ラウールを最も美しく魅せる角度とは? ドラマ『愛の、がっこう。』で際立つ演出術。視聴者の心を掴んだ屋上のシーンを徹底解説
ドラマ『愛の、がっこう。』(フジテレビ系)が放送中だ。本作は、木村演じる高校教師とSnow Manラウールが演じる夜の世界でNo.1を目指すホストの、禁断なのに純愛な“愛”の物語。今回は、ラウールの演技に注目しながら本作の魅力を紐解いていく。(文・加賀谷健)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 感想 レビュー】
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ラウールが放つ“危険な色気”
木村文乃主演ドラマ『愛の、がっこう。』(フジテレビ系)は、とてもとても危険な作品である。
本作各話には木村演じる高校教師・小川愛実と人気ホスト・カヲル(ラウール)が心を通わせる屋上のシーンが描かれるのだが、この場面を見た視聴者の中から卒倒者が続出するのではないかと懸念した。卒倒の原因は言うまでもなく、カヲルを演じるSnow Manのラウールにある。
この屋上場面は、第1話終盤で初出する。私立ピエタス女学院高等学校で愛実が担任を受け持つ3年葵組の沢口夏希(早坂美海)が・カヲルに心酔し、夜の街にのめり込んでいることを知る。保護者からの要請を受けた愛実は、カヲルに「夏希に関わらない」とする念書を書かせようとする。
しかし、字が書けないカヲルは戸惑いを見せる。愛実が手本を書いて渡すと、カヲルは差し出されたボールペンをしなやかな指先でそっと握り、躊躇しながらも一文字ずつ書き写し始める。屋上に設置されたエアコン室外機を即席のテーブル代わりにして、字を書く練習をする。ここから愛実による“特別課外授業”が始まる。
屋上で生まれたローアングルの奇跡
ペンを取りテーブルの前にカヲルが腰を落とすまでの間、カメラはカヲル役のラウールを背後やら不自然な俯瞰の位置やらあらゆるポジションから映そうとしていた。どうしてそんな不必要にポジションを変えるのか。ラウールの頭上を映す俯瞰ショットにいたっては、「これ絶対にいらないよね」と思うほど意図がわかないアングル。
でも、腰を落とすカヲルを映す瞬間に選択されている素晴らしいローアングルを見ると、ハイ(俯瞰)とローのコントラストをつけて、ラウールを審美的に仰ぎ見るための決定打だったとわかる。そしてこのローアングルのラウールにこそ、視聴者を卒倒させるだけの魔力がある。
テーブル前に腰を落として、大きな身体を縮こまらせて字の書き方を習う。夕景の屋上はさっきより風が強くなったのだろうか?
ローアングルのラウールの前髪がやたら風に靡く。カヲルが腰を落とす瞬間にも紅色のジャケットのセンターベントがひらひらと靡く。ただ前髪が風に靡くだけでどうしてこんなに美しいのか。視聴者の気持ちもまたラウールその人に降参して靡き、ふわっと一瞬で心をつかまれ、とろかされてしまう。強烈な求心力、魅力、魔力。例え卒倒したとしてもそのまま魔法にかけられて、うっとりするほど心地がいい夢すら見せてくれるかもしれない。
夜の屋上で見せるもう1つの表情
強烈な夢見心地の前髪をベストなローアングル画面で靡かせる屋上場面だが、第2話では豊かな夜の情感を楽しませてくれる。
同話ラスト、カヲルが電話で「聞きたいことがあるんだ」と、愛実を屋上に呼び出す。愛実が到着すると、カヲルは短パン、Tシャツのラフな部屋着姿。頭にはタオル(?)を巻いている。ということは夜の屋上ではラウールの前髪が風に靡かないのか…。そう思うのも杞憂。前髪をあえて隠す代わりに、2人だけの屋上空間を際立たせるネオンサインとテーブル上の間接照明が、そそと色っぽい情感を醸す。
この照明に照らされたラウールを今度は逆にややハイアングルで捉え、これまた夢見心地。この場面の演出が西谷弘監督で納得。奈緒主演ドラマ『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系、2023)第1話のグラウンド場面など、夜の情景描写力はさすがだ。
とはいえ、夕景の風に靡く前髪に限らず、屋上場面のラウールならどんなラウールでも基本的に視聴者を卒倒させられる。
フェンス越しに交差するまなざしとカメラの意図
第3話では、前半に再び夕景の屋上シーンが描かれる。またもやラウールを映すカメラはあっちこっちポジションを変える。ポジションが変わるだけではなく、カヲルもまたフェンス際から屋上中央まで何度も場所を変えるように歩き回る。
雑談を交わす中、カヲルが再びフェンス際に移動。それに続いて愛実も横に並び、2人のツーショットが画面を満たす。前景に愛実。後景にピントのぼけたカヲル。淡い画面、カヲルの横顔だけを強い西日が照らす。風に靡く前髪より激しく神々しい。ピントが合ったときのその輝きは、視聴者の心を一瞬でさらうだけの力がある。
あぁこれ以上見ていたら、「いよいよ倒れてしまうなぁ」と思った瞬間、カメラがカヲルの笑い声とともに一気に引く。フェンス際でじゃれ合う2人をロングショットで捉える。
なるほどそうか。まぶしい横顔をこれ以上見せるのは危険…。これはつまり、視聴者が卒倒することを避けるための、制作陣によるささやかな配慮なのかもしれない。そんな想像すら浮かぶ、精緻な映像設計が光るシーンだ。
“教師とホスト”の擬似的な関係が続く理由
しかし、配慮をするくらいなら、いっそのこと薬師丸ひろ子主演映画『セーラー服と機関銃』(1981)のラストで、薬師丸と渡瀬恒彦が屋上で会話する大ロングの長回し場面くらい大胆に引きの画に徹した方が潔い。
ともあれ、不器用な高校教師と実は純情なホストが心を通わせるという、ありきたりといえばありきたりな関係性を描く『愛の、がっこう。』が、それでもありきたりさの先にいくためには、この屋上空間に教師とホストを毎話必ず投げ込んで、彼らの関係性を宙吊り状態にし続けることでしかないだろう。
なぜなら関係性を宙吊りにしておけば、いつまでも屋上場面のラウールを見ていられるからである。物語上は着実にかけがえのない関係性に発展しているとはいえ、屋上で課外授業をする愛実とカヲルは中座したり雑談をしたり、前進と後退を常に繰り返している。
物理的にも心情的にも宙吊りになる屋上では、教師と教え子の関係を擬似的に演じるしかない。もちろん本作の物語は愛実がカヲルの人生を正しい方向に向けさせ、いつかはホストを卒業した彼とそれを祝福する彼女が結ばれるハッピーエンディングにかけているとは思う。
映像越しににじみ出る、“ラウール=カヲル”の説得力
ただ、もし2人が結ばれる場合、課外授業は屋上で続けられるのだろうか?
これは完全に妄想だが、もし2人で部屋でも借りるなら、必然的に室内授業になる。となると屋上場面で際立つラウールの横顔が見られないのか。いやもちろん室内場面のラウールも非の打ち所がない。
第4話で50万円もホストクラブで支払いをさせられたにもかかわらず、愛実から渡された熱心に作り込んだ教材テキストをアパートのベッドに腰掛けて見つめる場面。ローアングルで写るこの場面のラウールの横顔もまた夕景の屋上と同様に繊細で神々しい。愛実とカヲルにとっての屋上は特別な場所であり続けるかどうかは留保するとして、でもここでちょっと保険をかけておくなら、Snow Man公式YouTubeチャンネルで公開されている動画「Snow Man【市場内の食堂で昼メシ】定食ってたまらんね!!」は屋上場面の代わりになるかもしれない…。と、ふと思ったり。
定食屋に先に入るラウールが暖簾をくぐろうとする様子を上から下になめまわすように撮影する向井康二カメラが「待って、この服装違くない?」とコメント。あざやかな黒のコートに身を包んだラウールによるこの場違い感。その圧倒的佇まいが、ただひたすらカヲルにしか見えないのである。
(文・加賀谷健)
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