虐待の連鎖に涙…尾碕真花“夢乃”と林遣都”蔵田”が共鳴したワケ『明日はもっと、いい日になる』第7話考察&感想【ネタバレ】

text by 古澤椋子

福原遥が主演を務める月9ドラマ『明日はもっと、いい日になる』(フジテレビ系)が放送開始した。本作は、児童相談所に出向となった刑事が、こどもたちとその親と向き合い、ともに成長していく姿を描いた完全オリジナルストーリーだ。今回は7話のレビューをお届けする。(文・古澤椋子)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
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夢乃の過去に蔵田が共鳴する

『明日はもっと、いい日になる』第7話©フジテレビ
『明日はもっと、いい日になる』第7話©フジテレビ

 安西夢乃(尾碕真花)の過去に蔵田(林遣都)が共鳴する。『明日はもっと、いい日になる』第7話では、親から子へ悲しい連鎖が描かれた。

 第7話では、継続して描かれていた夢乃の事情が深く描かれる展開となった。ところどころ悪そうな男性と会っている描写があった夢乃。匿名・流動型犯罪グループ=トクリュウと関わりがあるのではないかと疑いをかけられてしまう。

 それを刑事時代の梶(西山潤)から聞いた翼(福原遥)の反応は、夢乃を庇うものだった。児童相談所に来た頃は、疑わしきは悪とでもいうような正義感を振りかざしていた翼が、夢乃を咄嗟に庇ったのだ。自分の正義感に振り回されずに、人を見つめることができるようになりつつある証拠だろう。

 夢乃の自宅を訪れた際にも、部屋の中を見て夢乃の内面の変化に思いを寄せていた。「変なことに巻き込まれていませんか?」という質問も含めて、夢乃への寄り添いがみえる。最初に安西親子と出会った時とは比べ物にならないほど、夢乃を1人の親として向き合っているのが感じられた。

罪を背負いながらも母であろうとした尾碕真花“夢乃”

『明日はもっと、いい日になる』第7話©フジテレビ
『明日はもっと、いい日になる』第7話©フジテレビ

 翼が心配した通り、夢乃は犯罪に巻き込まれていた。トクリュウのリーダー・我孫子(遠藤雄弥)と唐木(津村知与支)から脅され、ぼったくりバーに男性を連れていくデート商法に手を染めていたのだ。我孫子からすれば、夢乃は下っ端であろうが、彼女が口を割ればトクリュウもろとも警察に捕まってしまう。

 口止めされた夢乃は、捕まらないために身を隠すことと子どもたちと暮らすためにプログラムを進めることとの間で葛藤することに。夢乃自身も自分の身を守るために必死なのだ。

 追い詰められ、警察から逃げる彼女の頭には、親として子どもたちにかけた言葉が脳裏をよぎる。「逃げちゃいけない」「悪いことをしたら謝る」。親という役割を必死に務めてきた過去の夢乃が自分を救ったのだ。最終的に助けを求めたのは翼だった。出会いは険悪だった2人。向き合い寄り添った翼の言動が夢乃の心を開いたのだ。

 過去にネグレクトをしていたとしても、いいお母さんになりたいと必死に変わろうとしていた夢乃を信じたいという翼の思いが、最終的に夢乃を救いあげた。翼の児童福祉司としての数ヶ月の努力が結実した瞬間には、心を打たれた。

報われぬ愛と虐待の影

『明日はもっと、いい日になる』第7話©フジテレビ
『明日はもっと、いい日になる』第7話©フジテレビ

 夢乃の言葉から、自身もネグレクトを受けていたということが明らかになった。母親に疎まれ、叶夢(千葉惣二朗)と奏夢(小時田咲空)のように水道が止まり、食料のない部屋でなんとか生き長らえていたのだ。そして、彼女は児童相談所に救われることもなく、高校生に。そこで出会った男性・小山内亮(杢代和人)と結婚するも、亮も家庭を捨てて出て行ってしまった。気づけばネグレクトをしていた母のように、子どもたちを放置し、ひどい言葉をかけて死にかけさせてしまう。

 子どもができて結婚を決めた時、夢乃は幸せの絶頂だっただろう。自分の母のようになるなんて微塵も思っていなかったはずだ。悪い会社に縋り、必死に仕事をして、金を稼いでいるうちに、理想の母親像から遠のいていってしまったのかもしれない。

 人は親になる時、自分の親をモデルか反面教師にするしかない。夢乃は自分の親を反面教師にしたかったはずなのに、必死に生きるうちに母親のようになってしまっていた。その現状を前に、自分に親は無理だと諦めの気持ちも生まれてしまう。「ねえ、親ってどうやんの?幸せって?家族ってなに?」という夢乃の素朴で切実な問いからは、夢乃の中に残る母から受けた虐待の根深い傷が感じられる。

 そんな夢乃に心からの共感をみせたのは、蔵田だった。蔵田自身も虐待を受け、施設と一時保護所を行ったり来たりしたのち、里親に引き取られていた。ふとした時に心の傷がうずき、家庭を持つのが怖いという。虐待をした親の血を引いている以上、虐待をしてしまうのではという不安がよぎったと、夢乃に語りかける。

 蔵田は、感情を爆発させるというよりは凪の状態でとうとうと過去を語っていた。常にその思いと共に生きてきたことが分かる語りであった。虚空を見つめるような蔵田の瞳からは、何十年と抱えてきた悲しみと不安が感じられた。さまざまな作品で繊細な演技力を評価されてきた林の真骨頂ともいえるシーンだった。

 これまで子が親を思う気持ちを丹念に描いてきた本作。今回は、子から親への無償の愛が報われることなく、大人になってしまった人物の苦しみを丹念に描いた内容だった。虐待の連鎖を止めるためにも、誰かがどこかで適切に手を差し伸べなければならない。そして、被虐待児は自分の苦しみを認め、自分を抱きしめて癒すことが必要なのだろう。

【著者プロフィール:古澤椋子】

ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。

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