、人間は他者に“勝った”と自覚をすることで、自分の選んだ道が間違っていないと安心してしまうところがある。でも、“そういうところがあるんだ”と自覚をすれば、その後の人生は大きく変わる。
本当の勝利の条件は、他人なんかに勝つのをやめること――鳴海のこの言葉は、30歳を目前にして焦ったり迷ったりしているわたしにとっての“生きるヒント”になった。
那須田(佐野勇斗)との別れを決断
正直、那須田と交際をスタートさせた鳴海が、最終的に“別れ”を選ぶ結末は、意外だった。那須田は、「山口さんが俺の彼女と思うだけで楽しい」とニコニコしちゃうような可愛い一面があるし、鳴海が弟に傷つけられた時は、全力で怒ってくれる。
ちょっぴり曲がったところはあるかもしれないが、彼のまっすぐさや優しさを感じる瞬間はたしかにあったし、視聴者としても「このまま幸せになってほしい」と願わずにはいられなかった。
それでも、鳴海は「わたしは、ひとりで生きて、ひとりで死にたい!」と自分の意思をはっきり宣言した。彼女はきっと那須田に出会い、“終活”を始めて、「ひとりでもひとりじゃなくても、みんな戦っている」ということに気がついたのだろう。
結婚しても子どもを産んでも、“一生の安泰”を手に入れられることはない。パートナーが先に亡くなってひとり遺されかも知れないし、子どもが介護をしてくれるかなんて分からない。個人的には、介護要員のために子どもを産むというのも、なんか違う気がする。
やっぱり、綾瀬はるかはすごい!
結局のところ、楽しく生きて楽しく死ねる世界を作れるのは、自分しかいないのだ。もちろん、それが結婚して子どもを産むことだという人もいるだろうし、鳴海のようにひとりで生きるのが幸せだと思う人もいる。
SNS上で、鳴海がひとりで生きることを選択したことが多くの人に賞賛されていたが、それは彼女がイバラの道を進む決意をしたからじゃない。自分らしい人生、自分なりの幸せを見つけることができたからだ。
もし、那須田と結婚することが鳴海にとっての幸せなら、それもまた素敵な未来だったはず。
大切なのは、結婚するか・しないかではなく、自分が納得して歩ける道を選ぶこと。このドラマは、そんな力強いメッセージを、ユーモアと優しさを交えて届けてくれた。
終活に孤独死に老い…言葉にすると重々しいテーマを題材とした物語だが、綾瀬はるかが演じることで一気に空気が軽やかになる。シリアスな場面でも、重くなりすぎない(かと言って、ふざけているようには見えない)絶妙な温度感で鳴海という役柄を生き生きと体現していた。
「やっぱり、綾瀬はるかはすごい!」。最終回の余韻に浸りながら、このドラマは彼女でなければ成立しなかったと確信した。
【著者プロフィール:菜本かな】
メディア学科卒のライター。19歳の頃から109ブランドにてアパレル店員を経験。大学時代は学生記者としての活動を行っていた。エンタメとファッションが大好き。
【関連記事】
・【写真】綾瀬はるか、最高…! 貴重な未公開写真はこちら。ドラマ『ひとりでしにたい』最終話劇中カット一覧
・2人ともコミュニケーションが極端すぎ…佐野勇斗”那須田”の瞳から感じたことは?『ひとりでしにたい』第5話考察&感想【ネタバレ】
・独身女性への「舐めた視線」がきつすぎる…”孤独死”へのイメージが逆転したワケ。『ひとりでしにたい』第4話考察&感想【ネタバレ】
【了】