「あの糸で吻合したのは未だかつて若葉竜也しかいない」
医療監修の先生を驚愕させた若葉竜也の神業
―――杉咲さんと若葉さんが実際に吻合の練習をされているというお話も、他媒体のインタビューで明かされていましたね。
「そうです。二人とも練習を重ねて、実際に吻合(ふんごう。本来分離されている2つの臓器や内腔を互いに連絡すること)をしています。
5話で描かれたミヤビが手羽先で練習をするシーンも彼女が実際にやっています。最初は、専門家の方から『実際にやるのは難しい』と言われていたけど、可能になったのは、杉咲さんの努力の賜物です。
だから僕らスタッフ陣も、(実際にやっているということを)視聴者の皆さんにちゃんと伝えなければいけないという意識で演出に臨みました。手羽先からみやびにパン(カメラを固定したまま、フレーミングを水平方向や垂直方向に移動させる技術)することで、杉咲さん本人が本当にやっていると伝わるように映しています」
―――編集でごまかす、という手段を取らなかったのですね。
「そうです。演出的にはミヤビの見ている景色を届けようと、顕微鏡にカメラをつけて撮っているので、言ってしまえば、手の動きは監修の先生にお任せしてもいいわけです。でも杉咲さんは『私がやる』と。その覚悟には本当に恐れ入りました。
しかも、顕微鏡にカメラを付けているので、杉咲さんは顕微鏡を直接見ることができず、カメラが映し出した映像を見ながら作業をすることになる。実際の動きと映像には1秒くらいのタイムラグがあるので、普通に作業するよりも難易度は高いんです。それでも、杉咲さんは『やりづらい〜』と言いながらも、最後まで完璧にこなしてくれました」
―――とんでもない集中力ですね…。三瓶先生がメスをふるうシーンも多かったかと思いますが、手術シーンにおける若葉竜也さんのお芝居はいかがでしたか?
「そこに関して、是非多くの方に伝えていただきたい話があるんです。第10話で、三瓶が吻合の糸を結ぶところがアップで映るシーンがありましたよね。あれは“11-0”(直径0.010 〜 0.019mm)っていう、実際の医療現場で使われている極細の糸で、わざわざ海外から取り寄せました。
ミヤビの脳障害の原因があるノーマンズランド(メスを入れてはいけない部分)の奥底にある0.5ミリの血管を吻合する設定なので、それぐらい細い糸じゃないといけませんでした。おそらく、世界広しといえども、あの糸を使って実際に吻合に成功した俳優は、未だかつて若葉竜也しかいないはずです」
―――おお~! 井浦新さん演じる大迫教授によると、あの手術が出来る人は世界でも数人しかいないというお話でした。
「そうです。最初はさすがに僕も『若葉くん、この細さの糸を実際に結ぶのは無理でしょ?』と言ったら、若葉くん本人も『いくらなんでも(実際にやるのは)無理』と言っていて(笑)。それを聞いて『わかりました』と。ただ、結べるわけはないけど、一応チャレンジしてみようと伝えて。たとえ結べなくても実際にやっている姿を撮るのが大事だと」
―――なるほど。でも蓋を開けたら…。
「テストで“11-0”の糸を結ぼうとしている若葉くんの背中を撮っていたら、彼が突然、医療監修の先生に向かって『先生、結んじゃったかもしれない』って言い出したんです(笑)。場が騒然としました」
―――プロでも結ぶのが困難なほど細い糸を結んでしまったのですね…すごい。
「先生が実際に確認したら『結べてます』って。いつもは、『すごーい!』って褒めてくれる優しい先生なのに、その時ばかりは、『マジかよ…俺たち(脳外科医)ってなんなんだよ』って茫然としてました」
―――プロから見てもありえないほどの神業だったと。
「まさか出来るなんてみんな考えてないから。事前に入念に打ち合わせをして、それに合わせた演出を考えていたのに、なんとテストで出来ちゃった。時間はないけど、『だって若葉竜也が結べちゃったんだもん。やるしかないでしょ!』というワケで、『頭おかしいよ、このチーム(笑)』なんて軽口叩きながらも、撮ることにしたわけです(笑)。
ただ、超極細の糸なので、それを映すとなるとカメラが寄りすぎちゃうので、ミクロレンズで撮って、それをさらにポストプロダクション(撮影後に行う編集作業)でもグッと寄って。あの画だけでは伝わらなかったかもしれませんが、間違いなく若葉竜也本人がやっています。配信などで見直していただく際は、ぜひ注目してほしいです」