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「みんなの意識が変わった」『アンメット』のターニングポイントになった神回

Yuki Saito監督
写真:武馬怜子

―――タイトなスケジュールで進むドラマの現場で、役者さんの感情が役とシンクロするまでじっくり待つという選択はおいそれと出来ることではありませんよね。特に、一人芝居で涙を流すシーンは、演者さんにかかるプレッシャーも相当なものだと想像します。

「次の日、杉咲さんにその話をしたら『わかるなぁ。龍乃介くんも辛かっただろうなぁ』というようなことを話していて。その日は、亮介とミヤビがサッカーボールを蹴り合った後に、お互い横並びに座って対話をするという2話のクライマックスの撮影があったのですが、杉咲さんは『お芝居がしやすいように、本当に疲れるまでパス交換をしましょう』と提案してくれて。カメラを回せる限界が約40分だったので、杉咲さんから『30分間、パス交換をしてから亮介に話しかけるので、残りの数分で会話シーンを撮ってください』と言われたんです」

―――なんと…。あのシーンは、約40分ぶっ通しのワンカット撮影だったのですね。Yuki監督も杉咲さんの提案に驚かれたのではないですか?

「打診されたときは驚きましたね。でも、今回、そういう挑戦的なことを面白がってくれるスタッフが奇跡的に集まっていて、すぐに『よし、やろう!』と。このシーンは、2人が自由に動けるように照明を組んで、2カメにして、泥んこになりながらずっとパス交換をして、疲れて壁にもたれて2人が対話をする、この一連の流れを1カットで撮ることができました。そういう撮り方を採用したことで、亮介が心の中に溜めていたものが、自然とぶわっとこみあげてきたんです。それはやっぱり作り物じゃなくて、本物の涙なんです」

―――あのシーンは、亮介役の島村さんの感極まった表情が印象的に映されていました。また、杉咲さんの受けのお芝居も素晴らしいと思いました。緊迫感のある場面になったのは、杉咲さん提案の撮影スタイルに拠るところが大きかったのですね。

「島村くんのあの涙は杉咲さんと対峙したからこそ出てきたものです。役者同士がちゃんと向き合えるような環境を整えることができれば、“芝居を超えた芝居”を捉えることができるんだなって。勉強になりました。

その日の帰り道は、『自分がこれまで撮ってきたものって何だったんだろう』とすら考えました。そのくらい凄まじいものを目の当たりにしたなと。今でもスタッフと振り返るんですが、2話が1つの山場だったと思います。“挑戦する”という共通意識がより明確化したと言いますか、皆の意識が変わったターニングポイントでした。

『アンメット ある脳外科医の日記』(以下、『アンメット』と表記)を観た方から『まるでドキュメンタリーのようだ』という感想をよくいただくのですが、それは俳優を信頼して、自由に動いてもらうことで、自然に生まれたものを捉えることができたからだと思っています」

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