教育虐待に胸が痛む…あえて経緯を描かなかったラストの意図とは?『僕達はまだその星の校則を知らない』第6話考察レビュー【ネタバレ】
磯村勇斗主演のドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』(カンテレ・フジテレビ系)。本作は、いじめや不登校など学校で発生する様々な問題を扱うスクールロイヤー(学校弁護士)が、不器用ながらも向き合う学園ヒューマンドラマ。今回は第6話のレビューをお届け。(文・ばやし)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 感想 レビュー】
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尾碕(稲垣吾郎)と健治(磯村勇斗)の意外な繋がり
第6話の冒頭で明らかになったのは、健治(磯村勇斗)の父・誠司(光石研)と濱ソラリス高校の理事長・尾碕(稲垣吾郎)の関係性。ふたりは20年以上前、同じ学校の教壇に立っていた。
誠司は妻を亡くしてからの慌ただしい日々のなかで、長男である健治をどう育てればいいのかわからずに困り果てる。彼がガラッと変化した環境に翻弄されているのは伝わってきたが、それは健治にとっても同じこと。ただ、健治を遠ざけたことを後悔している様子から、彼自身、ずっと後ろめたい思いを持っていたのかもしれない。
一方で、尾碕ものっぴきならない事情を抱えているようだ。これからも現場で教師を続けていきたいと誠司に語っていたにもかかわらず、兄が事業で失敗した煽りを受けて、学校を立て直すために運営側に周ることに。
「来年、結婚したらその人気も終わりかもしれませんけどね」という呟きも意味深だった。ふたりとも健治とは微妙な距離感であるだけに、今後の展開が気になるところだ。
そして、微妙な距離感で言えば、夏合宿以降の健治と珠々(堀田真由)のふたりの仲も波打っている。終始、ソワソワする健治と「ムムス」が口癖になりつつある珠々。多くの学生たちが集う物語のなかでも、いちばん青春を謳歌しているのは彼らなのではないかと思うほど、初々しいやりとりが映し出されていた。
とんでもないタイミングで珠々に感謝を伝えて、ホワホワと去っていく健治を観ていると「急がなくていいよ、少しずつでいいから」と伝えてあげたくなる。同僚の山田(平岩紙)がふたりを見るときと同じような表情で。
カンニング行為は学力重視社会だからこそ起きる?
「カンニングの罪深さはテストという存在自体の罪深さに内包される気もします」
そう、健治が教壇に立って語り始めたのは、北原(中野有紗)がスクールロイヤーである健治に相談しにきたことがきっかけだった。彼女は予備校の一斉模試で、同じ議長団の有島(栄莉弥)がカンニングをする瞬間を目撃してしまう。
法的なトラブルの種があると感じた健治は、同僚の教師たちに相談。実際にカンニング行為は、偽計業務妨害罪に該当するケースもあり、日本と同じように学歴重視の傾向が強い韓国や中国でも多発している問題だった。
しかし、そんな学歴社会に対して健治は一石を投じる。ほわんと温かみのある学び。優劣を測るだけの鋭敏なものさし。健治らしい言葉で語られる素直な疑問は、物語の世界をすり抜けて、現実世界の私たちにも届く。
実際、今の社会ではいつまでも「スキルアップ」や「自己研鑽」を求められる。受験を終えてからも、果てのない試験が人生単位で待ち受けている。この世界の当たり前だと勝手に思っていたことを、健治はいつもきょとんとした顔で問いかけてくれるのだった。
根元にあったのは教育虐待
直接的な暴力を振るわれていなくとも、人の尊厳はいとも簡単に傷つけられる。有島の家庭で起こっていることは、まぎれもなく「虐待」だ。
その根元には父親のハラスメントがある。しかし、彼が教育虐待をまったく自覚していないことは誰が見ても一目瞭然。有島がここまで追い詰められてしまった理由を知り、胸が痛んだ。
有島の動揺や心身の異常が視聴者にも伝わるほど、彼のぼんやりとした視界の先にあったのはスクールロイヤー室。しかし、彼が駆けこんだ空間では、天文部として活動する高瀬(のせりん)や斎藤(南琴奈)がキラキラとした表情で今後の進路を語っていた。
自らの決めた夢にまっすぐ純粋に進んでいこうとする同級生たちの話を聞いてしまったとき、有島はどんな思いを抱いただろうか。もしかしたら、これまでの生き方をすべて否定されたような気持ちになったのかもしれない。
彼の言い分は江見(月島琉衣)からハッキリと言い返されてしまうが、有島の苦しみも痛いほどわかる。テスト前の健治の言葉が耳に残り、咄嗟に救いを求めた場所で、自身の言葉を真っ向から否定される。
ただ、そんな出来事があっても、好きだったバスケも辞めてしまった彼にとって、父親が言う医学部合格は最後の拠りどころでもあったのだ。
根本的な解決には至らなくとも、せめて今夜だけでも――。
世の中では程度の違いはあれど、果てなき努力の末にもぎ取った成功が常に称賛の声を浴びせられていた。
近年、いきすぎた指導や人の自尊心を傷つける言葉はハラスメントとして指摘されるようになったが、教育現場においてはどうだろう。受験の結果によって、それまでの過程が紙一重で美談に擦り変わる。その奇妙なロジックは、今もなお現実に蔓延っている。
久留島(市川実和子)が言うように、根本的な問題はまだ何も解決していない。それでも、今の有島に必要だったのは、仲間といっしょに思いきり空気を吸い込むことだった。
最後に映し出されたバスケの場面では、その場にいた北原だけでなく、鷹野(日高由起刀)と斎藤の姿も見えた。ふたりが現れた理由は特に説明されなかったが、きっと有島が心配で駆けつけてきたんだろう。あえて経緯を描かないところにも、このドラマが視聴者を信頼している姿勢が伝わってくる。
久留島の言葉を受けて、健治は「今夜だけでも、さいわいがあるように祈りたいです」と精一杯に絞り出す。その願いが叶ったかどうかはわからない。ただ、仲間たちと全力でバスケを楽しむ有島は劇中で初めて、心から笑っているような気がした。
【著者プロフィール:ばやし】
ライター。1996年大阪府生まれ。関西学院大学社会学部を卒業後、食品メーカーに就職したことをきっかけに東京に上京。現在はライターとして、インタビュー記事やイベントレポートを執筆するなか、小説や音楽、映画などのエンタメコンテンツについて、主にカルチャーメディアを中心にコラム記事を寄稿。また、自身のnoteでは、好きなエンタメの感想やセルフライブレポートを公開している。