月10ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』主演・杉咲花× 監督対談インタビュー
杉咲花主演の月10ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ・フジテレビ系)がいよいよ今夜スタートする。本作は、“記憶障害の脳外科医”という前代未聞の主人公が、目の前の患者を全力で救い、自分自身も再生していく新たな医療ヒューマンドラマ。この度、主演・杉咲花とYuki Saito監督の対談インタビューが到着した。
手術シーンから小道具の日記まで
2人が追い求めたリアリティ
Q.『アンメット』という作品に出合ったときの印象を教えてください。
杉咲「脳の疾患には後遺症がつきもので、手術をして終わりではなく、その先の人生にも医者たちが思いを馳せるという、原作者の子鹿先生ご自身の経験に基づくメッセージがとても印象的でした。一方で、医療の話にとどまらず、患者を救う側の医者も、誰かに救われたい瞬間があるという一人一人の生活者たちの物語でもあって、暮らしの手触りを感じられる作品だと思いました」
Yuki「確かに『アンメット』は、最初から伝えたいことがストレートに伝わってくる作品で、患者さんやその家族、さまざまな局面において、普段光が当たらない人にもちゃんと光を灯す。それが、子鹿先生が『アンメット』を通して伝えたいことなんだなと思いました。原作と違い、ドラマではミヤビが主人公ですが、彼女もまたすごい女性で、自分も脳に障害を抱えていて思い悩むことがたくさんあるはずなのに、それを人に見せない、明るい印象しかないキャラクター。朝起きて、忘れている2年分の記憶を2時間で自分の中にインプットして、それであの笑顔に至っていると思ったら、その部分は僕もすごく見たいと思ったし、そこにこそドラマが生まれると思いました」
杉咲「ミヤビは、誰にでも対等に向き合う人。それは記憶障害を抱えているからということではなく、なんというか、先天的にフェアな人なんだと思うんです。そのとき目の前にいる人と同じ目線に立って、陽だまりのような光で包み込んでしまう。例えば、この作品の中で三瓶先生はちょっと変わった人物として捉えられることもありますが、ミヤビは決してそんな風には思っていないのではないかと思うんです。物事を否定的に考えることをしない、彼女だけの独立したリズムを持った人なんじゃないかなって」
Yuki「そういう意味では、花ちゃんと似ているところもあるよね。言葉を借りるなら、先天的にフェアなところ。立場やポジション関係なく、同じ目線で向き合えるところは2人の共通点だと思うし、あと、明るく現場にいてくれるところ。ミヤビは苦悩を人に見せないけれど、花ちゃんも緊張や心の揺れを現場では決して見せない。朝、現場に入ったら笑顔で『おはようございます!』と言ってくれる感じが、すごく似ていると思います。だからこそ、現場に来てくださった子鹿先生も、花ちゃんのお芝居を見て『ミヤビにしか見えない』と言ってくれんだと思います」
杉咲「子鹿先生のそのお言葉は、本当にすごくうれしかったです」
Q.撮影現場では、俳優陣とスタッフで日々ディスカッションが行われているそうですね。
Yuki「実は、クランクイン前からかなり濃密な話し合いを重ねています。2023年の9月くらいからですかね。杉咲さんと首脳陣が頻繁に集まって、ご飯とかスイーツタイムを挟みながら、全体の構成から脚本のことまで8時間くらいのミーティング(笑)。僕の経験上、連続ドラマでこんなに長い時間かけて意見交換をしたのは初めてです。でも、プロデューサーと杉咲さんが話していることを聞いているだけでも方向性が見えてくるし、それを踏まえて自分もいろいろなプランを考えられるので、あの時間はとても貴重だったし、その後の撮影にも大きな影響を与えてくれたと思います」
杉咲「今も、現場ではほとんどのシーンで議論が生まれていて、制作サイドと俳優部といった垣根を越えたところでそれぞれの意見を共有して、より物語を煮詰めていく時間が日常的に流れています。それができるのも、去年から皆さんと積み上げてきた関係性があってこそだと思いますし、なによりこの作品に関わる人間の熱量が並々ならないから。ドラマ撮影というタイトなスケジュール感で、ここまで感覚をすり合わせられることはなかなかないですし、一人一人の覚悟がそういった時間を生んでいると思うので、やっぱりやりがいがあります。とはいえ、細かいところまで突き詰めて話し合ってきた分、頭ではわかっているけれどそこに心が着地しない瞬間もあったりして。文字を追いかけながら想像をめぐらせて話し合うのと、実際に肉体を通して現場に立つのはまったく感覚が違うので」
Yuki「ある種、プロデューサーや監督の目線に近いのかもしれないね。作品全体を見るのと、自分自身がミヤビを演じるのはやっぱり違うと思うし。花ちゃんはその両方が見えていて、ミヤビをどう見せたいのか客観的に分かっているから、いざ演じてみると、そのギャップが生まれるのかも」
杉咲「実際に現場に立つと、脚本を読んでいたときには想像もしなかった事態が起こるというか、例えば三瓶先生が目の前に立っているだけでどうしようもなく心が動かされてしまって、こんな感覚になるんだという気づきがあったりもして、それがすごく面白いんです。それは、これまで何度も共演してきた若葉(竜也)さんが三瓶先生を演じているからということもあるのかもしれませんが、今回の現場ではそんなことがあまりに連発するので。不思議な体験ですし、特別すぎる時間だなって」
Yuki「それは僕も同じで、所詮、僕が台本を読んで考えていたことなんて、ある種机上の空論で、現場で生身の人間がお芝居を始めたら、簡単に、いい意味で裏切られるんです。だからこそ、演じている人、役を生きている人の意見は強いと思っています。昔、アメリカで尊敬している先生に「Listen to the actor」——俳優が自分に言ってきたことは聞きなさい、聞く耳を持てる監督になりなさいと教わって、それを今でも実践するようにしているんです。だから、『アンメット』で到達したいところ、ゴールさえ同じ方向を向いていれば、俳優でもスタッフでも、自分の考えや意見を言葉にしていいと思うし、その方が僕自身も楽しい。そして、今の『アンメット』の現場はそれができていて、それこそが我々の最大の強みだと思っています」
Q.手術シーンに向けた練習も大変だったのでは?
杉咲「2023年の10月頃に監修で入ってくださっている石川先生に、実技も含めた医療の基礎的な知識を教えていただきました。その際に練習用のキットをいただいて、毎日練習を続けています。所作にはその人の暮らしが映るものだと思いますし、やっぱり観てくださる方々に『ここまでやるのか』と思ってもらいたいんです。いつ自分の手元が映っても大丈夫なレベルまで上達したい気持ちで、今も取り組んでいます」
Yuki『脳外科の手術の難しさはあらかじめ聞いていたので、当初、手元はカットを分けて、花ちゃんと別で撮影しようと思っていたんです。でも、『それは挑戦してから決めてほしい』とご本人に言われて、最初からあきらめていた自分にハッとしました。実際にミヤビの手元で撮影すると、やっぱりリアリティが生まれるし、その緊張感と連鎖するように、手術を見守っている三瓶先生たちの表情も変わってくるんです」
杉咲「そう言っていただけるとうれしいですね。ミヤビが見ている景色、小さな小さな世界のなかでどれだけ繊細なことをやっているのかということが、映像を通して少しでも伝われば」
Yuki「実際、医療指導の先生たちも花ちゃんの腕前には驚いているんです。『研修医でもなかなかできる人いないよね』って」
杉咲「先生方が親身に教えてくださるので、本当にありがたいです。ですが、10月に初めて縫合練習を体験したとき、3時間ほどかけてやっと感覚を掴めるようになったその横で、若葉くんは開始5分くらいで既に習得していました。若葉くんの方がよっぽど器用!この間も、縫合とはまた違う吻合(ふんごう)の練習をしていたら『ちょっとやらせて』と言われて、まさかと思ったら若葉くん、初めてやったのにできちゃったんですよ。あれは結構ヘコみました(笑)」
Yuki「……たまたま、この現場に器用で優秀な俳優が2人いたということですかね(笑)」
Q.この作品のキーアイテムである日記も、杉咲さんの直筆だとか。
杉咲「日記は、朝目覚めたミヤビがいちばん最初に手に取るもので、読み返すところから1日が始まり、ミヤビにとっては命綱のような存在なのではないかと思うんです。だからこそ、彼女が過ごしてきた時間をよりそばに感じられるように、自分で書かせてもらいたいですとお願いしました。実際に書いていて間違えたところは修正テープで消したりもしているので、リアリティのある日記になっているのではないかと思います」
Yuki「日記は作品の副題にもあるくらいのキーアイテムですし、『書く作業だけで相当な負担になるよ』とは伝えたんですけど、『それでも気持ちが入りやすいから』とのことだったので、お言葉に甘えてお願いしました。通常は、一部本人が書いたとしても、残りは助監督や美術部のスタッフが書くものなんですが、今回はすべてミヤビ本人の字で統一されているため、結果的に、朝起きてパラパラ…と日記をめくったときでも違和感ひとつなく、お芝居も撮影も自由度が増しました」
杉咲「ミヤビは、日記に対してかなり緊張感を持っていると思うんです。私たちも、撮影の順番に合わせて日記の中身をその都度整理しながら進めているので、その緊張感はミヤビとシンクロしている感じもしていいなって。日記を持っていると、より気が引き締まります」
Yuki「確かに、台本に“日記”の文字があると、現場にも緊張感が漂いますね。ただでさえ、俳優の皆さんが緊張している現場だというのに(笑)」
杉咲「本当に、この現場の緊張感はちょっと異質ですよね。私もあるシーンの撮影中、録音部さんが来てマイクの位置を変えることになったのですが、後から聞いたら『心臓の音が聞こえるから位置を下げた』と言われたんです。普段から緊張するタイプではあるのですが、そんなことは初めてで。ですが私だけではなくて、本番中はほとんどの俳優が緊張しているように感じるんです。その緊張は1人1人の責任や覚悟から生まれるものだと思うのですが、それだけナイーブに物語と向き合っているからこそ、突き抜けたところへ行ける瞬間がやってくるんだ、と救われたような気持ちになりました」
Yuki「皆さん、ものづくりへの意識がストイックなんです。決して現場の空気がピリピリして嫌なムードなわけではなく、むしろ穏やかなんですけど、和気あいあいとはしていない。“楽しい”ではなく“充実している”という表現が当てはまる感じです。ミヤビと三瓶に『いいものを作るぞ』という覇気があるので、それがいい意味で、現場にいい緊張感を生んでるのだと思います」
Q.最後に、見どころをお願いします。
Yuki「原作の子鹿先生が元脳外科医ということもあり、『アンメット』は医療に対してすごくリアリティがある作品です。なので、そこは原作に忠実に、医療従事者の方が見たときに、医療を真摯に扱っていることが伝わるように、ある種ドキュメンタリーを作り上げるような気持ちで臨んできました。特に手術シーンは、僕と杉咲さんと若葉くんで実際の手術を見学させてもらったときに感じた独特の空気感、緊張感をどこまで伝えられるかという点にこだわって撮影し、実際に目標地点まで到達するものが完成したと思っています。日本のドラマは国内向けと言われる今の映像業界で、海外ドラマや映画とも肩を並べる作品を作りたいと思って臨んだ作品でもあるので、視聴者の方には新感覚の医療ドラマを心ゆくまで楽しんでいただきたいですし、この『アンメット』で世界への扉を開けたらうれしいです」
杉咲「監督がおっしゃる通り、本作では脳外科医の日常とそこに関わる人々の心のうごめきに手触りを感じられることを目指して、日々撮影に臨んでいます。この作品を見て、医療従事者の方々に『知ってる景色だ』と思ってもらえるものにしたいですし、患者さんやその家族など、描かれるそれぞれの人物に自分の姿を投影してもらえるような作品をこの先も目指していきたいです」
【杉咲 花】
1997年10月2日生まれ、東京都出身。映画『湯を沸かすほどの熱い愛』で第40回日本アカデミー賞最優秀賞助演女優賞と新人俳優賞をダブル受賞。ヒロインを務めた連続テレビ小説『おちょやん』をはじめ多くのドラマや映画に出演。映画『朽ちないサクラ』が2024年6月21日、『片思い世界』が2025年に公開予定。
【Yuki Saito】
1979年生まれ。高校卒業後に渡米し、ハリウッドで8年間映画を学ぶ。2016年に映画『古都』で商業長編デビューを果たす。近年は、映画『君が落とした青空』、テレビ朝日『おっさんずラブ―リターンズ―』『リエゾン―こどものこころ診療所―』などを監督。
【4月15日(月)放送 第1話あらすじ】
1年半前、不慮の事故で脳を損傷した脳外科医の川内ミヤビ(杉咲花)は、過去2年間の記憶をすべて失い、新しい記憶も1日限り、寝て起きたら前日の記憶がなくなってしまう記憶障害に。毎朝5時に起きて机の上の日記を読み、失った記憶を覚え直すことから1日が始まる。現在は、関東医科大学病院脳神経外科の教授・大迫紘一(井浦新)の治療を受けながら、記憶をなくす前の研修先だった丘陵セントラル病院に勤務しているが、医療行為は一切行わず、看護助手として働いている。
そんなある日、アメリカ帰りの脳外科医・三瓶友治(若葉竜也)が新たに着任し、ミヤビが院内を案内していると、急患が運び込まれてくる。患者は女優の赤嶺レナで、検査の結果、脳梗塞と判明。夫でマネージャーの江本博嗣の同意を得て、すぐさま治療が行われることになり、三瓶はミヤビにも手伝うよう指示するが、看護師長の津幡玲子(吉瀬美智子)がそれを制止。三瓶は、治療後、救急部長の星前宏太(千葉雄大)から、ミヤビが記憶障害であることを聞かされる。
治療を受けたレナは目を覚ましたものの、言葉を出すことがほとんどできず、後遺症による失語症と診断。女優として絶望的な状況を目の当たりにしながら、何もできない自分にミヤビは葛藤する。そんなミヤビに、三瓶は記憶障害のことを知った上で、「人手が足りないんだから、できることはやってもらわなきゃ困る」と言い放ち、ミヤビにも医師として診察や診断をさせるよう、院長の藤堂利幸(安井順平)に直談判して…
【作品情報】
タイトル:『アンメット ある脳外科医の日記』
放送枠:2024年4月15日スタート 初回15分拡大 毎週月曜よる10時(カンテレ・フジテレビ系全国ネット)
出演:杉咲花 若葉竜也 岡山天音 生田絵梨花 山谷花純 尾崎匠海(INI) 中村里帆 ・ 安井順平 野呂佳代
千葉雄大 ・ 小市慢太郎 酒向芳 吉瀬美智子 井浦新
(1話ゲスト)風間俊介 中村映里子
原作:子鹿ゆずる(原作)・大槻閑人(漫画)
「アンメット-ある脳外科医の日記-」 (講談社「モーニング」連載)
脚本:篠﨑絵里子
音楽: fox capture plan
主題歌:あいみょん「会いに行くのに」(unBORDE/Warner Music Japan)
オープニング曲:上野大樹「縫い目」(cutting edge)
演出:Yuki Saito 本橋圭太
プロデューサー:米田孝 本郷達也
制作協力:MMJ
制作著作:カンテレ
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