なにも解決しないのに進んでいく…『こんばんは、朝山家です。』が描く「リアリティ」に驚くワケ。第5話考察&感想レビュー【ネタバレ】

text by あまのさき

中村アン&小澤征悦がW主演を務めるドラマ『こんばんは、朝山家です。』(ABCテレビ・テレビ朝日系)が放送中だ。本作は、“キレる妻”と“残念な夫”という衝突不可避の夫婦、愛しくも奇妙な家族の物語。今回は、第5話のレビューをお届けする。(文・あまのさき)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 感想 レビュー】
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どうあっても落ち着かなそうな朝山家

『こんばんは、朝山家です。』第5話 ⒸABCテレビ
『こんばんは、朝山家です。』第5話 ⒸABCテレビ

 蝶子(渡邉心結)の野球についても晴太(嶋田鉄太)の修学旅行についても、なにも解決しないまま、なし崩し的にクランクインした賢太(小澤征悦)の映画。

 なんとかすべき問題だと他人事ながら感じてしまうのだが、日常とはそういうものだ。肝心なことほど、なぜかスムーズに進まない。

 朝子(中村アン)と賢太が撮影にかかりきりのため、夜は中野(松尾諭)が、主に晴太の面倒を見るために朝山家にやってくる。親や家族ではない第三者ということもあって、晴太は中野にだけ学校で無視されているという話をした。

 学校にいるときの晴太は、なんとか登校してみても授業中に座っていることができず、廊下に寝そべって本を読む。みんなが“普通”にしていることが、晴太にはできない。

 この年頃の子どもたちは、自分たちと同じではないことをどの程度許容できるものだろう。晴太以外の生徒たちを庇う意図はないのだが、単純に接し方がわからない生徒も多いのではないかと思ってしまう。

 正直、晴太にとっては特別支援学級に通うほうが楽だろう。だがおそらく、“普通”を求める賢太はそれを良しとしない。親にとって自分の子どもがいわゆる普通学級に通えないことを認めるのは、なかなか難しいのだろう。

 晴太にとって中野が信頼できるのは、前述の通り親以外の第三者であるのと同時に、気持ちを理解してくれる存在でもあるからだ。中野もまた、役者として芽が出ず、アルバイトが必須。

 しかしどの仕事も長続きせず、賢太にお金を借りなければ生活ができないことがあるなど、ある意味“普通”からは逸脱している。そして、多分彼はそれを、世間のせいだと考えているのだと思う。

登場人物一人ひとりのリアリティ

『こんばんは、朝山家です。』第5話 ⒸABCテレビ
『こんばんは、朝山家です。』第5話 ⒸABCテレビ

 今日も今日とて学校へ行くよう朝子にせき立てられた晴太は、転校したいと言い出した。どうやら、これは中野から授けられた秘策らしい。

 嫌なことがあったら仕事を辞めてしまう、中野らしい発想といえば発想だ。前に進むための逃避は、たしかにある。だが、ただ小学校を変えるだけの転校なら、晴太のためになる選択だとはあんまり思えない。

 晴太だけじゃなく、また仕事を辞めてしまって、賢太の初監督作品でも出番をもらえなさそうで、賢太に借金を申し込んでも5,000円しか貸してもらえなかった中野の、妙に小さくなった背中も気になった。どこかに消えてしまいそうだ。

 そして、金こそ貸したものの、それが明らかに足りない金額であることを朝子に「意地悪」といわれる賢太の描写も、なんだかざらりとしたリアリティが残る。

 改めて、この作品の脚本を書いているのが賢太の立場の人間であるというのがすごい。ここまでの自己開示って、なかなかできるものじゃない。

蝶子(渡邉心結)に心境の変化が?

『こんばんは、朝山家です。』第5話 ⒸABCテレビ
『こんばんは、朝山家です。』第5話 ⒸABCテレビ

 一方の蝶子は、相変わらず不機嫌で野球の練習にも参加していない。賢太は「好きなことは人を助ける」と、やっぱり野球を続けさせたがっている。

 賢太の言いたいこともわかるし、それに対して朝子が「好きなことはなくてもいい」し、「やりたいことがなくても楽しんでいる人はいる」というのもその通りだ。

 きっと賢太は自分の好きなことを仕事にしている人生を気に入っているのだろう。だから、蝶子にもそんな風に生きてほしいと無意識に押し付けてしまう。

 そして朝子は、そういうものが見つけられなかったとしても、楽しめたらいいと考えている。どっちも正しいので、やっぱり結局は、蝶子が判断するしかない。

 賢太に言われて、突然カウンセリングを受けに行く気になった蝶子。この心変わりがやや不思議だったが、もしかすると賢太たちが部屋にやって来る直前にやっていたオンラインゲームの仲間たちとのコミュニケーションが作用したのかもしれない。

 カウンセラーの前で、蝶子は猫を被ったみたいにしおらしくなる。普段の強気の目も、棘のある声も、おくびにも出さない。朝子と賢太は蝶子とは別の部屋で、カウンセラーの早坂(猪塚健太)と話をすることに。

 この早坂が、表情を変えぬまま必要最低限の相槌しか打たないからやや無愛想にすら感じるのだが、なんだか朝子と賢太の間にある問題を見透かしているようでもある。正直、2人も誰かにズバッと指摘されたほうがいいんじゃないかと思うので、早坂がそんな存在になってくれることを期待してしまう。

 面談を終えた蝶子は、やっぱり野球をやめると、朝子と賢太に宣言する。とにかく驚いた様子の賢太と、それ見たことかといわんばかりの朝子。

 とにかく蝶子が晴れやかな表情をしていることにホッとしたのだが、翌日にはもう不機嫌な蝶子が戻ってきてしまう。朝山家は、どうあっても落ち着かなそうだ。

【著者プロフィール:あまのさき】
アパレル、広告代理店、エンタメ雑誌の編集などを経験。ドラマや邦画、旅行、スポーツが好き。

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