「夫婦には探り合いがあってもいい」ドラマ『しあわせな結婚』阿部サダヲ&松たか子、インタビュー。お互いの謎を語る
阿部サダヲが主演、松たか子がヒロインを務めるテレビ朝日系木曜ドラマ『しあわせな結婚』が放送中。本作は人気弁護士の原田幸太郎が謎めいた美術教師・鈴木ネルラと結婚することから始まる大石静脚本のマリッジ・サスペンスだ。今回は阿部と松にそれぞれの役柄への印象や話題を呼んだシーンの裏側について語ってもらった。(取材・文:苫とり子)
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ミステリアスだけど、面白い
鈴木ネルラを演じる難しさ
―――お二人はこれまで何度も共演され、夫婦役もご経験されていますが、今回もお相手が松さん、阿部さんと知った時はどう思われましたか?
阿部サダヲ(以下、阿部)「僕は率直に嬉しかったです。松さんは意外にも大石さんの作品に出演するのは初めてなんですよね。僕もテレビ朝日の連ドラ主演は初めてなので、余計に松さんがお相手で良かったなと思いました」
松たか子(以下、松)「私も、いいんですか!?と思いつつも、嬉しかったです。阿部さんとは映画やスペシャルドラマでギュッと密な時間を過ごしてきましたが、連ドラは数ヶ月、同じ関係性を維持していくので、また特殊ですよね。大石さんの作品に初めて出演させていただくのもそうですし、私もテレビ朝日の連ドラは初めてですから、色んなチャレンジを阿部さんとご一緒できるのはすごく心強かったです」
―――お二人が思うこの作品の魅力を教えてください。
阿部「“マリッジ・サスペンス”を謳っていますが、意外と皆さんが思っているものではないかもしれません。そこが面白いところで、良い意味で予想を裏切られる作品だと思います」
松「正直なことを言えば、自分ではどうなんだろうと思っているばかりで。色んな方に面白かったと言っていただけて初めて大丈夫なのかも…と自信を持つことができました。阿部さんがおっしゃった良い意味で裏切る意外性も含め、視聴者の皆さんにこのドラマが魅力的に映ってくれるといいなと今は思っています」
―――松さんが抱えていたある種の不安はネルラという役の難しさによるのでしょうか?
松「よく難しい役ですよねって言われるんですが、私としては“何が難しいのか”が分からないことが難しくて、どうしたものかなと思っていました。彼女自身は別に人と違うことをしようと思っているわけではないんですよね。ただ、人から見るとユニークに映るというだけで。だから誰と何をしているかでミステリアスに見えたり、はたまた普通の女性に見えたり、印象が変わっていってもいいのかなと。それも全部ひっくるめてミステリアスということなんじゃないかと、色々思いを巡らせながら演じていました」
阿部「ミステリアスだけど、その緊張感が逆に笑いを生み出すことってあるじゃないですか。クロワッサンを食べるシーンなんかはまさにそうで。まさかあんな豪快に食べるとは思っていなかったですし、ミステリアスだからこそ面白いなって。そのせめぎ合いをやってのける松さんがすごく素敵だなと思います」
―――私も第1話でクロワッサンを食べるシーンが特に印象に残りました。あの食べ方は松さんが考案されたのか、それとも監督から何かディレクションがあったのでしょうか?
松「最終的に幸太郎さんにパンくずをとってもらわなきゃいけないので、そのことだけを考えながら無我夢中で食べました。でも監督から『もっとコミカルに、思いっきりやっちゃっていいです』って言われて、探り探りやった結果、ああなっただけで私発信じゃないんです」
阿部「あれも最初からパンくずがついてるカットを撮る予定だったんですが、その方が面白いと思ったのか、結局長回しになって。でも思ったよりパンがしっとりしてるから、あんまり口につかなくて何回も撮り直したんですよね(笑)」
松「そうそう。自分ではすごいパンくずがついてる感じがするのに、意外と目立たなかったりして。股関節を痛めた時の歩き方も監督から『左側だけチャップリン』って言われてやったんですけど、本当に正解が分からないんですよね(笑)。面白く見えた方がいいけど、あまりに変だと、ネルラさんを好きになった幸太郎さんがすごく変わった趣味の男の人だと思われてしまうので、加減が難しかったです」
阿部「嫉妬深いところが似てる」
それぞれの役柄への共感と憧れ
―――それぞれの役柄について自分と似ているなと思うところ、あるいは共感できるところを教えてください。
阿部「嫉妬深いところとか、既読にならないと怒る感じは似てるかもしれないですね」
松「えー!?(笑)」
阿部「意外とそうなんですよ。あと2話で『よくこんな時に寝れるな』って台詞がありましたけど、僕も奥さんに言ったことがあるんです(笑)。そういう台詞が出てくる大石さんの脚本ってやっぱりすごいなと思いました。男女の関係における嫉妬とか、毒っ気がありますよね。わかるわかるって思いながら、いつも台本を読んでます」
松「ネルラと自分が似てるところは思いつかないんですが、面白いなと思うところはたくさんあります。例えば、幸太郎さんに『困ってること、あるんじゃないの?』って聞かれて、『ある。でも今は言えない」ってどっちも正直に言っちゃうところとか。私だったら『なんでもないよ』ってバレバレの嘘をついちゃうと思うので、憧れる答え方だなと思いました」
―――ネルラが人を殺したかもしれないということが分かった時、おふたりはどのように感じましたか?
松「面白そうだなと。とても思いつかないような物語が生まれようとしているんだなと思ってワクワクしました」
阿部「そうですね。人を殺したかもしれないということもそうですが、結婚したばかりで若い男の車に乗っているシーンでまず傷つきましたね。あの時点では、まだ男の正体を知らないですから」
―――たしかに…!そのあとの地下鉄のホームで幸太郎と杉野遥亮さん演じる黒川が対峙するシーンもかっこよかったです。
阿部「あの撮影場所は外国っぽくも見えるし、僕もかっこいいなと思いました。ホームの対岸から撮影してるのも良かったし、僕と杉野くんの身長差も映えてましたよね(笑)」
―――鈴木家の家族団欒のシーンも見どころの一つになっていますが、撮影模様についてお聞かせください。
阿部「家族のシーンは試写会でもお話したんですが、しょっぱなの撮影で段田(安則)さんがコーヒーをこぼして、いきなりパーカーで現れた時から面白くなるだろうなと思っていました(笑)。会話のテンポもみなさんが入ると自然に上がるんですよね。鈴木家に僕という異物が入ってきて、最初の相手にしていない感じとかもうまいなぁと思って。だったら、そこに僕も乗っかっていこうと思うんです」
松「家族の食卓になると、ネルラが分かりやすく喋らなくなくなるんですが、まあそれが楽しくて。喋らないでこんなに楽しいってなかなかないですよね。もちろん、ネルラとしては幸太郎さんを世界の中心に見ていますけど、ふとした時に『みんな上手だな。この中にいる(板垣)李光人さまってすごいな』って個人的な思いを感じつつ、その場に居座っています」
―――第3話の家族旅行のシーンも楽しそうでしたが、撮影で印象に残っていることはありますか?
阿部「カラオケのシーンがありましたが、どうしてああいう選曲になったのか気になります。なかでも段田さんと岡部(たかし)さんが歌う少年隊の『君だけに』は今まで見たことのない感じになってましたね」
松「監督から撮影が終わって数日経った頃に『歌ってる時はいいんだけど、人の歌を聴いてる時は松さんの素が出てますよね?』って聞かれて、そんなこと今さら言われても!と思いました(笑)。どうやらみんな素みたいなリアクションをしていたみたいで、完成がとっても心配です」
松「夫婦には探り合いがあってもいい」
パートナーに秘密があるのはアリ?ナシ?
―――完成披露試写会で松さんは阿部さんをミステリアスな人として挙げていらっしゃいましたけど、今回の共演で改めてミステリアスだなと感じた瞬間はありましたか?
松「本当にどういうことをどう考えているか、分からなくて。でも、分からなくていいやと思える人なんですよね。ただ所々で素の部分が漏れ出るといいますか、『あ!こうですか、阿部さん!』みたいな姿を一瞬見せてくれたり、かと思うと全く見えなくなったりして(笑)。安心感はあるけど、いつも新鮮に対峙できる方なので、ご一緒していてすごく楽しいですね」
―――阿部さんはミステリアスと言われることにご自身でしっくりきていますか?
阿部「俳優ですからね。ミステリアスな方がいいんじゃないかなって。だからタクシーも自宅から少し離れたところで止めてもらっています(笑)」
―――(笑)。阿部さんはネルラの元婚約者・布勢役の玉置玲央さんと大石静さん脚本のドラマ『恋する母たち』以来の共演となりますが、奇しくもまた同じ女性を好きになる役柄ですね。
阿部「そうなんですよ。今回、相手は故人ですけど」
松「そんな因縁の相手なんですか!?(笑)」
阿部「前は同じ女性を取り合っていました。その時もあの人は不倫してたり、ちょっと問題のある人でしたよね」
―――松さんは個人的に幸太郎さんと布勢さんのどちらに惹かれますか?
松「それは、幸太郎さんって答えるしかないんじゃないですか(笑)。でも、布施さんも当時のネルラにとっては全部だったんじゃないですかね。その時はこの人と幸せになるんだと思っていたんでしょうけど。幸太郎さんはクロワッサンの食べ方にしても、その時の自分のありのままを受け止めてくれた人なんじゃないですかね。だから、この人なら普通に生きられるかなって。それまでのネルラの人生になかった「しあわせ」っていうワードが、幸太郎さんと出会って浮かんだのかなと思います」
―――逆に阿部さんは、幸太郎さんがネルラに惹かれた理由についてどのように考えていらっしゃいますか?
阿部「僕が退院する時にネルラさんが迎えに来て、『うち行きませんか?』と言ったあとに『口に出ちゃいました』と口を押さえるんですが、そこで完璧にやられましたね。退院明けですし、心身ともに弱ってる時にあれを言われたら参っちゃうだろうなと。何より、松さん演じるネルラから出る仕草がすごく良かったです。しかも叔父さんが焼いたパンを食べさせるっていうね。これでまた参っちゃったんじゃないかなという気がします。それであの豪快な食べ方を見せられたら、今までテーブルの下で足蹴りしてくるような女性としか付き合って来なかった幸太郎は落ちちゃうんじゃないですか」
―――おふたりはパートナーの方に秘密があってもいいと思う派か、それとも秘密はない方がいい派か、どちらでしょう?
阿部「僕はない方がいいと思うな。秘密って一口に言ってもどんな秘密だか分からないし、相手が何も言わなかったら知らないまま終わっちゃうんだろうけど、僕としては隠していることがあるなら言ってほしいですね」
松「私は正直、どっちでもいいです(笑)。秘密は作ろうと思って作るものではないと思うので、言えないことがあるならそれでもいいかな。私も無理して相手に全てを明かそうとは思わないし、無理して隠そうとも思わないですし。何かなくても何かあるなって思われたり、思ったり。夫婦にはそんな探り合いがあってもいいじゃないかなと個人的には思います」
【著者プロフィール:苫とり子】
1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。