ファーストサマーウイカとのやり取りで見えた、松本潤の細やかな芝居の変化とは?『19番目のカルテ』第5話考察&感想【ネタバレ】
日曜劇場ドラマ『19番目のカルテ』(TBS系)が放送開始した。松本潤が役7年ぶりに同枠での主演を務める本作は、新たに19番目の新領域として加わった総合診療医を描く新しいヒューマン医療エンターテインメント。今回は第5話のレビューをお届けする。(文・ばやし)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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天才心臓血管外科医が見せた「弱さ」
「心ってどこにあると思います?」
そう取材に来た記者に問いかけるのは、天才心臓血管外科医の茶屋坂心(ファーストサマーウイカ)。日曜劇場『19番目のカルテ』(TBS系)の第5話で描かれたのは、これまでベールに包まれていた彼女の素顔と心の奥に秘めていた母親への思いだった。
個性豊かな登場人物たちが変わるがわる視聴者に向けて、今回、フォーカスされる事象や人を説明する形式も見慣れてきたこの頃。導入テーマを簡潔に説明できるのもそうだが、本編では関わりの薄いキャラクターたちの関係性も伝わってくるのが利点でもある。
茶屋坂については、皆が一様に“天才”や“優秀”という言葉で形容していた。
実際、滝野(小芝風花)が「大動脈解離」と診断した患者に対して、彼女は「別に帰ってもいいですよ。ただ、この感じだと8割がた死にますけど」とさらりと言ってのける。彼女が漂わせる余裕と何事にも動じない胆力は、医者なら誰もが手に入れたいスキルだろう。
徳重(松本潤)が「ハートのクイーン」のベールを取り払う
「ハートのクイーン」の異名で畏敬の念を抱かれている茶屋坂だが、その裏にあるプライベートな素顔は謎のまま。そんなミステリアスな彼女を覆うベールを少しずつ取り払ったのが徳重(松本潤)だった。
茶屋坂の独特なコミュニケーション術に乗せられずに、ゆったりとマイペースに会話を楽しむ徳重。ミラーリングやリフレーズなど、総合診療医としてのテクニックを彼女に言い当てられたときも、それはそれはにこやかに駆け寄っていく姿が印象的だった。ふたりとも冷静に状況を把握する、俯瞰的な視点を持ち合わせている。
しかし、そんな茶屋坂を動揺させる出来事が起きる。自身の母親である愛(朝加真由美)が重篤な状態で、魚虎総合病院に緊急搬送されてきたのだ。
当直の時間帯で医師が足りない状況下において、茶屋坂は即断で執刀を決意する。「親だろうが何だろうが、心臓の形はいっしょでしょ」という彼女のセリフは確かに頼もしい。しかし、その姿勢を「強さ」という言葉で一括りにしてもいいのだろうか。
手術後の表情を見ればわかるように、彼女は計り知れない精神的な負担を抱えていた。それでも、完全無欠の天才外科医としての使命を全うしようとする。乾いた笑いが漏れる彼女の姿には、普段は決して表に現れない「弱さ」が潜んでいた。
ファーストサマーウイカの“クセつよ”な魅力が存分に発揮
本エピソードで言及された親子のつながり。執刀中にも呪文のように鳴り響く母親の声は、娘との間にある深い溝を視聴者にも痛感させる。「あなたは本当に私の行ってほしくない方向ばかりに進んでいく」というセリフから、彼女がどれほど縛られた環境で育ってきたのかが伝わってきた。
そんな茶屋坂の呪縛を振り解いたのが、徳重との1on1での会話の応酬。このときの徳重は、これまでの患者に向けた問診とは少し雰囲気を変えて話しているように感じた。
自らの手札をオープンにしながら、相手のさりげない仕草やこぼれ落ちた言葉を糸口にして、彼女が向き合えずにいた思いを推察する。そして、彼女が心を開いたと察してからは、語り口がゆっくり優しげなものに変化する。松本潤の細やかな芝居の変化にも唸らされた。
そして、クセの強い茶屋坂を演じたファーストサマーウイカの芝居も役柄に見事にハマっていた。彼女のキュートな部分とクールな部分を混じり合わせて、ファーストサマーウイカにしか演じられない魅力満載の茶屋坂心が映し出される。徳重との会話の最中、まるで子どもに戻ったかのようなあどけない表情と声色に変化する場面は、特に見入ってしまった。
「心」はどこから生まれるのか
原作のエピソードからアレンジが施されているが、ドラマでも伝えたい趣旨は一貫している。家族であることを理由に、何もかもを「すべきこと」として抱え込む必要はない。そして、親子の呪縛をほどくためには、離れ離れに暮らすことも選択肢のひとつだと。
徳重のセリフは少しドライに聞こえるかもしれない。それでも、血のつながりがお互いを縛り合う鎖となって、ふたりともに倒れてしまうことのほうが余程やるせない。
原作の元エピソードでは、老老介護を辞める決意をした娘に対して、母親が「ごめんよ…今まで悪かったね」という言葉を送る。その後の「最後の一滴まで毒であってくれたらどれだけ楽だったか」という娘の独白が、ふたりのわだかまりを何よりも象徴しているように思えて、個人的には茶屋坂親子にも重なる部分だった。
彼女はきっと少女の頃から知りたかった。心がどこにあるのか。そして、心臓外科医となってさまざまな人々を執刀してからも、その思いは彼女の中にずっと居座っていたのだ。
冒頭に記した茶屋坂の問いかけに、徳重は「医学的に心という臓器はありません」と現実的に回答する。しかし、続けて発した言葉が実に徳重らしかったので、最後に残しておきたい。
「それでも人は響き合う。好きな人を見たとき胸は高鳴り、誰かに傷つけられたとき瞳は潤む。あなたと私。その間に心は生まれるとぼくは思っています」
【著者プロフィール:ばやし】
ライター。1996年大阪府生まれ。関西学院大学社会学部を卒業後、食品メーカーに就職したことをきっかけに東京に上京。現在はライターとして、インタビュー記事やイベントレポートを執筆するなか、小説や音楽、映画などのエンタメコンテンツについて、主にカルチャーメディアを中心にコラム記事を寄稿。また、自身のnoteでは、好きなエンタメの感想やセルフライブレポートを公開している。